会費の年払いって、払ったときにまとめて経費でイイんだよね?
その通りです。が、会費や利用料、保険料などの年払いを、あえて一度で経費にしない。という考え方も見逃せません。
その理由と具体的な経理処理などについて、お話をしていきます。
『まとめて経費』か『まとめず経費』か
1年分の前払い、いわゆる「年払い」をした会費や利用料、保険料など。たとえば、
- 同業者団体の月額会費の年払い
- ソフトウェアの月額利用料の年払い
- 業務にかかる損害保険料の年払い
- 専門誌の購読料の年払い など
これらに対する経理の方法として。次の2つが考えられます。
- 年払い分を、支払ったときに、まとめて経費にする(以下、「まとめて経費」と呼びます)
- 年払い分を、毎月にあんぶんして、まとめず経費にする(以下、「まとめず経費」と呼びます)
さて、あなたはどちらの方法で経理をしていますか?
多数派の「まとめて経費」、少数派の「まとめず経費」
2つの経理方法。間違いなく、「まとめて経費」が多数派、「まとめて経費」が少数派という結果に落ち着きます。
なぜなら、「まとめて経費」はカンタン・お手軽だからです。
だって、もういっぽうの「まとめず経理」ってさ。年払いをわざわざ毎月に分けて経理するってことでしょ? メンドーじゃね?
そう言われるのがオチなのです。
損して得取れ、まとめず経費
それでも、あえて。「まとめず経費」を選ぶ理由などあるのか? というのがここからのお話です。
もちろん、まとめず経費を選ぶ理由はあります。その理由は、
- 前期の同月と比較ができる
- 前月と比較ができる
- 月間の利益が把握できる
これを見て、「なんじゃそりゃ、たいした理由ではないなぁ」などと言っているようだと、経理でトクができません。
そのあたりのことも踏まえて、「まとめて経費」「まとめず経費」の具体的な経理処理を見ていくことにしましょう。
「まとめて経費」と「まとめず経費」の経理処理
2つの経理方法について、具体例でもって説明をしていきます。
《具体例》
1月4日に、同業者団体の年会費 180千円(月15千円×12か月分)を銀行口座から支払いました。
はじめに、「まとめて経費」の経理処理
1月4日に、会費として180千円を経費にしておしまいです。カンタン、カンタン、というのが「まとめて経費」です。
いちおう、仕訳を提示します ↓
- 1月4日 ・・・ 諸会費 180,000 / 普通預金 180,000
会費という経費の勘定科目は「諸会費」、これを「普通預金」から支払いましたよ。という仕訳です。
お次は、「まとめず経費」の経理処理
「まとめず経費」とは、1か月分ごとにあんぶんする。という方法でしたよね。つまり、1月に15千円、2月も15千円、3月も15千円、4月も5月も・・・12月までずっと15千円。
考え方は難しくないのですが、仕訳にしようと思うとちょっとメンドーだ。というのが「まとめず経費」です。
そのメンドーだという仕訳を提示すると ↓
- 1月4日 ・・・ 前払費用 180,000 / 普通預金 180,000
- 1月末日 ・・・ 諸会費 15,000 / 前払費用 15,000
- 2月末日~12月末日 ・・・ 1月末日と同じ
仕訳だけを見て、さじを投げないでください。そんなにムズカシイ話ではありません。
さきほどの「まとめて経費」と違うのは、1月4日に「前払費用」という勘定科目を使っているところです。
前払費用は「費用」と言う文字が名に付いていますが、「経費」ではありません。
経費を前払いしてしまった金額(180千円)を、経費にするタイミングまで溜め込んでおくための勘定科目です。経費を保留しておく役割を担います。
1月4日に一度溜め込んだ180千円を、その後、毎月15千円ずつ取り崩して経費に振り替えていく。というのが、毎月末日の仕訳の意味です。
ちなみに。「諸会費」は損益計算書に経費として計上され、「前払費用」は貸借対照表に資産として計上されます。補足ですから、あまり気にせずどうぞ。
2つの経理方法の結果を比べてみる
仕訳で少々アタマが痛んだかもしれませんが。こんどは、シンプルに表にまとめてみます。
表にまとめるのは、2つの経理方法による「毎月の経費計上金額」です ↓
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 年間 | |
まとめて 経費 | 180 | 180 | |||||||||||
まとめず 経費 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 15 | 180 |
とくに難しいことはありませんよね。
ここで、前述した「まとめず経費」を選ぶ理由を思い出してみましょう ↓
- 前期の同月と比較ができる
- 前月と比較ができる
- 月間の利益が把握できる
さぁ、どうでしょう? これらのことは「まとめて経費」ではムズカシイ、ということがわかるのではないでしょうか。
①については、今年は1月に支払ったけれど、前年は2月に支払った。というケースを考えてみてください。「まとめて経費」だと、1月と2月は前期との比較が成り立ちませんよね。
②については、上記の表を見れば一目瞭然。「まとめて経費」では、1月と2月以降の経費とを比較することができません。ゼロか180千円か、って・・・
これらの結果として、「まとめて経費」で経理をしていたのでは、月間の利益がほんとうはいくらなのかわからなくなってしまう。というのが、③についてです。
これが、「まとめず経費」であれば問題無い。そういうお話です。
あなたの「月次」が泣いている
毎月経理をして、利益などの状況を把握することを「月次(決算)」と言います。月次決算は大切だ、ってよく言われますよね?
ところが、せっかくの「月次」も。「まとめて経費」でばかりの月次では、「見る気が起きんわ!」という事態が起こりえます。
理由はさきほど触れたとおりです。
先月と同じ売上、諸会費以外は先月と同じ経費だとしても。今月と先月とでは利益がまるで違う、ということが起こり得るからです。
これでは「見る気」が削がれ、そんな月次を「作る気」もまた削がれるというものでしょう。
挙句、月次は放置され、確定申告前になってワラワラと慌てて経理する。これでは、経理も確定申告もただの後始末にしかなりません。
ツカえる経理、ツカえる月次を手に入れるためには、「まとめず経費」の経理を取り込むことも一考です。
「まとめず経費」の注意点
さいごに。「まとめず経費」の注意点をお話しします。
程度加減を考えて
「まとめず経費」にメリットがあるとは言っても。なんでもかんでも「まとめず経費」ではタイヘンです。
仕訳、見ましたよね? 「まとめず経費」には、経理処理の手間がかかります。金額の影響が小さいなぁ、というものに関しては「まとめて経費」でもよいでしょう。
手間と経理への影響というコスト対効果をみて、2つの経理方法を使い分けるのがポイントです。
影響の大小については、決まった基準があるわけではありません。自社(自身)のルールとして決めましょう。
節税を逃す、という場面もありうる
冒頭列挙した会費や利用料、保険料などについては、「まとめて経費」でも「まとめず経費」でもOK。というのが税法の考え方です。
ですから、たとえば。今年からある団体に加盟、会費を払い始めるという場合に、決算月に向こう1年分を年払いをすると。
「まとめて経費」のほうが、その年の決算に経費計上できる金額がダンゼン大きくなります。結果、利益が圧縮され、税金が減ります。
これを「短期前払費用による節税」と言ったりするのですが、詳しくはこちらの記事を ↓
ちなみに。上記の記事内で触れていますが、「雑誌の年間購読料」は短期前払費用にはなりません。つまり、本来「まとめて経費」をしてはいけない、と。
とはいえ、購読料の年払い額はそれほど大きくないことから。実務の現場では、「まとめて経理」が黙認されていることも少なくないようです(小さな声でお話しておりますので、どうぞ聞き流してください)。
まとめ
会費や利用料、保険料などの年払いについて。あえて一度で経費にしない、ということをお話してきました。
手間を抑えることは大切ですが、抑えすぎると見えなくなるものもあるわけで。
そういう意味では、「まとめて経費」は必要最小限の経理方法です。
ワンランク上の月次、を考えるとき。手間を惜しまず、採るべき「まとめず経費」があることを覚えておきましょう。
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きょうの執筆後記
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