駅看板を眺めていると、
病院やクリニックなどの医療機関の広告が目立ちます。
駅看板のコストは決して低いものではありません。
ほかにもバス広告、野立看板、電柱広告・・・
果たして、その効果とは?
広告効果を知りたいなら「患者に聞く・患者を見る」
駅看板やバス広告などは「集患の手段」として、規模や標榜科目を問わず、多くのクリニックで利用されています。
一方で、特に高コストな駅看板などについては、コスト削減の対象として税理士が指摘することも珍しくありません。
院長自身も広告の効果には疑問を感じていたりします。
とはいえ、院長であれば、「では、広告業者に相談してみよう」なんて言っていてはいけません。
ほんとうに「効果」を考えるのであれば、答えは患者さんに教えてもらうのがいちばんです。
教えてもらうポイントは3つあります。
1.新患は月に何人来ているか?
2.新患はなぜウチに来たのか?
3.あの新患はいまも来ているのか?
クリニック経営における広告効果について、考えていきます。
新患は月に何人来ているか?
突然ですが、私は税理士です。
税務監査の一環で「毎月の新患の人数」をたずねることがあります。
院長はすぐに答えることができるでしょうか?
もしも答えられないようであれば、すぐにでも「把握」をできるようにしておきましょう。
レセコンから抽出する、受付事務で記録してもらうなど、方法はなんでもかいません。
「集患」のキホンは、新患の人数を知ることからはじまります。
さらに、新患の来院傾向として、「新患割合の推移」を作成しておくと良いでしょう。
毎月の新患割合を並べていき、その増減を把握するということです。
新患割合 = 月の新患人数 ÷ 月の延べ患者数 |
「新患割合」は長期的な患者数の動向を左右します。
同じ延べ患者数だとしても、新患割合が減少していると、将来的には延べ患者数が低下します。
言うまでもないことですが、「流入」よりも「流出」が多くなるからですね。
「新患割合」は、クリニックにとって重要な経営数値のひとつです。
新患はなぜウチに来たのか?
続いてのポイントは、いわゆる「来院動機」です。
「何を見て、当院をお知りになりましたか?」の答えです。
この点についてはどうでしょう?院長は答えられるでしょうか。
「問診票で聞いているよ」という話はよく聞きます。
ですが、その結果をまとめているかという話になると、かなりのケースで「やっていない」という回答になります。
とても、もったいないです。やりましょう。
問診票に書いてもらうのでも、受付スタッフや院長が口頭でたずねるでも。
患者さんに合った方法、いちばん有効な回答が得られるであろう方法を採用しましょう。
高齢者の患者が多いクリニックで「書いてもらう」形式は、患者さんに優しくないということにもなりかねません。
ところで、来院動機をたずねる際の注意点があります。
それは「いちばん最初に」当院を知った理由を答えてもらうことです。
たとえば、問診票の選択肢として、「駅看板」と「当院のWEBサイト」があったとします。
これに対して、「何を見て、当院をお知りになりましたか?」とたずねると、患者さんは両方を選択する可能性があります。
もちろん、それはそれでかまわないのですが、順序がたいせつなのです。
駅看板を見てからWEBサイトを見たのか、WEBサイトを見たあとでたまたま駅看板を目にしたのか、
では駅看板への評価が変わってきます。
つまり、たずね方としては、
・いちばんはじめに、当院を知ったきっかけは何ですか?(1つのみ) ・当院の広告でご覧になったことがあるものはどれですか?(複数回答可) |
などとするのがよいでしょう。
「ご覧になったことがある」だけの広告に意味があるのかは疑問ですが、「そもそも目に入っているかいないか」を知ることができます。
1つめのポイントである新患数とあわせて、月ごとの推移を整理しておくようにしましょう。
あの新患はいまも来ているのか?
さいごのポイントです。
これは、「新患の追跡調査」ができているかどうかというお話です。
私の肌感覚からの想像で恐縮ですが、これをされているクリニックはほとんどないのではないでしょうか。
具体的に説明をすると、「○年△月に新患で来た□□さんは、今月は来たかどうか」を
把握しておくということ。正直に言って、これはとても面倒です。
それでもこれがわかっていれば、「広告の継続判断」を広告業者にゆだねずとも済むようになります
(べつに広告業者の方を全面的に信用していないわけではありませんが)。
むしろ、広告業者の方が欲しくてしかたがないデータとなります。
文字での説明ではわかりにくいので、「Excelであればこんな感じ」というものを掲載します。
「Aさん」で説明します。
Aさんは、2016年5月が最初の来院であり、5月が5,000円、6月が4,500円の診療があったことをあらわします。
右端の「計 9,500円」は、Aさんの「最初の来院から現在までの総診療収入」です。
結果的には、2016年6月にAさんは当院を「離脱」したようだと推測されます。
この「計 9,500円」は、いま風の言葉でいうと「LTV(顧客生涯価値)」。
あるお客さん(患者さん)が生涯を通してもたらす収入を意味します。
ちなみに、この場合の「生涯」は「死ぬまで」ということではなく、「取引があるあいだ」という意味であることを補足しておきます。
このような表を継続して作成しておくことで、「来院動機(広告)に対する集患効果」が見えてきます。
「駅看板」について考えてみます。
表中の「駅看板」が来院動機である患者についてを任意の期間で集計します
(任意の期間は長いほどデータが多くなり、信頼性が高まるでしょう)。
任意の期間を「2016年5月~2016年6月」とした場合、
集計すべきは表中の「赤枠」部分です。
この赤枠内の「総収入額」の集計をとります。
総収入額 5,000+4,500+4,500+4,500=18,500円
表は省略されている部分がありますので、その部分も集計した結果、次のようになったと仮定します。
総収入額 75,000円
この「総収入額」を「任意の期間の月数」で割れば、「駅看板広告による月あたり平均収入」を知ることができます。
この例では、
75,000円 ÷ 2か月 = 35,000円
この「平均収入」と「月額の駅看板広告費」とを比較することで、合理的に広告の集患効果を検討することができるようになります。
もしも、駅看板の月額広告費が50,000円だとしたら、
35,000円 < 50,000円
「う~ん、なんだかなぁ・・・」と嘆いてみることになります。
まとめ
開院まもない時期、認知のために広告を打つことと、認知が進んだであろう「いま」とでは広告の目的が変わります。
認知が進んだ後の「集患のための広告」については、どこかのタイミングで効果の検討をすべきです。
クリニックの経費総額に占める広告費の割合が高いなら、なおさらのこと。
広告継続の判断をするために、ほんとうに必要なデータは自院の中にあります。
新患データをクリニック経営に活用しましょう。
余談ではありますが、広告の目的を、単に集患のためではなく、「自院のブランディングのため」と位置付ける場合があります。
この場合にまで、集患の効果に集中してしまうと判断を誤ります。
なにごとも目的がたいせつです。
************
きょうの執筆後記
************
昨日は外出もなく、ルーチンワークと顧問先の決算作業。
独立開業してから、未経験の税務システムをつかいはじめました。
慣れるまではなかなかしんどいものです。
「税務なんてどれでもいっしょだろう」とタカをくくっていたのですが・・・
あたらしいものを導入されるお客さまの心理として覚えておきます。