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クリニック収入分析はじめの一歩 コレを見落としてはいけません

グラフイメージ

収入分析はどのような事業にあっても、だいじな視点です。
クリニックにおける収入分析のポイントについて考えます。

目次

「1日あたり収入」でみていますか?

毎月の経理処理の結果として「月次試算表」があります。
月次試算表をイメージで言うならば、「毎月版の決算書」といったところです。

多くの場合、月次試算表は顧問税理士事務所を通じて手にすることと想像します。
もし、税理士からの説明が「月次試算表」の数値に限られるならば、
もう一歩踏み込んだ確認をしておくことをおススメします。

ほんとうに見ておきたいものは、月次試算表の中だけにあるわけではありません。
踏み込むべき点はいくつかありますが、今回は「1日あたり収入」について。

「その月の診療分」という考え方

まずは計算式から。

1日あたり収入 = その月の収入総額(円) ÷ その月の診療日数(日)

文字どおり、診療日1日あたりの収入金額がいくらか、ということをあらわします。
ぜんぜん難しいことではないのですが、取扱いに注意するところがります。

大前提として、算式中の「収入総額」は、「その月に診療した分」の収入額です。
あたりまえじゃないか、と思われるかもしれませんがそうでもありません。

これまで拝見した月次試算表の収入総額が「その月の入金額」だったということもあります。
これでは業績のただしい判断ができません。

この点、クリニックの保険診療収入の例で説明します。

患者が医療機関で診療費を支払う場合、自己負担の割合にはいくつか種類があります。
ここではその割合を3割とします。

たとえば診療費総額 3,000円 → 患者の負担分(窓口での支払い)3,000円×30%=900円

患者が窓口で支払う900円を除く2,100円は、およそ翌々月に入金になります。
これは「国保連」や「社保支払基金」などと呼ばれる、いわゆる社会保険からの入金ですね。

医療機関に慣れていない税理士事務所ですと、この「翌々月の入金予定額」が計算できていないことがあります。
上の例でいう「2,100円」を算出するにはちょっとしたコツがいるからです。
ちなみに、「900円」のほうは実際にお金が動きますので慣れていなくてもわかります。

もし、「翌々月の入金予定額」が計算できていない場合にはおかしなことになります。
月次試算表の収入金額は「その月の患者負担分+2か月前に診療した分の社会保険入金額」となっていることでしょう。
「実際の入金額」だけで処理していると、「その月」と「2か月前」の数字が混在してしまいます。

「レセプト総括表」などから、ただしく「その月の収入総額」を計算するようにしましょう。

クリニックには、いまお話しした保険診療収入のほかに、自由診療収入もありますが考え方は同じです。
その月の業績を見る際、収入金額のベースを「入金額」ではなく、「その月に診療した分」にあわせることです。

税理士などは専門用語として、前者を「入金主義」、後者を「発生主義」などと言っています。
くりかえしになりますが、ただしい判断に必要なのは「発生主義」です。
いままで確認したことがなければ、「ウチは発生主義だよね?」と顧問税理士にたずねてみましょう。

収入総額で一喜一憂しないように

クリニックは診療日以外には原則、診療収入がありません。
またあたりまえのことを、という感じですがこれはとても重要なコト。

毎月同じように診療をしていても、診療日数が違えば毎月の診療収入額は「けっこう」変化します。
それは、収入総額だけを比較していると状態を見誤る、ということでもあります。

たとえば、「暦の関係で前年よりも休診日が多いケース」を考えます。

2015年5月 診療日 20日
2016年5月 診療日 19日
※1日あたりの収入金額は両年とも30万円とする

このとき、収入総額は

2015年5月 診療日 20日 × 30万円 = 600万円
2016年6月 診療日 19日 × 30万円 = 570万円

2016年は5%の減収ではありますが、1日あたりの収入金額は変わっていません。
収入総額だけを見て、「患者が減ってしまったのではないか」というような心配は「見当違い」になります。

かんたんな話ではあるのですが、月次試算表の収入総額だけを見て話していると、このような見当違いな話は「意外と」ありえますので注意が必要です。

そして、要注意なのは次のケース。

2015年5月 診療日 20日 × 30万円 = 600万円
2016年6月 診療日 22日 × 28万円 = 616万円

もうわかりますね?
「前期比増収だー!」などと喜んでいてはいけません。
わかるのは、2016年は診療日数の多さに助けられたカタチだということ。
やるべきことは、「1日あたり収入」である30万円と28万円をさらに細分化しての分析です。
これについては、機会をあらためることにします。

月次試算表を語る顧問税理士事務所としては、暦による診療日数の違い以外にも、「院長先生の学会参加による臨時休診日」などにも気を回しておきたいところです。
「先生、少し休みすぎじゃないですか」なんて言ってしまいませんように。

リスキーだからこそ「1日あたり」をたいせつに

このように「1日あたり収入」を重要視するところに、クリニックの経営上の特徴があります。

「クリニックは診療日以外には診療収入がありません。」と上述しました。
別の言い方をすると、「院長先生が診療をしなければ診療収入はゼロ」。
医師は院長先生おひとりというクリニックでは原則、そういうことになります。

クリニック経営をビジネスとしてとらえるならば、これはとてもリスキーなビジネスモデルといえます。
医師である院長先生に何かあれば、ほかの誰にも医療行為はできず、収入はなくなってしまうのですから。

すこし乱暴な表現になりますが、たとえばバナシをします。
物販店であれば社長不在でもアルバイトが収入をあげることは「可能」です。
ですが、クリニックの場合には、それは法律上「不可能」です。

ところで、「開業医の高所得」はしばしば世間の話題にのぼります。
ときに「開業医の所得は高すぎる」との論調も混じるものとして。

そこでは、「人命」にかかわる高い専門性を有する仕事ととして、高所得の理由づけがなされることがあります。
理由を言うのであれば、リスキーなビジネスモデルを受容していることへの「見返り」も挙げられるべきです。

「1日あたり収入」は高いリスクへの「見返り」をはかる指標になります。
リスキーなビジネスモデルに関わる者として、クリニック自身も顧問する税理士事務所も、その指標はこだわって扱わなければいけません。

リスキーだからこそ、「1日あたり収入」をしっかり管理しましょう。

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  きょうの執筆後記
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昨日はオフ。朝から雨だったのでテニスレッスンもなく。
でかけるのもおっくうだったので、結局、半日はデスクワークをしていました。
夕方からは5kmのランニング。今月も合計100kmを目安に走ります。

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