銀行融資の世界には、「ヒトを見て貸せ」の言葉があります。会社におカネを貸すときにでも、社長や社員といったヒトを、銀行は見ています。
というわけで。銀行が決算書から社長の人格・能力をはかるポイントについてのお話です。
銀行が貸したおカネを使うのはヒト。
銀行融資の世界には、「ヒトを見て貸せ」の言葉があります。銀行は「会社」におカネを貸すときにでも、社長や社員といった「ヒト」の人格や能力まで見て貸しなさい。そういうことです。
銀行融資というと、とかく「決算書の良し悪し」が注目されます。もちろん、決算書がだいじな要素であることは間違いありません。融資の可否を決める、いちばんの要素だと言っていいでしょう。
いっぽうで。「ヒト」という要素が、銀行融資の可否に与える影響はけして小さくありません。銀行が貸したおカネを使うのは、会社にいる「ヒト」ですから。ヒトに問題がある会社に、銀行が融資をしないのは当然でしょう。
この点で。銀行は、会社の決算書から「社長の人格・能力」をはかろうとしています。一見すると、決算書は「数字」の羅列です。それも、「会社」の数字です。ところが、見る者が見れば、「社長」の人格や能力がわかってしまう。
それを、おカネを借りる側の社長も、知っておくようにしましょう。
というわけで。銀行はどのように、決算書から社長の人格・能力をはかろうとしているのかについて、お話をしていきます。具体的にはこちらです↓
- キャッシュの大切さをわかっているか?
- 債権管理はできているか?
- 見栄っ張りかどうか?
- ギャンブラー気質があるか?
- 公私混同していないか?
- 利益を重視しているか?
自社は銀行からどんなふうに見られているのか? 決算書を片手に、このあと確認をしていきましょう。
銀行が決算書から社長の人格・能力をはかるポイント
決算書から社長の人格・能力をはかるポイントはいろいろありますが。とくに重要度が高いものを取り上げて、お話をしていきます。
キャッシュの大切さをわかっているか?
決算書のうち、貸借対照表の「現金預金」を見てみましょう。銀行は、現金預金がどれくらいあるかを見て、社長が「キャッシュの大切さをわかっているか?」をはかっています。
キャッシュ、俗っぽい表現だと「現ナマ」がどれくらいあるかは、会社の生命線です。いくら売上や利益があっても、キャッシュが1円足りなければ会社はつぶれます。ほんとうに1円だけ足りないことはないにしても、キャッシュが少ない会社が倒産しやすいのは間違いありません。
それを理解している社長は、「相応の額」の現金預金を貸借対照表に積んでいるものです。銀行はそこを見ています。
では、いくらくらいの現金預金があればいいのか? どんなに少なくても、月商(年間売上高÷12)の1ヶ月分以上。できれば2ヶ月分以上、もっと言えば3ヶ月分以上です。これは、銀行から借りたおカネであってもかまいません。
たとえ借りたおカネでも、手元におカネがある会社はつぶれにくい。おカネを貸しやすい。それが銀行の見方です。
これに対して、現金預金が月商の1ヶ月未満の会社を銀行は嫌います。たとえ、無借金だとしてもです。キャッシュが少ない会社は倒産しやすいことを、銀行は統計的に理解しています。結果として、「この社長、キャッシュの大切さをわかっていなんだろうなぁ」と見られてしまう。覚えておきましょう。
債権管理はできているか?
決算書のうち、貸借対照表の「売掛金」を見てみましょう。銀行は、売掛金がどれくらいあるかを見て、社長が「債権管理はできているか?」をはかっています。
端的に言うと。売掛金や受取手形の金額が多すぎれば、「債権管理ができない社長だ」と見られやすくなる。売掛金や受取手形のなかに「回収不能」があるのではないか? 回収不能にしてしまう甘さがあるのではないか? と見られてしまうからです。
では、いくらくらいの売掛金や受取手形になると「多すぎ」なのか? 銀行は、同業他社平均と比べてチェックしています。同業他社平均に比べて明らかに多いとなると、その原因を社長にたずねているはずです。
これによって、回収できない売掛金や受取手形の存在がバレてしまうのはもちろん、あいまいな回答しかできないような社長であれば、債権管理の意識・能力の低さを疑われるばかりです。
似たようなハナシで言うと。在庫(たな卸資産)が同業他社平均に比べて多すぎると、やはり銀行は、在庫の管理意識・能力の低さを疑います。売掛金や受取手形にしても、在庫にしても、会社の資金繰りに深くかかわるところなので、銀行はとくに注目をしているものです。
というわけで、社長もまた、同業他社平均と自社の決算書とを見比べるクセをつけておくのがいいでしょう。くわしくはこちらの記事をどうぞ↓
見栄っ張りかどうか?
決算書のうち、貸借対照表の「固定資産」を見てみましょう。銀行は、固定資産がどれくらいあるかを見て、社長が「見栄っ張りかどうか?」をはかっています。
固定資産とは、たとえば、建物や土地、機械、クルマ、備品類などです。見えっ張りな社長の会社では、固定資産の金額が膨らむ傾向にあります。華美な事務所、立派な工場、オーバースペックの機械、分不相応に豪華な社長車、数が多すぎる備品類などなど。
これらを見た銀行が思うことは、「見栄っ張りな社長だなぁ」です。見栄っ張りは、カネ遣いの粗さにつながります。固定資産を買わなければ、おカネとして残っていたはずですから。「必要以上」の固定資産が、会社の資金繰りに悪影響を及ぼしていることになります。
はたして、「必要」な固定資産だったのかどうなのか? それを証明するいちばんのものは「利益」です。利益が出ているかどうか、です。基本的に、固定資産は「利益を生み出す」ために購入するもの。にもかかわらず、利益が出ていない・赤字となれば、「必要以上の固定資産だったんじゃないの?」と言われても、文句は言えません。
固定資産を買うなら、利益を生み出す。利益を生み出せない固定資産は買わない。あたりまえのことではありますが、そのあたりまえを数字で見せられるかどうかが「見栄っ張りかどうか?」の分かれ目です。
[ad1]ギャンブラー気質があるか?
決算書のうち、貸借対照表の「有価証券」を見てみましょう。銀行は、有価証券がどれくらいあるかを見て、社長に「ギャンブラー気質があるか?」をはかっています。
有価証券とは、株式や債券、投資信託など。これらが、取引先との関係性を築くものであったり、中長期的な投資活動であればよいのですが。「短期的なもうけ(値上がり益)」を狙った、いわばギャンブルというケースがあります。
ですから、決算書に有価証券があると、まず間違いなく銀行からは「内容」を聞かれるものと考えておきましょう。
なお、有価証券を持つのであれば、「自己資金の範囲内」の金額に納めるべきです。具体的には、貸借対照表の「純資産」の金額以下であること。逆に、純資産の金額を超えるようだと、負債で有価証券を買っていることになってしまいます。
負債で有価証券を買う、とは。言い換えれば、借金をしてギャンブルをするようなものです。そんな会社に、銀行はおカネを貸したいとは思えませんよね。
たとえ、短期的なもうけを狙った有価証券でないとしても、金額は自己資金の範囲内にしておきましょう。そもそも銀行は、会社の「事業」におカネを貸すのであって、「投資」に貸すことはありません。投資は、会社の事業ではありません。
公私混同していないか?
決算書のうち、貸借対照表の「貸付金」を見てみましょう。銀行は、貸付金がどれくらいあるかを見て、社長が「公私混同していないか?」をはかっています。
中小企業の決算書で見る「貸付金」で多いのは、社長や親族に対する貸付金、知人・友人が経営する会社への貸付金です。これらは、会社のおカネを社長のプライベートにまわしているとも言えます。銀行からは「公私混同」と見られるところです。
さらに、それら貸付金の返済が進んでいない、回収ができなくなっている… となると。言い逃れはできません。銀行からすると、「そんな会社におカネが貸せるか(いや、貸せない)」となるわけです。なぜなら、貸したおカネもまた公私混同に使われてしまいそうだからです。
似たようなハナシでいうと、交際費や旅費交通費が多い決算書も、社長の公私混同を疑われやすくなります。コロナ後はだいぶ減ったでしょうが、社長の好きが高じた飲食接待、それにともなうタクシー代などは、公私混同と見られかねません。
また、高額の役員報酬(社長の給料)も、公私混同と見られる可能性があります。もちろん、社長なのですから、役員報酬が高額であること自体が悪いわけではありません。会社の業績が良いときには、役員報酬を増やして、いざというときのために社長が貯金をしておくことだってあるでしょう。
問題は、社員の給与水準と比べてどうか? です。社員の給与水準は、「世の中の平均」と比べるとだいぶ低い。いっぽうで、社長の役員報酬はだいぶ高い。これはちょっと… と、思いますよね。銀行だって、そう思います。そのあたりのバランスには注意しましょう。
利益を重視しているか?
決算書のうち、貸借対照表の「利益剰余金」を見てみましょう。銀行は、利益剰余金がどれくらいあるかを見て、社長が「利益を重視しているか?」をはかっています。
利益を重視していない社長なんて、いるわけがない! と、思われるかもしれませんが。ほんとうにそうなのかどうかを、銀行は「利益剰余金」という数字ではかっているわけです。
事実、利益剰余金には、社長がどれだけ利益を重視しているかがあらわれます。
ちなみに。利益剰余金とは、会社が創業してからいままでの「税引後利益の累積」です。したがって、創業何期目かがわかれば、「利益剰余金 ÷ 期数」で、毎期の平均的な税引後利益を求めることができます。
ですから、利益剰余金が多い会社ほど、社長は利益を重視していると見ることができる。逆に、利益剰余金が少ない会社ほど、社長は利益を重視していないと見ることができる。
いやいや、利益剰余金が少ないからといって、重視していないわけじゃないだろう。そう、言われるかもしれません。たしかに、重視していても、業績が振るわないということはあるはずです。
ただ、いっぽうで。業績は悪くないのに、あえて利益を減らそうとしている社長もいます。利益が増えると税金が増える。だから、税金を減らすために利益を減らそうとする社長がいます。そういう会社の利益剰余金は、当然少なくなります。
銀行は、そこも見ていることを覚えておきましょう。利益剰余金が少ないほど、会社の財務的な安全度は下がります。ちょっとしたことでも「債務超過(資産よりも負債が多い)」に陥りやすくなります。税金を惜しむばかりに、利益剰余金が過少になっていないか? 社長が気をつけるべきポイントです。
まとめ
銀行融資の世界には、「ヒトを見て貸せ」の言葉があります。会社におカネを貸すときにでも、社長や社員といったヒトを、銀行は見ています。
というわけで、銀行が決算書から社長の人格・能力をはかるポイントを押さえておくとよいでしょう。
- キャッシュの大切さをわかっているか?
- 債権管理はできているか?
- 見栄っ張りかどうか?
- ギャンブラー気質があるか?
- 公私混同していないか?
- 利益を重視しているか?