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【掟上今日子の退職願/西尾維新】ほんとうに活かせる名言をみつけよう #12

掟上今日子の退職願

きょうの名言は、西尾維新さんの「掟上今日子の退職願」から。

古今東西、世の中はたくさんの名言であふれています。自分にとって「活かせる」名言、みつけてみませんか?

目次

最速にして忘却の探偵、掟上今日子

推理小説「掟上今日子シリーズ」を知ったのは、テレビドラマがきっかけでした

2015年秋、「掟上今日子の備忘録」として小説は実写化。25歳にして総白髪、美人でオシャレでお金が大好きな探偵・掟上今日子役には新垣結衣さん。うん、カワイイ。というのもないわけではありませんが。

掟上今日子の助手役に岡田将生さん、というキャスティングが好きで見始めたドラマです。人気ドラマ「リーガルハイ」でも、2人の「掛け合い」は面白かったし。ということで、原作である小説も読むようになりました。

作品を知らない方のために少しだけ補足しておきます。

探偵・掟上今日子は記憶を1日しか維持できません。寝て起きると、昨日の出来事はきれいさっぱり忘れてしまうという特異体質の彼女。自分が何者であるかを忘れないよう、ペンで腕に書かれた文字は

私は掟上今日子。25歳。探偵。記憶が1日でリセットされる

どうしてそのようになってしまったのかは、本作品の時点では明らかではなく、彼女の過去はベールに包まれています。

それでもケタ外れの探偵スキルを武器に、「どんな事件でも一日で解決する」のが掟上今日子。もっとも、1日で解決できなければ捜査内容は忘れてしまうのですから、「1日で勝負」するしかないのですが。

そんな「最速にして忘却の探偵」が挑む難事件は、警察からの依頼で舞い込みます。どんな機密事項も明日になれば忘れてしまうという体質は、最高の「機密保持機能」。警察公認の探偵というのが、掟上今日子の役回りです。

それではいつもどおり、名言を紹介です。

総当たりでも最速であれば

探偵・掟上今日子の謎解きスタイルは「可能性の総当たり」。傍からすると「それはないだろう」ということまで考えます。ゆえに作中、周囲からは「本気で言ってんの?」みたいなツッコミを受けまくるほど。

たとえば、野球場のマウンドで野球選手「転落死」事件。周囲に高所がないピッチャーズマウンドという場所で、「転落死」した野球選手が発見されます。そんな事件捜査の過程で、やはり彼女は言うのです。

ピッチャープレートにつまずいて、すごく勢いよく転んだ―とかですかね

思いついたことをテキトーに言っているようでも実は本気です。実際、彼女は女性刑事にキャッチャー役を命じ、マウンドから「勢いよく投球」を実践。投球後にマウンドで倒れます。立ち上がり口にしたのは、

やっぱり、私なら、こんなところで死にたくはないですね

こうして彼女は、マウンド上で自ら転落死などできないことを実践として証明します。さらに、「死者本人の意志で、マウンド上で死ぬなんておかしいのではないか」という人の心理を体感するのです。

小説とはいえ、彼女の純粋な「プロ意識」を感じるシーン。100人が100人、当たり前と感じることでも、可能性としての存在を本気で認識する。これは思っている以上に難しいことではないでしょうか。

わたしも含めて、多くの人は「可能性」を軽んじるところがあります。「当たり前」という言葉をよく口にします。「当たり前」を理由に、しばしば「それ以降」を放棄します。

でも、掟上今日子は違うんですね。首尾一貫して、可能性の総当たりです。

水深1メートル半の浅い池に浮かんだ「水死体」事件。ここでは、可能性を確かめるべく自ら池に沈むという破天荒ぶりをみせます。余談ですが、とんでもない「破天荒」キャラが掟上今日子の魅力でもあります。さて、彼女は刑事にボート上からの目視の依頼と、こんな言葉を残してダイブします。

実験と、実践と、実体験です

わたしたちが「可能性」を軽んじるのは、人生の短さゆえ。時間の有限性ゆえかもしれません。人生は短い、「当たり前」にかまっていられるほど暇ではない、と。

ところがそれを言えば、掟上今日子には「明日」がありません。今日の自分は、今日しかいない。可能性の総当たりが非効率であるにもかかわらず、可能性に妥協しない姿に心打たれます。

彼女の最速たる所以は、「非効率でも速い」こと。可能性あらば躊躇しない行動こそが、結果として事件を最速での解決に導いていきます。

当たり前を当たり前で終わらせない

「当たり前」と流されがちな場面にも、掟上今日子は疑問を呈します。そこに名言あり。

容疑者多数のバラバラ殺人事件。人数が多過ぎる容疑者たち、にもかかわらずその「全員」に「不完全」ながらもアリバイがある。彼女が言うのは

不完全さゆえに完全に見えて―作為がありそうだから、不作為に見える。乱離骨灰(らりこっぱい)と言いますか。なんと言いますか―バラバラですねえ

「違和感を流さない」のが掟上今日子です。

そして、事件の真相にたどりついた彼女は言います。死体をバラバラにするには「短時間すぎる犯行時間」のとらえ方について。

短時間で、バラバラにしたんじゃありません。バラバラで、短時間にしたんです

ネタバレしないように詳述は避けますが、掟上今日子はどんな「当たり前」も多面的にとらえていることがわかります。禅問答のような彼女のセリフは名言にあふれています。

前述の野球選手「転落死」事件での決めゼリフはこれ。

『どこから地面に落ちたのか』ではなく、『どこの地面から落ちたのか』を、問うべきなのです

明日なき日にも揺るがない職業意識

記憶が1日でリセットされる掟上今日子には、ほんとうの意味での「明日」がありません。明日という日は訪れますが、そこに昨日までの自分はいないのです。それでも彼女は腕に記された文字を頼りに探偵を続けています。

寿退社を決めていた女性刑事が掟上今日子に尋ねます。さきほどの「ボート上からの目視」を頼まれた刑事です。刑事は、水底に寝転んで泥だらけの無残な姿の探偵を前に思わず口にします。

「あなたはどうして、そこまで探偵であろうとするんですか?そんなことをしなくとも別の幸せがあるとは思いませんか?」と。

私は別に、幸せであるために、探偵をしているわけではありませんけれど―ただの仕事ですよ

なぜ探偵をしているのかもわからない掟上今日子は、腕に記された「探偵」という仕事を続けることが自分の存在証明でもあります。でもそれは逆に、脆すぎる証明でもあります。「その文字」が無くなればおしまいです。

これの、ここを消してから、職場以外の寝床で、ぐっすり寝ればいいだけなんですから

さしずめこれが、私にとっての退職願なんですよ。忘却探偵にとって、退職願は書くものではなく、消すものなんです

明日なき日と今日とをつなぐ、たった2文字の「探偵」という言葉。そんな脆さとは裏腹に、揺るぎないように見える彼女の職業意識とは?

掟上今日子は、事件の依頼者の視点、依頼者側の主観で描かれています。掟上今日子の言葉や様子は知れども、その本心、本音まではわかりません。そこがまた、読み手の自由であり、面白いところではあるのですが。

小説上のつくり話とはいえ、自分が同様の状況に置かれたならば。ここまで強く生きることはできるだろうか。ついつい、そんなことを考えてしまう作品です。

それに。わたしにとっての明日は、幸いにして普通にやってきます。そんな当たり前に慣れ過ぎぬよう、毎日をあたらしい気持ちで迎えることの大切さに気付かせてくれます。

本作はシリーズ第5作。掟上今日子のなぞはまだまだこれから。最速にして忘却の探偵・掟上今日子は、今日もどこかで難事件に挑みます。

承りました。解決しましょう、最速で

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  きょうの執筆後記
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昨日は終日外出。夕方にランニング。暑さと湿気はランニングには厳しいものがあります。
距離を伸ばしたいのに、無理をしてもいけないので躊躇してしまいます。1日5kmをなかなか抜け出すことができない・・・
11月にエントリーした10kmマラソンに向けて焦りが募ります。

掟上今日子の退職願

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