決算書に含まれる書類のひとつ、「損益計算書」を見ていると。ある「共通の問題」を抱えている会社が少なくないことに気が付きます。
というわけで。損益計算書の2大問題「意図的に利益を減らす」と「一方的に売上を増やす」についてのお話です。
自社の損益計算書に「2大問題」はあるか?
お客さまからのご相談(税金や銀行融資など)を受けるなかで、これまで相当数の「決算書(あるいは試算表)」を拝見してきました。
その決算書に含まれる書類のひとつ、「損益計算書」を見ていると。ある「共通の問題」を抱えている会社が少なくないことに気が付きます。
共通の問題、とは。具体的には、次の2つです↓
- 意図的に利益を減らす
- 一方的に売上を増やす
この2つは、いわば「損益計算書の2大問題」だと、わたしは考えています。
自社の損益計算書を見たときに、これら2つに当てはまってはいないか?当てはまっている場合、このままでだいじょうぶなのか?
だいじょうぶではありません、要注意です。
そこで、「損益計算書の2大問題」のなにが問題なのか、そして、問題を解消するにはどうしたらよいのかについて、このあとお話をしていきます。
《問題その1》意図的に利益を減らす
なにが問題なのか?
意図的に利益を減らすだなんて、そんなことあるわけがない。出せるものなら、たくさんの利益を出したい! そう思われるかもしれません。
ところが。一定数の会社では、「意図的に利益を減らす」損益計算書がつくられています。ではなぜ、意図的に利益を減らすのか?
税金を払うのがイヤだから、です。
利益が多くなるほど税金も多くなるしくみであることから、「そんなに税金を払うくらいなら、利益を減らしてしまえ」との発想がうまれます。
たとえば、モノを買って経費を増やすとか、飲み食いをして経費を増やすとか。いずれにせよ、経費を増やして利益を減らす。利益を減らすことで、税金を減らそうと考えるわけです。
このように「意図的に利益を減らす」と、大きく2つの問題が起こります。
まず1つは、銀行からの融資が受けにくくなることです。銀行は「利益」を返済原資と見ていることから、利益が大きいほど融資をしやすい。
いっぽうで、もしも「利益が無い(赤字)」ということになれば、理屈上は「1円も返済できない会社」になるので、融資は受けにくくなります。
ひとつの目安として、銀行が考える融資上限額は「税引後利益 × 10」です。税金を嫌って利益を減らす、結果として、「減らした税引後利益の10倍」の融資が受けにくくなることは覚えておきましょう。
もし、意図的に 100万円の税引後利益を減らしたとしたら。その 10倍の 1,000万円の融資が受けにくくなる、ということです。
ちなみに。このとき、利益を減らすことで減った税金は 40万円ていどです(税率が 30%とすると)。そう考えると、目先の 40万円の税金よりも、今後の 1,000万円の融資のほうが重要だ、とも気がつくでしょう。
というように。銀行融資が受けにくくなる、ひいては、資金繰りが悪化する。これが、「意図的に利益を減らす」ことで起きる問題のひとつめです。
加えて、もうひとつ。「意図的に利益を減らす」と、手元に残るおカネが少なくなってしまう、という問題もあります。
たとえば、500万円の利益を出せる会社があった場合。税率が 30%だとすると、税金は 150万円になります。よって、税金を払ったあとに残るおカネは 350万円です。
では、この会社の社長が「税金を 150万円も払いたくない。500万円の経費を増やしちゃおう」と考えたとすると。利益はゼロになるので、税金もゼロです。ところが、手元に残るおカネもまたゼロです。
すなおに税金を払っていれば、手元には 350万円のおカネが残ったはずなのに… 税金は 150万円減ったとしても、これでは本末転倒です。
利益を減らすと、おカネも減る。言われてみればあたりまえでも、いざ税金を目の前にすると、利益を減らしたくなってしまう… という会社は少なくないようです。
なお、手元に残るおカネが減る問題は、経費をどれだけ増やすかとは関係ありません。増やす経費が 10万円だろうと 100万円であろうと、経費を増やす前よりも、手元に残るおカネが減るという結果はいっしょです。
手元に残るおカネが減る。そのうえ、前述したように「銀行融資が受けにくくなる」のWパンチ。これが、いかに資金繰りを厳しくするか。自身の首を締めているかは、ようく理解をしておくようにしましょう。
問題を解消するには?
ここまで、「意図的に利益を減らす」ことで起きる問題を確認してきました。
では、この問題を解消するにはどうしたらよいか? もうだいじょうぶですよね。
出せる利益を出すことです。出せる利益を「惜しまず」に出すことです。そのためには「税金」に対する意識を変えなければいけません。
税金は、「利益を出すため・おカネを増やすための経費だ」と考えることができれば、税金を払う必要があると考えやすくなるでしょう。
もちろん、払う必要がない税金を払うことはありませんので。いわゆる「節税」はすべきです。ただし、「節税」と「意図的に利益を減らす」こととは、けしてイコールではありません。
節税をするのであれば、利益を減らさずに済む節税を検討しましょう。具体的には、各種の税額控除や経理処理のくふうなど。よくわからなければ、顧問税理士に相談をしてみるのもおすすめです。
出せる利益を惜しまずに出し続けた会社と、出せる利益を出し惜しんだ会社と。そのまま時がたつと、両者のあいだには「天と地」ほどの差が生じます。
その差はどこに生じるのか? と言えば。貸借対照表の「純資産」のなかにある「利益剰余金」です。
利益剰余金は「過去の利益の累積金額」になります。出せる利益を出し続けた会社の利益剰余金は厚く、出し惜しんだ会社の利益剰余金は薄い。
利益剰余金が厚いほど、その会社の財務基盤は強固なものとなり、銀行をはじめ対外的評価も高まります。利益剰余金を一見するだけでも、その会社の「利益に対する姿勢(惜しまず出すか・出し惜しむか)」は想像できるものです。
《問題その2》一方的に売上を増やす
なにが問題なのか?
売上を増やすことの、いったいなにが問題なのか? 売上が増えるのはけっこうなことではないか? と、不思議に思われるかもしれません。
たしかに、売上が増えること自体に問題はないのですが。売上を「一方的」に増やすようだと、問題が起きることが少なくない。そういう話です。
世の中いっぱんに、とかく「売上」は注目されがちです。その会社の業績や規模をはかるために、しばしば「売上はいくらか?」が問われます。また、「〇期連続、売上が右肩上がり!」が華やかに報じられもします。
ではいったい、「一方的に売上を増やす」ことのなにが問題なのか? 大きく2つの問題があります。
まず1つは、値下げです。もう少し言うと、値下げによって利益が低下する。売上は増えているのに利益は増えない、ヘタをすると利益は逆に減っている。
そんなバカな、と言いたくもなりますが。そのような損益計算書を、しばしば見かけますので、バカにはできません。
そのように、「売上は増加、利益は減少」が起きるのは、「売上至上主義」におちいっている会社です。つまり、「とにかく売上を増やすんだ!」と躍起になっている会社です。
さきほども言ったとおり、世の中いっぱんに「売上」は注目をされがちなので。会社のなかでも「売上」に注目が集まるのは自然なことでしょう。
けれども、その注目が行き過ぎると。売上を増やすために「値引きをしよう」といったことがはじまります。いわゆる「価格勝負」です。
価格を下げることで買ってもらいやすくなる。すると、売上は増えるかもしれませんが、いっぽうで、仕入や経費は変わりませんので、「売上あたりの利益(利益率)」は減ってしまいます。
利益が減るとどうなるか。それは、「意図的に利益を減らす」のところでお話をしたとおりです。過程は違えども、最終的に利益が減った会社の行く末は同じです。財務基盤が痛みます。会社が弱くなります。
また、値下げをして「売上あたりの利益(利益率)」が減ると。利益を増やすために「もっと売ろう!」と考えます。すると、もっと売るために「さらなる値下げ」を実行することがあります。
当然、「売上あたりの利益(利益率)」はいっそう減りますから、売れども売れども、思ったとおりには儲からない。売るのにたいへんな思いばかりしている… 負のループです。
というように。売上は増えても利益は増えない、ヘタをすると利益は逆に減る。これが、「一方的に売上を増やす」ことで起きる問題のひとつめです。
加えて、もうひとつ。「一方的に売上を増やす」と、経費が増える、という問題もあります。
売上が増えると、気が大きくなるのかどうなのか。経費もまた膨らむことが少なくありません。交際費が増えるとか、広告費や消耗品費が増えるとか。
経費が増えること自体に問題はないにせよ。利益を増やすことに貢献しない経費、貢献が小さい経費が増えるのは問題です。
また、売上を増やすことで、管理コストが増えるケースもあります。たとえば、商品在庫の管理コストです。
売上を増やすために、品揃えを増やすとか、品切れしなように在庫量を増やすとか。すると、従来よりも保管場所のスペースが必要になります。スペースを確保するにもおカネがかかるでしょう。
保管場所や在庫に対する保険料も増えますし、それらを管理するための人件費だって増えるでしょう。結果として、廃棄ロスが生じるかもしれません。
いずれにせよ、売上を増やすと管理コストも増えることがある。管理コストが増えれば、その分の利益が減ってしまいます。
とうわけで。売上を増やすことには問題もある。とくに、「一方的に売上を増やす」といった損益計算書に、その問題はよくあらわれることを理解しておきましょう。
問題を解消するには?
ここまで、「一方的に売上を増やす」ことで起きる問題を確認してきました。では、この問題を解消するにはどうしたらよいか?
まずは、「価格勝負」をしないこと。価格勝負からは降りることです。
価格を下げて売るのではなく、商品・サービスの価値を上げて、逆に値上げをする。価値に見合った値上げであれば、売れるはずです。
もしかすると、価格が上がった分だけ、購入者数・購入数量は減るかもしれません。けれども、売上あたりの利益は増えていますから、利益はそれほど減らない、逆に増えることもありえます。
なにより、購入者数・購入数量が減るということは、その分の「余力」がうまれるのがメリットです。
たくさん売らなくてもよいので、売るための手間と時間、人手を減らすことができるでしょう。そうしてうまれた「余力」は、さらなる「価値」の引き上げに充てることができます。
価値が上がるから値上げする。値上げするから余力がうまれる。余力がうまれるから、また価値を上げられる。好循環です。
そもそも、いま現在の価値に対して「低すぎる価格」をつけている会社もあります。同業他社の価格を気にするあまり、自社の価値を過小評価している。
そのような状況であれば、「価値の伝え方」を再検討することで、すぐに価格を上げることも可能です。これから価値を高めて値上げする以前に、すでに値上げできるケースもあるわけです。
世の中いっぱんに注目される「売上」ばかりではなく、利益に注目する。とくに、「売上あたりの利益」に注目をするようにしてみましょう。
まとめ
決算書に含まれる書類のひとつ、「損益計算書」を見ていると。ある「共通の問題」を抱えている会社が少なくないことに気が付きます。
- 意図的に利益を減らす
- 一方的に売上を増やす
自社の損益計算書を見たときに、これら2つに当てはまってはいないか?
当てはまっている場合には、なにが問題なのか、そして、問題を解消するにはどうしたらよいのかを理解しておくようにしましょう。