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数字嫌いでもこれだけは…損益計算書で見なきゃ損する3つのポイント

損益計算書3つのポイント

数字なんて見たくないんだよね。

というあなたも。これくらいは、これだけは見ておきましょうという損益計算書のポイントについてお話しします。

まずは、たったの3つです。

目次

誰がなんと言おうと「収益力」を見極める

損益計算書を眺めてどうするか? 会社の「収益力」を知ることです。交際費が多いだの、研修費が少なすぎるだの言う前に。大きな目で「収益力」を捉えましょう。

できれば3年分、絶対に2年分

ハナシをはじめる前にお願いです。

絶対に、2年分の損益計算書を用意してください。できれば3年分。

なぜかというと、1年分だけを見ていても「ふ~ん、さよか」で終わるからです。そんな見方であれば、極論、見る必要もありません。そうではなく。

去年とどう変わったかな、おととしから見たときの傾向はどうなっているかな。「時系列での方向性」を見ることで、あらたな気づきが得られます。

この「良い」方向性を伸ばそう、とか。この「悪い」方向性は断ち切ろう、とか。行動を起こすにあたっての意思が生まれます。

収益力の方向性を見よ

で。「時系列での方向性」って、なんの方向性なのか。ずばり、「収益力」の方向性です。

当たり前すぎて、特に目新しいインパクトはありませんが。損益計算書から知るべきいちばんの情報は、会社の「収益力」なんだ!間違いない。

これだけは見るべき3つのポイント

どれだけ数字が嫌いであっても。損益計算書を見るのであれば、「これだけは」というものを3つ挙げます。これで、「収益力の方向性」をつかみます。

  1.  売上総利益と売上総利益率
  2.  キャッシュフローとキャッシュフロー・マージン
  3.  損益分岐点と損益分岐点比率

見るだけで、「うへ~」となるかもしれませんが。損益計算書を見るのであれば、経営者であれば。覚悟してついてきて欲しい、それくらいの重要事項です。

 

売上総利益と売上総利益率

3つのポイントのひとつ目。売上総利益に注目です。

売上よりもだいじなモノ

収益力で一番大事なのは「売上」じゃないの?という声が聞こえてきそうですが。いいえ、違います。「売上総利益」です。

「売上」が大事じゃないとは言いません。もちろん、大事です。でもそれよりも、もっともっと大事なのが「売上総利益」。

100億円の売上で、原価が100億円の会社と。1,000万円の売上で、原価が500万円の会社。どっちの会社がいいですか?そういう話です。

前者の会社(売上100億円)が好きだ!と言う方は売上至上主義。気を付けてください。

売上がお好き? 利益がお好き?

売上至上主義に陥った際の、最大のデメリットは「付加価値を見失う」ことです。

どれだけ多額の売上高を計上しようとも、原価を引いた残りの「売上総利益がゼロ」でしたというのなら。それは「右から左」のビジネス。仕入れたモノをただ横流しするだけのビジネスです。

言い換えれば、自社で乗せることができる価値がない。ひいては、自社に価値がないことになります。やらなくても同じ。利益なき繁忙。そう言われてもしかたありません。

「売上総利益がゼロ」は極端でしたが。売上総利益が少ないことには、疑問を感じる必要があります。特に、中小零細企業であればなおのこと。

中小零細企業こそ注目すべき「売上総利益」

売上総利益を見よ、と言いましたが。金額自体に加えて、「売上総利益率」をチェックしましょう。

  • 売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高

言うまでもありませんが、この率が低ければ薄利多売であることを表しています。大資本のもとでビジネスをする大企業であれば、「薄利多売」もひとつのカタチでしょう。

ですが、中小零細企業が薄利多売では身が持ちません。他社と勝負することはもとより、生き残る確率がグッと低くなる。

限られたヒトやおカネを、どれだけ効率的に使えるかが中小零細企業の課題です。そのために売上総利益率を時系列に並べ、少しでも上を目指す。目指すにはどうするかです。

そもそも「値決め」を間違えていないか、原価管理がユルすぎないかなど。売上総利益率を上げることを考えます。

「原価が無い」なんて言わないで

わが社はサービス業にて「原価はゼロ」である。ゆえに売上総利益率は100%なのである。なんて、言わないでください。恥ずかしいから。

サービス業の最たる原価として「人件費(給料)」が存在します。損益計算書の「原価はゼロ」かもしれませんが、せめて「人件費 ÷ 売上高=売上総利益率」で考えてみましょう。

 

キャッシュフローとキャッシュフロー・マージン

3つのポイントのふたつ目。キャッシュフローに注目です。

利益があってもおカネが無ければ

売上総利益を見たところで。続いて、おカネの話です。おカネは増えているのか、おカネを生み出すチカラはあるのかな。そういうところを見ていきます。

そのための指標が「キャッシュフロー」です。1年間でどれだけのおカネを増やすチカラがあるのかを測ります。

厳密には「キャッシュフロー計算書」を見て知るのが一番ですが。中小零細企業にあっては「キャッシュフロー計算書」なんて見たこともない、というのが現実です。

だから、簡易的に「キャッシュフロー」は計算することにしましょう。

税引後利益+減価償却費

ということで、簡易的なキャッシュフロー、名付けて「簡易キャッシュフロー」を算出します。算出しますなどと言っても、造作もありません。

  • 簡易キャッシュフロー = 税引後利益+減価償却費

念のため具体例を挙げておきますが。税引後利益 500万円、減価償却費 100万円の会社なら。簡易キャッシュフローは600万円(500万円+100万円)です。

この算式の前提は、税引後利益の分だけおカネは増えるはずだよね。加えて、「おカネの支出を伴わないコストである減価償却費」は税引後利益に足し戻そうというもの。

よくわからん、という声をよく聞きますが。それならそれでもかまいません。この際、御託は抜きでそういうものだと覚えてしまいましょう。

やはり「率」で見る

売上総利益率と同様に、簡易キャッシュフローも率を見ておきます。これを、「キャッシュフロー・マージン」と言います。

  • キャッシュフロー・マージン=簡易キャッシュフロー ÷ 売上高

これで、売上高に対するおカネを生み出すチカラの「効率性」がわかります。売上高が増えているが、おカネを生み出すチカラも増えているのか。この「キャッシュフロー・マージン」で暴くのです。

キャッシュフローがマイナス

ちなみに。簡易キャッシュフローがマイナスだと、キャッシュフロー・マージンに意味はありません。

事業をしている以上、おカネは大事な資源であり、「おカネの出来得る限り最大化」を目指していくことになります。

おカネを増やすベースが「税引後利益」にあることは、簡易キャッシュフローの算式を見れば明らかでしょう。

よって、「利益の最大化を目指す」というのは至極当然のこととして言えるわけです。ところが、驚くべきことに。

利益最大化を謳いながら、納税を嫌い、「過度の」節税をはかる。ムダ使いをする。ということが日常茶飯に散見されることを申し添えておきます。もちろん、あなたは大丈夫ですよね?

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損益分岐点と損益分岐点比率

3つのポイントのさいご。損益分岐点に注目です。

損益分岐点は計算できる?

「損益分岐点」という言葉を聞いて、意味合いが想像できないという人はほとんどいないでしょう。文字通り、損益の分岐点。利益トントンの場合の売上高はいくら?ということです。

商売をしていて、いくら売り上げれば利益がプラマイゼロなのか、という感覚は大切。

その意味合いはわかっているけれど、計算はできるかというと。途端に多くの人が離脱します。そこでまず、損益分岐点の算式から。

  • 損益分岐点=固定費 ÷ {1-(変動費 ÷ 売上高)}

固定費ってナニ?変動費ってナニ? はいはい、落ち着いて。

一筋縄ではいかない「変動費と固定費」

結局。変動費と固定費という概念が、損益分岐点をわたしたちから疎遠な関係へと遠ざけています。一般に、

  • 変動費とは、売上高の増減と同じくして増減する費用。たとえば、原材料費、外注費など
  • 固定費とは、売上高の増減に関係なく一定額発生する費用。たとえば、リース料、減価償却費など

では損益計算書を眺めてみると。変動費や固定費の分類はありません。自ら、変動費と固定費とに分類するところから始めなければいけません。損益分岐点、もういいや。となるわけです。

あきらめるな、まだあきらめるんじゃない! ということで続けます。

最悪で「原価=変動費」

あきらめるよりはマシ、という観点で言えば。損益計算書の「売上原価」を「変動費」とみなしてしまうことです。言っておきながら、かなり乱暴だとは思いますが。

もうちょっとがんばってみようかな、と言うのなら。損益計算書の売上原価と経費の科目を見ながら、個々に分類をしていきます。

原材料費と外注費は変動費、減価償却費は固定費で・・・。これを「固変分解の勘定科目法」と言います。これについて、中小企業庁では次のような考え方をしています。

【製造業】

固定費
直接労務費、間接労務費、福利厚生費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、水道光熱費、旅費、交通費、その他製造経費、販売員給料手当、通信費、支払運賃、荷造費、消耗品費、広告費、宣伝費、交際・接待費、その他販売費、役員給料手当、事務員(管理部門)・販売員給料手当、支払利息、割引料、従業員教育費、租税公課、研究開発費、その他管理費

変動費
直接材料費、買入部品費、外注費、間接材料費、その他直接経費、重油等燃料費、当期製品知仕入原価、当期製品棚卸高―期末製品棚卸高、酒税。

【卸・小売業】

固定費
販売員給料手当、車両燃料費(卸売業の場合50%)、車両修理費(卸売業の場合50%)販売員旅費、交通費、通信費、広告宣伝費、その他販売費、役員(店主)給料手当、事務員(管理部門)給料手当、福利厚生費、減価償却費、交際・接待費、土地建物賃借料、保険料(卸売業の場合50%)、修繕費、光熱水道料、支払利息、割引料、租税公課、従業員教育費、その他管理費。

変動費
売上原価、支払運賃、支払荷造費、支払保管料、車両燃料費(卸売業の場合のみ50%)、保険料(卸売業の場合のみ50%)、
注:小売業の車両燃料費、車両修理費、保険料は全て固定費。

【建設業】

固定費
労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、現場従業員給料手当、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、交際費、補償費、その他経費、役員給料手当、退職金、修繕維持費、広告宣伝費、支払利息、割引料、減価償却費、通信交通費、動力・用水・光熱費(一般管理費のみ)、従業員教育費、その他管理費。

変動費
材料費、労務費、外注費、仮設経費、動力・用水・光熱費(完成工事原価のみ)運搬費、機械等経費、設計費、兼業原価。

しかしまぁ、難儀なことです。給料は固定費か否か。本給は固定費だけど、残業代は変動費で・・・などと考え始めるとキリがありません。

上記はあくまで参考であり、これが絶対ではありません。勘定科目法を採るのなら、自分で決めた分類ルールを継続的に守ることが重要です。

継続したルールの中で計算した損益分岐点を、時系列で並べるところに意味があります。他社と比べることには、それほどの意味はないと考えましょう。

おすすめは奥義「最小自乗法」

勘定科目法でもいいですが。恣意性が否めない、という欠点を打開すべく。統計学の考え方を用いた「最小自乗法」という方法もあります。

月次決算データとExcelが必要になりますが、これがベストと言えるでしょう。詳しくは過去の記事に譲ります。

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結びの一番、損益分岐点比率

砂を噛むような思いで、損益分岐点が計算できたなら。さいごに「損益分岐点比率」を計算しておしまいです。がんばれ!

  • 損益分岐点比率=損益分岐点 ÷ 売上高

この指標の意味は、実際の売上高に対して、損益分岐点はどの位置にあるかということです。

この比率が低いほど、つまり、損益分岐点が実際売上高よりもずっと下にあるほど。その会社の収益力は高いのだ、と言えます。

逆に損益分岐点比率が高ければ、収益力が低いことを表しています。実際売上高が、損益分岐点に対して「逼迫している」ということです。100%以上は赤字だ、ということです。

損益分岐点比率もまた、時系列に並べ、自社の収益力を概観する。結果、変動費と固定費の改善に向かう、というのが正しい姿です。

 

まとめ

損益計算書のみるべき3つのポイントについてお話しをしてきました。

まずは、会社の「収益力を知ること」に注目しました。知ったあとどうするかが大事なことであり、それは別の話です。

行動する前に、まず状況を知る。そのための3つのポイント。ぜひ、チェックしてみましょう。

 

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  きょうの執筆後記
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