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経営分析が役に立つ経理、経営分析が役に立たない経理

経営分析役に立つ?役に立たない?

ある人は言います、「経営分析は役に立つ」。またある人は言います、「経営分析は役に立たない」。

経営分析について対立する2つの意見、実はどちらも正解です。役に立つ場合もあるし、役に立たない場合もある。「それはなぜ?」をわかっていないと。

「役に立つと思っていたのに、役に立たない」経営分析になってしまうかも。

目次

問題の解決を求めて、経営分析をしてはいけません

経営分析に求める「役割」を間違えると、経営分析は意味をなくします。役に立ちません。経営分析の「役割」とは、「見つける」ことにあります。

経営分析の役割は、「見つける」こと

経営分析の大きな誤解のひとつに、「経営分析が問題を解決する」というものがあります。そのような誤解をしている場合、経営分析の結果に対する反応はこうなります。

  • へぇー、で何?
  • ふーん、でどうすればいいの?

経営分析それ自体に「で」はありません。経営分析の役割は、「課題を見つける」ことでもう終わりだからです。「で」と言う場合、経営分析の役割を、その先の「問題解決」と勘違いをしています。

「課題を見つける」とは簡単に言えば、経営分析指標の良し悪しを把握することです。さまざまな指標がありますが、時系列や他社比較の目で見て、自社の良い点・悪い点を見つけること。

経営分析にできること、経営分析の役割はここまでです。

繰り返しになりますが。「もっと良くするには、悪い点をなおすには?」とそのあとのことを考えるのは「問題解決」として別途すべきことになります。それを「経営分析」に押し付けて、経営分析の結果を非難するのはやめましょう。

「経営分析は役に立たない」と嘯く方に多い勘違いです。気を付けましょう。

経営分析が役に立たない経理

勘違いではなく、ほんとうに「経営分析の役に立たない経理」というのがあります。それは、「誰かのための経理」をしている場合です。

銀行のための経理、税務署のための経理は役に立たない

言うまでもないことですが。経理は本来、自分のためにあるべきものです。自社の業績をただしく把握する、そのための経理であるべきです。

税務署や銀行にも「決算書」を渡したりしますが、それを目的に決算書をつくっているわけではありません。自分のための経理をした決算書という結果を、渡しているにすぎません。

ところが現実には、税務署や銀行のための決算書だと言わざるを得ない経理もあります。合法かどうかを問わず、税金を少なくするため、利益を多く見せるためといった経理です。

そんなことを言うと、「経営の厳しさをわかっていない!」などと言われそうです。自分のための経理なんてやっても、税金は安くならないし、銀行はお金を貸してくれることはないんだ、と。

ですがあえて厳しいことを言わせていただけば。

そこまでして、税金を安くしなければいけない経営、お金を借りなければいけない経営の方に問題があります。

自分のための経理、ほんとうの自分の状態がわかる経理をしているからこそ、ただしい課題が見つかります。他方、ほんとうの自分の状態がわからない「税務署や銀行のための経理」からは、ただしい課題を見つけることはほとんど不可能です。

きれいごとだなんだと言われようとも。ただしい課題、問題解決の先にのみ、ほんとうの成長があるのです。経営分析が役に立つ、自分のための経理をしましょう。

経営分析が役に立たない経理の具体例

すこし論点がズレますが。「これは経営分析が役に立ちそうもないなぁ」という経理の具体例をいくつかおはなししておきます。自分のための経理ができていないようだ、という経理。

自覚しているか否かにかかわらず、こんな決算書には注意が必要です。少し専門的な話でもありますので、わからなければ顧問税理士などに聞いてみましょう。

「未払金」の残高が毎年変わりすぎる

「未払金」の計上で、利益調整をしている可能性があります。未払金を計上すると、費用が増えるのが経理のしくみです(一部費用でない場合もありますが)。

そこで、利益が大きい時には、税金を減らすために未払金をたくさん計上。利益が少ない時には、銀行への見栄えが悪いので少なく計上。

毎年の未払金残高の内訳を並べてみれば、だいたいわかります。わたしがわかるということは税務署や銀行だってわかっていると考えましょう。

減価償却費の計上が少ない、あるいはまったくない年がある

「未払金」同様に、利益調整をしているケースです。

詳述は避けますが、減価償却には計上すべき金額というものがあります。それは見る人が見ればすぐにわかります。

にもかかわらず、その金額が少ない、あるいは計上されていないということは平たく言えば「粉飾」です。ちなみにバレバレの手法ですので、銀行に対しては効果がない、あるいは逆効果だと考えましょう。

借入金の短期・長期の分類がおかしい

「借入金」は、その返済期限によって「短期借入金」と「長期借入金」にわかれます。

この分類、税理士事務所でも意外とできていません。面倒くさいのか、理解していないのかはわかりませんが、それこそ銀行に対しても影響がありえる大事な分類です。

またまた詳述は避けますが、短期よりも長期の借入金であるほうが「安全性の指標」は高く評価されます。ですからもしも誤って、長期借入金のはずなのに短期借入金に分類すると当然評価が下がります。

銀行借入をする際、銀行の融資審査では各種指標もチェックしています。このとき銀行が、誤った分類を親切にも修正してくれるとは考えないほうがよいでしょう。

ひとつ例を挙げておくと、経営者からの借入金は「短期」で返済すると決まっていなければ、「長期」に分類すべきものです。極端に言うと返す必要がない経営者からの借入金は、会社から見ればとても安定性の高い資金。経営分析上はもはや「資本金」に近いものになります。

まとめ

経営分析について、役に立つ、役に立たないという話をしてきました。

結論として、「本来的に」経営分析が役に立たないということなどありません。役に立たないようにしている場合はある。それが、次の3つのケースでした。

  • 経営分析の役割を勘違いしている
  • 誰かのための経理をしている
  • 誤った経理をしている

経営分析は経営の役に立たない。経理は経営の役に立たない。そんなことはありえません。

わたしたち一人ひとりの人生よりも、ずっと長い時間をかけて多くの先人たちが築いてきた経営分析や経理。ほんとうに役に立たないものであれば、これほどまでに体系化されしくみづくられることはないでしょう。

役に立たないのか、役に立たないようにしてしまっているのか。そのちがいについては、理解しておきましょう。

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  きょうの執筆後記
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昨日は、終日監査業務、会議支援で外出。
夏本番の暑さ。もともと夏は得意な季節ではありません。
とはいえ、独立後なくなった通勤で、体はかなりラクができていることを実感。

経営分析役に立つ?役に立たない?

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