ミョーに現金預金の残高が多くない?
多ければ多いほど良いような気がする「現金預金」。
ところが、決算書を見るにあたっては。ちょっとした注意が必要です。
「多ければ良い」ってもんじゃない現金預金
決算書のひとつ貸借対照表。その筆頭をつとめる「現金預金」は、目につきやすいし大事です。
おカネがあるのはイイことだ
現金にしても預金にしても、おカネがあるのは安心です。良いことです。
ただし、「ほんとうに」そうならね。
ということで、決算書上の現金預金の残高は大きいのに「ほんとうは」そうじゃないケースを見ていきます。
現金預金の「3つのウソ」
決算書に記されている現金預金の残高について。ほんとうはそうじゃない、実態はちょっと違う、というのは次のとおりです。
- 現金残高が間違っている
- 現金残高を偽装している
- 自由にならない預金がある
現金預金残高が大きいからといって、安心してばかりもいられません。
税務署、銀行など。あなたの「周囲」は、その残高に、疑いのまなざしを向けているかもしれないのですから。
《疑いの眼1》現金残高が間違っている
「現金」の残高が大き過ぎると、「間違ってんじゃないの?」ということを勘ぐられます。
経理が杜撰、ただそれだけ。
毎日、現金の残高を確認せず、帳簿づけを溜め込んでいると。「現金残高」がおかしくなることがあります。
たとえば。ある日、預金口座から50万円の現金を引き出しました。その後、なんだかんだいろいろと支出をし、引き出した現金を使い切りました。すっからかん。
支出したときにもらった領収書を頼りに、現金出納帳をつけてみたところ。現金残高は20万円。おかしいな、もうおカネはもっていないのに…
領収書を失くしたり、支出したことを忘れてしまったりすると、この20万円を解消することが難しくなります。
昨日のことであれば思い出せるでしょうが、何か月も前のことであれば忘れてしまうこともあるでしょう。結果、20万円の残高は放置。
こういったことが積み重なって、実態とは異なる「決算書上の現金残高」がどんどん大きくなる。日々の帳簿づけをサボることによる弊害です。
期末の現金残高に気を付けろ
そんなわけで。決算書の現金残高がミョーに大きいと、「この会社の経理は大丈夫かいな?」と疑われます。
いまの時代、手元に大量の現金を持つのは「不自然」です。銀行取引が主流ですし、クレジットカードや電子マネーなど決済方法も多様化しています。現金を使う場面は多くない。
にもかかわらず、決算書には100万円単位の現金が…ということになれば。疑われるのもやむなし、といったところです。
もちろん、これは一般論。なかには、ほんとうに現金が必要な場合もあるでしょう。ただし、期末に、決算日には、大量の現金を手元には残さない方がいいかもしれません。
決算書を提出する税務署や銀行に、余計な詮索をされるのもナンですからね。普段は現金が必要でも、期末には一度、銀行に預けておくのが賢明です。
《疑いの眼2》現金残高を偽装している
「偽装」だなんて穏やかじゃないじゃない?でも、そんなケースも散見されます。
ほんとうは無いのに、有ると言う
たとえば。社長がどうしても個人的に「おカネが入り用」だ、と。そこで、会社の預金口座から100万円の現金を引き出して借用することに。
これは会社から見ると、社長に対する「貸付金」になります。決算書には「貸付金 100万円」として計上されるべきものです。
ところがこれを、貸付金ではなく、「現金引き出し」として処理すると。当然、その分の100万円が、決算書の現金残高には残ることになります。
なぜ、そんなことをするのか?社長に対する貸付金なんて見栄えが悪いな、と考えるからです。
「利息を取れ」と言う税務署
税務調査で貸付金であることが判明すれば。税務署は、「会社は社長から利息を取れ」と言います。
会社というのは「営利目的」の存在です。おカネをタダで貸すだなんてあり得ないでしょ。だから、人並みに利息を取ってくださいということ。
ところで、税務調査でこの「偽装」はバレるのか?当然、バレるケースはあります。どうしてバレるかというと、
- 調査時に、現金出納帳の現金残高と同額の現金が手元にない
- 社長個人の預金口座のおカネの動きを見られる など
ちなみに、社長個人の預金通帳は、税務調査で見せなければいけないのか?プライベートなモノなのに。
実は、「この場合」には見せなければいけません。会社と「債権者、債務者の関係」にある場合には、社長の個人通帳にまで調査の権限が及ぶことになっています。気を付けて。
「返してもらえ」と言う銀行
もしも、現金偽装が見抜かれた場合。おカネを貸して欲しい、と言おうもんなら銀行も黙ってはいないでしょう。
おカネを借りる前に、社長に貸しているおカネを返してもらってくださいよ。というのが銀行の言い分になります。
銀行融資を受けるにあたり、「貸付金」が計上されている決算書というのは非常に心証が悪い、ということを覚えておきましょう。
《疑いの眼3》自由にならない預金がある
現金と違って、預金は通帳に記録が残る。実態とズレることなんてないだろう。そうでもありません。
担保にされている預金
ずばり、「銀行の担保にされている預金」は、無いに等しいものがあります。
「無い」というのは言い過ぎにしても。借入金とひも付き、借入金の見合いとされる「担保の預金」を、自由に使うことはできません。
決算書上の預金残高は大きいのに「ほんとうは」そうじゃない、というケースです。
財務分析の注意点
「担保の預金」について、財務分析では注意が必要です。
たとえば「流動比率」の計算。流動比率とは「流動資産÷流動負債」の算式による、安全性をはかる指標です。
通常、預金は流動資産にカウントされますが、「担保の預金」は流動資産とはいえません。あえて分類するなら「固定資産」でしょう。
こうして「担保の預金」が流動資産から外れることで、流動比率は悪化します。
これは自社の財務分析をするときはもちろんですが、他社分析の際にも重要な着眼点となります。
決算書上に多額の銀行借入がありながら、わりと「潤沢な定期預金」などもある場合。「担保の預金」かも、という眼が必要になる。そういうことです。
まとめ
大きすぎる現金預金の残高について話をしてきました。
日頃の帳簿づけ(経理)をサボって、現金残高が誤っていることは論外にしても。
自らの決算書の「現金預金」に、「客観的な視点」を向けてみる意義はあるでしょう。決算書とは本来、人目に晒されるべきものなのですから。
そういうときだけ、「ウチは零細企業だから」というのはずいぶんと都合の良い話に聞こえます。
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きょうの執筆後記
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