良かれと思った「買掛金や未払金の計上を見送る決算書」には、実は良いところがない。むしろ、銀行融資には「3つの悪影響」を及ぼしている、というお話をしていきます。
良かれと思ったことが、なにも良くない。
きょうは、2021年6月11日。いまなお新型コロナによって、厳しい決算を余儀なくされている会社は少なくありません。そのなかで、ときおり目にするのは「買掛金や未払金の計上を見送る決算書」です。
決算日時点で仕入代金の請求書を受け取っている(買掛金)、決算日時点で経費の請求書を受け取っている(未払金)。これらは本来、買掛金であれば「仕入高」を、未払金であれば「経費」を計上すべきものになります。
ところが、仕入高や経費を計上すると、その分だけ利益が減ってしまう。赤字が大きくなってしまう。それでは、銀行融資も受けられなくなってしまう…
だったら、買掛金や経費の計上はやめてしまえばいい。支払いが済んだ分だけを、仕入高や経費に計上することにしよう。それが「買掛金や未払金の計上を見送る決算書」です。
そんな決算書が、銀行融資に及ぼす3つの悪影響についてお話をしていきます。こちらです↓
- 結局、銀行にバレる
- 融資が受けづらくなる
- 翌期以降も利益を出しづらくなる
良かれと思った「買掛金や未払金の計上を見送る決算書」には、実は良いところがない。むしろ、銀行融資には悪影響を及ぼすことを理解しておきましょう。
それではこのあと、順番に見ていきます。
買掛金・未払金の計上を見送る決算書が銀行融資に及ぼす3つの悪影響
【悪影響1】結局、銀行にバレる
買掛金や未払金の計上を見送るのは、これ以上、決算書の利益を減らさないため。赤字を増やさないためだ、という話を冒頭でしました。
けれども、本来は計上すべきものだ。というのも、お話をしたとおりです。したがって、買掛金や未払金の計上を見送るのは、利益の水増しであり、いわゆる「粉飾決算」にあたります。
では、銀行が粉飾決算を見抜けるのか? 基本的に、見抜きます。いやいや、ウチは粉飾をしているけど、銀行からなにも言われないよ。と、思われる社長がいるかもしれませんが。
それは、見抜かれていないのではなく、見抜いているけど言わないだけです。なにも言わずに、これ以上の融資はしないと決めています。言えば言ったで、逆ギレする社長と口論になったりしても困るので。
でもなぜ、粉飾決算は銀行にバレてしまうのか? 買掛金や未払金が無いことを、銀行はどのように把握しているのか? 無いものを有る、と証明するのは難しいことではないのか?
それが、そうでもありません。意外とカンタンにわかります。なぜなら、買掛金や未払金と対になる、仕入や経費の金額が、粉飾前に比べて大幅に減るからです。
たとえば、同じ商品を売っているのであれば、原価率(仕入÷売上)は大きく変わりませんよね。けれども、買掛金の計上を見送ったことで仕入が減れば、原価率は大幅に下がります。これはアヤシイ。
また、役員や社員の人数・給料に変わりがなければ、会社が支払う社会保険料の額も変わりませんよね。けれども、未払金の計上を見送ったことで経費(法定福利費)が減っていれば、やはりアヤシイ。
このあたり、銀行には「アラート」を鳴らすシステムがありますので、銀行員個々の力量とは関係なく気付くものです。そのうえで、銀行担当者から会社にヒアリングを行い、粉飾決算の裏取りをします。
コロナ禍では資金繰りが厳しく、いろいろと未払いになっている会社は、けして少なくありません。さきほど例に挙げたほかにも、役員報酬や家賃、各種税金といったものもあります。
いずれも、「買掛金や未払金の計上を見送れば隠せる」というものではないことを理解しておきましょう。
【悪影響2】融資が受けづらくなる
いましがた、粉飾決算はバレますよ、というお話をしました。その結果、どうなるか? 当然、融資が受けづらくなります。というか、受けられなくなる、と言ったほうがいいでしょう。
銀行が融資をする際の「原資」は、預金者からあずかった「預金」です。そのだいじな預金を、粉飾決算をしているような会社に融資をしていたら…? その会社が倒産して回収できなくなってしまったら…? そして、預金者が預金を引き出せなくなってしまったら…?
それはもう、タイヘンなことです。だから、粉飾決算をしているとわかっているような会社に、銀行は融資をしないわけです。
とはいえ、粉飾決算にも「ていど」がありますから。必ずしも融資が受けられなくなる、ということでもなく。場合によっては、融資が受けられることもあるでしょう。
ただそれでも、粉飾決算をしない場合に比べれば、融資が受けづらくなることは確かです。
見てわかる粉飾のていどが小さいとしても、それは「一事が万事」という考え方もあります。見てわからないだけで、実はもっとたくさんの粉飾があるかもしれない。そう考えるのが銀行です。
なので、社長は粉飾決算をしないのはもちろん、粉飾決算だと誤解をされないようにもしなければいけません。悪意なき粉飾・自覚なき粉飾には注意をしましょう↓
なお、粉飾決算をしている会社は、いざというとき・ここぞというときにも困ったことになりかねません。それは、リスケ(リスケジュール・返済猶予)をしよう、という場面です。
どうにも資金繰りが厳しい場合には、ひとつの手段としてリスケがあります。銀行への返済をストップすることで、資金繰り改善をはかるわけです。
ところが、いざリスケをしようとしたときに、決算書に粉飾があると。すぐにはリスケに応じてもらえないケースがあります。銀行としては、会社の「ほんとうの状況」がわからないため、リスケの判断ができないのです。
銀行がリスケに応じる前提には、「将来、返済してもらえる見込み」があります。見込みがあるかどうかの判断をするのに、嘘のない決算書は欠かせません。
いざというとき・ここぞというときのためにも、粉飾はしない。買掛金や未払金の計上を見送るようなことはやめましょう。
[ad1]【悪影響3】翌期以降も利益を出しづらくなる
買掛金や未払金の計上を見送ると、「その決算」では利益を増やすことができます。けれども、「次の決算」では、見送った分だけの利益を減らすことになります。
たとえば、今期の決算で、仕入代金 100万円の買掛金計上を見送った場合。決算書の利益は、実際よりも 100万円増やすことができます。
ところが、翌期の決算はどうでしょう? 翌期中に 100万円の支払いをしたのであれば、「仕入高 100万円」が計上されることになります。当然、翌期の決算では、100万円の利益が減ります。
もし、今期に買掛金計上していれば、翌期は 100万円の利益を減らさずに済んだのに。買掛金の計上を見送ったばかりに、翌期の決算が影響を受けてしまったわけです。
結果、今期は粉飾をしたことによって、銀行からの融資が受けづらくなる(【悪影響2】のハナシ)。そのうえ、翌期は 100万円の利益が減った分だけ、また融資が受けづらくなる。これは厳しい…
そこで、社長はなにを考えるか? 再度の「見送り」を考えます。つまり、もういちど粉飾をすることで利益を増やそう、と考えます。これでどうなるかは、もはや説明するまでもないでしょう。
粉飾決算のほんとうの怖さは、「常習性」にあります。いちどやったらやめられない。利益を出し続けるために、粉飾し続けなければいけない。
これによって、銀行からの融資が受けづらくなるのはもちろん。社長自身が、会社の「ほんとうの状況」をつかめなくなってしまいます。粉飾しまくった決算書をどれだけ眺めたところで、もはや真実の姿は見えません。
真実の姿が見えないまま、はたして社長は「正しい経営判断」ができるのか? できませんよね。そして、ますます、会社は混迷を極めます。
そんな悪循環のきっかけをつくることがないように。買掛金や未払金の計上を見送るのはやめましょう。
まとめ
良かれと思った「買掛金や未払金の計上を見送る決算書」には、実は良いところがない。むしろ、銀行融資には「3つの悪影響」を及ぼしている、ということを理解しておきましょう。
- 結局、銀行にバレる
- 融資が受けづらくなる
- 翌期以降も利益を出しづらくなる