経費精算の領収書はスマホでパシャッとね、これだけ♪
そんな時代がやってきました。電子帳簿保存法の平成28年改正。
スマホ撮影OKで話題の「今回の改正」は、ツカえるのかどうなのか?改正内容と併せてお話しします。
はじめに またとない業務改善のチャンス到来!
唐突ですが。今回の制度改正を、「制度そのもの」だけで考えないことがたいせつです。
制度の変化とともに、会計や経費精算システムの「在りよう」もだいぶ変わってきました。その変化は「業務改善」という点で、一考に値するものです。
いま、ほんとうにたいせつなことは。
制度がツカえるかどうかよりも、業務改善にツカえるかどうかを考えること。
制度をツカうのか、あたらしい会計・経費精算システムをツカうかどうか、ということではなく。その背景にある「考え方」をうまくツカうことです。
たとえば。手書きやエクセルの経費精算書。作成にもチェックにも時間がかかるのが「いままでの常識」でした。これからは違います。環境の変化、常識の変化について考えるときです。
今回の制度改正は、またとない「業務改善、意識改革のチャンス」。そうとらえましょう!
それでは、そのあたりを踏まえたところで。制度のお話をはじめます。
2年連続改正に見える電子帳簿保存法の焦り
今回のテーマ「電子帳簿保存法」について、これまでの経緯をサラッとおさらいです。
平成10年 施行 | 仕訳帳、決算書などのデータ保存が可能に |
平成17年 改正 | 領収書、請求書など原本書類の「スキャナ保存制度」導入 |
平成27年 改正 | 金額上限 30,000円の撤廃、電子署名付与の撤廃など要件緩和、適正事務処理要件を追加 |
平成28年 改正 | スマホ・デジカメ撮影OKに。適正事務処理要件の一部緩和 |
ポイントは、平成27年・平成28年と2年連続の改正があったこと。しかも、要件緩和という「利用者寄り」の改正です。
これには、大きく2つの理由が考えられます。
- 平成17年から始まった「スキャナ保存制度」の利用者は、10年で150件程度と低調
- 米国など海外で先行する制度、広がるサービスに対する格差拡大
領収書などの紙はスキャナ保存でイイよ、と言いながら。その要件が厳しすぎました。そりゃムチャだ、ほんとうにやる気あるのか?そんな感じです。
当然、利用者は限られ。結果的に国際的な遅れをとり。ヤバいよ、ヤバいよ~。となってしまわれたのではないかと推測します。
平成27年改正では、それまで「3万円未満」の領収書や契約書とされていた金額上限を撤廃。実印並みの厳しさと非難されていた電子署名付与も撤廃しました。
そして今回、平成28年改正。待望のスマホ撮影が可能になりました。さらには、小規模な事業者による制度利用にも要件緩和で道を開いたのです(後述します)。
平成28年改正の内容
それではメインのお話。平成28年改正の内容について。大きく3つです。
- スマホ・デジカメ撮影OK
- スマホ・デジカメ撮影なら、タイムスタンプは3日以内(従来は1週間以内)
- 適正事務処理要件の緩和
以下、それぞれ補足します。
スマホ・デジカメ撮影OK
これまでのスキャナ保存は、機器が「原稿台と一体になったもの」とされていました。いわゆる「スキャナ」であり、据え置き型のようなものです。
これに対して、スマホ(スマートフォン)、デジカメ(デジタルカメラ)での撮影も認めらるようになりました。
つまり、「社内で、会社のスキャナで」でしかできなかったことが、「社外でも、自分のスマホで」できるようになります。
いわゆる「スキマ時間」の活用が見込まれるわけです。もっとも、スキマ時間なんてあるのか?あったとして領収書撮影に使いたいかは別のハナシですけれど。
タイムスタンプは3日以内
スマホ・デジカメによる撮影が認められるようになりましたが、タイムスタンプは早めの付与で3日以内となりました。
具体的には。まず、領収書などを受け取った人は、ペンで署名後に撮影します。撮影後、領収書などを受け取った翌日から起算して3日以内にタイムスタンプを付与します。
この点、経費精算システムを利用する場合には、スマホで撮影した際にタイムスタンプ付与の処理がされるはずです。つまり、3日以内にスマホでパシャッとできればいいということ。
これにより、これまで経費精算は「月末にまとめて」でしたが、「都度、処理」という業務フローに変わっていくことになります。
一般財団法人日本データ通信協会より認定を受けたタイムスタンプ事業者が付与する「証明」です。これにより、タイムスタンプが付された日時にその文書が存在し、変更されていないことを証明します。
適正事務処理要件の緩和
平成27年改正で「適正事務処理要件」というものができました。スキャナ保存について、不正・改ざんなどがないように自主的にがんばってね、という内容です。次の3つの要件にわかれます。
- 相互けん制
各事務・処理について、それぞれ別の人が行う体制を整える - 定期検査
処理・手続きの状況を定期的に確認する(最低年1回)ためのしくみが必要 - 再発防止
問題が生じた場合の原因究明・改善策検討につとめる
このうち、まずは「相互けん制」の要件緩和から。
スマホ・デジカメで撮影した領収書などについて、経理担当者は画像で確認を行えばよく、必ずしも原本を確認しなくてよいことになりました。必要に応じて、でいいわけです。
これまでは、経理担当者が領収書などの原本を確認した後、スキャンする必要があったところからの変更です。
続いて、「定期検査」の要件緩和について。
スマホで撮影したからといって領収書などの原本をすぐに捨ててはいけません。定期検査が終わるまでは保管します。
従来は、スキャン場所であった本店が原本保管場所でしたが、支店や事務所での保管もOKになりました。ちなみに、各自のサイフの中で保管するのはアウトです。
さいごに、小規模企業者に対する特例です。小規模企業者については、「相互けん制」要件が緩和されます。
通常は領収書などの受領者・経理担当者などの確認者・検査担当者の最低3名が必要です。小規模企業者は、税務代理人(税理士など)の定期検査をもって、受領者と税務代理人の2名体制が認められます。
3名はムリだ~、と言っていたフリーランスや小規模の会社でも、導入が可能になりました。
- 小規模企業者とは、中小企業基本法に定める常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業を主たる事業として営む者については5人)以下の事業者をいいます
- 税務代理人とは、税務代理権限証書を税務官公署に提出している税理士・税理士法人等をいいます
電子帳簿保存法を利用する際の流れとコストについて
これまでの話から、「よし、やろう!」という場合。承認を受けるため、税務署への「申請書類」の提出が必要です。
注意点としては、今回の平成28年改正の内容で承認を受ける場合、平成28年9月30日以降が申請受付開始になります。
また、制度運用開始の3か月前に申請書提出が必要とされています。したがって、平成28年9月30日に申請書を提出し、承認を受けた場合、運用開始は平成29年1月1日から。
申請書のほかに、運用に関する規程など添付書類も必要です。申請書の記載例、規程の参考例は国税庁のHPに掲載されていますが、少々準備に時間がかかるボリュームでしょう。
運用に使用するシステムも記載しなければならないため、「運用体制」については申請書提出時点で確定している必要があります。一方、運用までの社内説明などは、申請後でもだいじょうぶです。
ところで、システム利用に関するランニングコスト。たとえばクラウド会計のfreeeでは、月額3,980円(税別)で要件を満たす運用が可能です(会計システム利用料含む)。
これを高いとみるかどうかですが、ひとつ言えることは、以前に比べると「とんでもなく」敷居は下がりました。
まとめ 電子帳簿保存法を利用しないにしても
平成28年の電子帳簿保存法改正について、お話をしました。
はじめに触れたとおり。同法を利用するにしてもしないにしても、「この流れ」を無視するわけにはいきません。同法により促されている業務改善のチャンスに乗らない手はないのです。
法律の背景や趣旨、市販システムの考え方やしくみから。学ぶべきことがあります。
同法の利用、システムの利用にかかわらず。学べるところ、取り入れることができることにチャレンジしましょう。
本来の仕事の生産性を少しでも上げるために、「事務・作業」の部分は改善をし続ける姿勢がたいせつです。
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きょうの執筆後記
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当事務所の経理では、「MFクラウド経費」という経費精算システムを使っています。
もちろん、使わなくても経理はできますが。世の中の流れから取り残されないようにということもあってのことです。
それにしても、わたしが税理士業界に入った18年前とは世の中が別モノ。どこまでいくのだろうと、楽しみなところです。