粉飾決算って、どうやって見つけるの?
決算書を不正にいじり、実際よりも利益を多く見せようという粉飾決算。
そんな粉飾決算を見破る方法について、お話をしていきます。
粉飾決算をシンプルに見破る5つの方法
ときおりニュースで耳にする、上場企業の粉飾決算(ふんしょくけっさん)。
会計を不正に操作し、実際の状況よりも数字を良く見せる。なんなら、ほんとうは赤字なのに黒字にしてしまう。というのが、粉飾決算です。
上場企業の粉飾決算を見破るのは公認会計士の仕事だとしても。「決算書」を眺める機会ならば、公認会計士でなくともあるものです。たとえば、
- 自分の株式投資先の決算書 → 投資してだいじょうぶ?
- 自社の取引先の決算書 → 取引してだいじょうぶ?(与信審査)
- 自分の勤め先の決算書 → 勤めていてだいじょうぶ?
などなど。粉飾決算を見破る眼を持っていて困ることはありません。
「でもさ、粉飾決算を見破るだなんて難しそうだよね・・・」と言うあなた。たしかに難しい粉飾決算もありますが、多くの粉飾決算は意外とシンプルなものなのです。
なぜなら、あまりこねくり回してしまうと、粉飾している本人にもわからなくなってしまうから。
というわけで、シンプルな粉飾決算を、シンプルに見破る方法をご紹介します。次の5つです ↓
- 架空在庫の見破り方
- 架空売上の見破り方
- 仕入除外の見破り方
- 架空資産の見破り方
- 顧問税理士の異動による見破り方
それでは、順番に見ていきましょう。
《方法1》架空在庫の見破り方
粉飾決算の王道と言えるのが、「架空在庫」です。実際の在庫よりも多いことにすると利益が増える、という手法です。
在庫を増やすと利益が増えるワケ
どうして在庫を増やすと利益が増えるの? というあなたのために。そのカラクリに触れておきます。カンタンな具体例で見てみましょう。
【問】下記の商売の「経費」はいくらでしょう?
- 1個 100円の商品を5個仕入れました
- 仕入れた商品のうち2個は在庫として残っています
上記の【問】について、解答を考えてみます。この商売で経費になる金額は、
- 仕入 = @ 100円 × 5個 = 500円
ではありません。仕入れたのはたしかに500円ですが、経費になる金額は違います。
なぜなら、「売れた分に対応する仕入だけを経費にしなさい」という会計のルールがあるからです。この「売れた分に対応する仕入」のことを「売上原価(うりあげげんか)」と呼びます。
つまり。仕入れた商品のうち、在庫分は経費になりませんよ、ということ。経費になるのはあくまで売れたとき、なのです。ルールにしたがって計算してみると、
- 売上原価 = 仕入 - 在庫 = (@ 100円 × 5個)-(@ 100 × 2個)= 300円
これが正解です。ではここで、粉飾決算をすることにします。在庫を増やせばよいのでしたよね(よくはないけど)。といわけで、具体例を書き換えます ↓
【問】下記の商売の「経費」はいくらでしょう?
- 1個 100円の商品を5個仕入れました
- 仕入れた商品のうち3個が在庫として残っていることにします(ほんとは2個)
売上原価はどうなるかというと、
- 売上原価 = 仕入 - 在庫 = (@ 100円 × 5個)-(@ 100 × 3個)= 200円
あら不思議。いとも簡単に、経費である売上原価が100円減りました。経費が減るということは、その分、利益が増えるということ。
これが架空売上による粉飾決算のしくみです。では、これをどう見抜く? という話に続きます。
売上原価率の推移
架空売上を見抜く方法は「売上原価率」です。売上原価率とは、次の算式で求められます。
- 売上原価率 = 売上原価 ÷ 売上高 × 100(%)
ではここで、ただしい決算による売上原価率と、粉飾決算による原価率の違いを見てみましょう。さきほどの具体例の続きです。
【問】下記の商売の「売上原価率」はいくらでしょう?
- 粉飾をしない場合・・・売上高 600円、売上原価 300円
- 粉飾をする場合・・・売上高 600円、売上原価 200円
売上高は変わらず、架空在庫の分だけ売上原価が違うという前提です。解答は次のとおり ↓
- 粉飾をしない場合・・・300円 ÷ 600円 × 100 = 50%
- 粉飾をする場合・・・200円 ÷ 600円 × 100 = 33%
当然のことながら、架空在庫を計上して粉飾するほうが、売上原価率が小さくなります。
これを利用して、売上原価率を時系列で並べてチェックすることで粉飾決算を見破ります。毎年の売上原価率、あるいは毎月の売上原価率などの推移を見て、異常値を探るわけです。
通常、同じように商売をしている限り、売上原価率に大きな変化はないはずですから。売上原価率の急な低下は、粉飾決算のサインです。
また、急ではなくとも、徐々に徐々に・・・ というケースもありえます。
《方法2》架空売上の見破り方
手っ取り早く、実際よりも売上を増やしてしまおう。というのが「架空売上」です。
架空売上を増やすと売上債権が増えるワケ
なかったはずの売上をあったことにすれば利益も増える、という極々シンプルなカラクリです。
この場合、どこで粉飾を見破るかというと。それは、「売上債権」です。
売上債権とは、売上のうち、まだ代金が回収できていない「ツケ」になっている部分です。具体的には、売掛金や受取手形など。
架空売上を計上すると売上債権が膨らむ、という特性に着目します。
どうして、架空売上を計上すると売上債権が膨らむのか? それは、架空だけにおカネをもらった(代金を回収した)ことにはできないからです。
現金や預金などのおカネはその実在をたしかめやすいものであり、ウソがつきにくい。そこで、ツケ(売上債権)として架空売上を計上するわけです。
売上債権回転期間の推移
見破る手法としては、「売上債権回転期間」というものを使います。算式にすると、
- 売上債権回転期間 = 売上債権 ÷ 平均月商
売掛金や受取手形などの売上債権の残高は、平均月商の何か月分か? を表わす算式です。
通常、この数値は、それぞれの会社の入金サイト(売上の締日から入金期日までの期間)に応じて安定するものです。
ところが、架空在庫を計上していくと、売上債権回転期間は上昇していきます。売上を計上する一方で、代金は回収されずツケも増える一方ですから当然です。
ですから、これを時系列で並べ、その推移をチェックすることで粉飾を見破るのです。
《方法3》仕入除外の見破り方
言うなれば、「架空売上」の逆バージョン。仕入れをなかったことにするというのが「仕入除外」です。
仕入除外を増やすと仕入債務が減るワケ
なかったはずの売上をあった、と言うのが「架空売上」でした。対して、あったはずの仕入をなかった、と言うのが「仕入除外」です。
仕入は経費ですから、仕入を除外すれば利益は増える。というカラクリ自体は、やはりシンプルです。
この場合、どこで粉飾を見破るかというと。「仕入債務」になります。
仕入債務とは、仕入のうち、まだ代金の支払いができていない「ツケ」になっている部分です。具体的には、買掛金や支払手形など。
仕入を除外すると仕入債務が減る、という特性に着目します。架空売上とは逆の考え方です。
仕入債務回転期間の推移
仕入除外による粉飾を見破る手法としては、「仕入債務回転期間」というものを使います。算式にすると、
- 仕入債務回転期間 = 仕入債務 ÷ 平均月商
買掛金や支払手形などの仕入債務の残高は、平均月商の何か月分か? を表わす算式です。
通常、この数値は、それぞれの会社の支払サイト(仕入の締日から支払期日までの期間)に応じて安定するものです。
ところが、仕入を除外していくと、仕入債務回転期間は下降していきます。
仕入を除外した分の仕入債務は増えず。いっぽうで、仕入債務の支払い分は仕入債務が減っていくので、仕入債務回転期間が下降するのは当然です。
ですから、仕入債務回転期間を時系列で並べ、その推移をチェックすることで粉飾を見破るのです。
《方法4》架空資産の見破り方
費用であるはずのものを資産だ、と言うのが「架空資産」です。
架空資産を増やすと利益が増えるワケ
利益は、「収入 - 費用」で計算されるものです。そこで、利益を増やしたいなら「費用」を減らせばイイ。というシンプルな発想です。
費用を減らすという意味では、さきほどの「仕入除外」もそうでしょう。仕入除外は、費用を抹消するというワザでした。
対して「架空資産」は、費用を別なモノに置き換えるというワザです。具体的には、費用を「資産」に置き換えます。
資産とは、いずれ費用になる可能性を持ちながらも、ひとまず費用になることを保留できるという性質があります。
たとえば、在庫になる商品は資産です。在庫という資産であるうちは費用(売上原価、と言いましたよね)にはなりませんが。売れれば、費用になります。
クルマ、パソコンなど固定資産と呼ばれるものも同じです。買ったときには費用になりませんが、時の経過に応じて、少しづつ費用になります(減価償却と呼ばれます)。
この性質を悪用して。本来、費用であるものまでを資産に退避させてしまおうというのが「架空資産」です。
商品やクルマなどの固定資産のように、将来費用になる資産を「費用性資産」と呼びます。
現金預金や売掛金のように、将来おカネになる資産は「貨幣性資産」と呼ばれます
貸借対照表の「資産の部」の密度
架空資産を見破る方法として、これまでに見てきた「〇〇回転期間」を用いる方法がありえます。
各資産について、平均月商で除することで回転期間を求め、その推移から異常値を発見するワケです。
これとは別に。もっと手っ取り早く、架空資産のニオイを嗅ぎ取る方法があります。
それが、貸借対照表の「資産の部」の密度です。貸借対照表とは、決算書のなかの書類のひとつ。資産や負債といった、会社の財産が計上されている書類です。
この中の「資産の部」というところに、資産は計上されています。現金預金、売掛金、商品、車両、器具備品などの名称で記載される資産。
これらの資産が、「なんかミョーに多いなぁ」と感じるかどうか。実はここに、架空資産のニオイがあります。
ミョーに多いかどうかは、資産に対する負債との比較でもあります。負債の部には負債はさっぱりなのに、資産の部はみっちり。みたいなケース。
架空資産の粉飾が進むと、自然、計上する資産の種類が増えていくもので。前払費用、立替金、仮払金、前渡金、未収金、貸付金、繰延資産などなど多岐に及びます。ウソがウソを呼ぶ。
というわけで、「資産の部の密度、高いなぁ」というのは粉飾のサインでもあります。
《方法5》顧問税理士の異動による見破り方
さいごはちょっとイレギュラーな手法です。「顧問税理士の異動」による見破り方。
粉飾決算を嫌う税理士
多くの会社では、税務申告書の作成を税理士に任せています。
その場合、税務申告書の表紙(「法人税申告書 別表一」というもの)には、税理士が署名押印をするのがルールです。
この毎年の税務申告書を並べてみて。署名押印する税理士が「コロコロ変わってますなぁ」という状況であるとき、粉飾が疑われます。
いまさらですが。粉飾決算は「不正」な会計です。正しいか正しくないかで言えば、正しくない。
会計に携わる者として、公認会計士と同様に、その不正を許したくないのが「税理士」です。当然ながら、不正の片棒をかつぐわけにはいきません。
いくら顧問先の頼みと言えども。粉飾を要望されて、おいそれと容認できる立場には無いのが税理士なのです。
仮に、粉飾に気付かずに申告してしまったとしても、その後気づけばやはりお断りをするでしょう。
というわけで、常習的に粉飾をしている会社の顧問税理士は頻繁に変わりやすい、という一般論が存在します。知っていて損はありません。
まとめ
シンプルな粉飾決算を、シンプルに見破る方法をお話ししてきました。次の5つです。
- 架空在庫の見破り方
- 架空売上の見破り方
- 仕入除外の見破り方
- 架空資産の見破り方
- 顧問税理士の異動による見破り方
決算書を見る機会、決算書を精査しなければいけない機会が訪れるのであれば。粉飾を疑う目も持つことをおすすめします。
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きょうの執筆後記
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