本来、運転資金は手形貸付で借りるべきものです。
にもかかわらず、証書貸付で借りていると3つの悪影響をこうむることになりますよ。というお話です。
7割もの会社が悪影響を受けている
会社が銀行から融資を受けるときの「資金使途(借りたおカネの使いみち)」は、大きく2つに分かれます。設備資金と運転資金です。
このうち、設備資金は、設備(不動産、クルマ、機械、備品など)を購入するためのおカネ。いっぽうで、運転資金は、設備資金以外に支出するおカネ。具体的には、仕入代金や諸経費の支払に使うおカネです。
では、運転資金について。証書貸付で借りている、という会社は少なくありません。あるデータによれば、実に7割もの会社が証書貸付で借りているとのこと。
証書貸付とは、手形貸付に対する融資方法であり。言い換えると、長期の毎月分割返済による融資が証書貸付、ということになります。
ところが、本来、運転資金は手形貸付(短期の期日一括返済)で借りるべきものです。ゆえに、運転資金を証書貸付で借りている場合には、「3つの悪影響」があると理解しておかなければいけません。具体的にはこちらです↓
- 資金繰りの悪化
- 信用保証料の負担
- 銀行の姿勢後退
これらは、会社にとって、けして無視することができない悪影響です。気づいていなかった… ということがないように。このあと、順番に確認していきましょう。
運転資金を証書貸付で借りるとこうむる3つの悪影響
【悪影響1】資金繰りの悪化
そもそも、ここで言う「運転資金」とは。厳密に言うと、「経常運転資金」を指しています。経常運転資金を算式であらわすと、次のとおりです↓
経常運転資金 = 売上債権 + たな卸資産 ー 仕入債務
算式中の「売上債権」は、売掛金や受取手形のこと。売上先からの「入金を待っている金額」です。「たな卸資産」もまた、いずれ売れて「入金を待っている金額」です。ゆえに、これらの金額が大きくなると、資金繰りは厳しくなります。
いっぽう、「仕入債務」とは、買掛金や支払手形のこと。仕入先への「支払を待ってもらっている金額」です。ゆえに、仕入債務が大きくなると、資金繰りはラクになります。
したがって、「入金を待っている金額(売上債権、たな卸資産)」と「支払を待ってもらっている金額(仕入債務)」との差額が、会社が事業を継続するにあたって必要なおカネになるわけです。
ところが、運転資金を自前では用意できない会社は少なくありません。そこで、銀行から融資を受けることになります。このとき、「証書貸付(毎月分割返済)」で借入をする会社が多い、というのが冒頭でのお話です。
すると、どうなるか?
返済のたびに、手元のおカネは減っていきます。当初は、運転資金分のおカネを借りたのに、返済すればするほど、借りたおカネは減っていくのですから、当然、資金繰りは厳しくなっていきます。
これが、運転資金を証書貸付で借りるとこうむる悪影響の1つめです。
この悪影響を避けるためには、「手形貸付(期日一括返済)」で借りることです。そのうえで、期日が来たら、審査をへて基本的には更新をする。結果として、「借りっぱなし」の状況になります。
これは、「短期継続融資」と呼ばれる借りかたです。どうしたら、そのような借りかたができるのか? については、こちらの記事をどうぞ↓
【悪影響2】信用保証料の負担
運転資金を証書貸付で借りる場合、切っても切れない関係にあるのが「信用保証料」です。証書貸付は、長期の毎月分割返済ですから、銀行には回収不能リスクがあります。長期であるほどリスクは大きい。
そこで、信用保証協会の保証付き融資です。会社が返済できないときには、信用保証協会が肩代わりしてくれるため、銀行としては安心して融資ができます。
ところが、保証付き融資となれば、会社は「信用保証料」を負担しなければいけません。その金額はケースバイケースではありますが、ざっくりイメージとしては「年利1%」くらいです。
つまり、銀行に対する金利のほかに、上乗せ1%よけいに金利負担が増える。というのが、運転資金を証書貸付で借りるとこうむる悪影響の2つめになります。
しかも、信用保証料は原則、前払いです。融資を受けるときに、まとめて差し引かれます。その金額は、融資金額 1,000万円、返済期間5年の場合で、おおむね 40万円くらいです。なかなかの金額であることがわかるでしょう。
この点で、コロナ禍で多くの会社が利用した「ゼロゼロ融資」では、信用保証料が免除されたり、減額されたりしてきました。そのため、本来の信用保証料の負担感を忘れてしまっている社長がいるものと想像します。
また、起業したばかりでコロナを迎えた社長などは、信用保証料の負担感をそもそも知らないということもあるでしょう。ですが、これからは、信用保証料の免除や減額は期待できません。コロナの「特別対応」は終わりつつあるのです。
では、運転資金を手形貸付で借りれば、信用保証料の問題が解決するかと言うと、そういうわけでもありません。手形貸付であっても、保証付き融資ということはありうるからです。
したがって、そこは、銀行との交渉になります。
ここで覚えておきたいのは、運転資金の返済原資は「売上入金」であることです。言い換えると、売上債権やたな卸資産が返済原資です。もしいま、会社が潰れてしまったとしても、売上債権やたな卸資産を現金化することで、銀行は運転資金として融資したおカネを回収することができます。
そう考えると、売上債権やたな卸資産は、実質的に担保のようなものであり。そのうえさらに、信用保証協会の保証を付けるなど、過剰保証ではないのか? と言えます。
ただし、売上債権やたな卸資産のなかに、不良や架空(つまり粉飾)があると、銀行としてはその分の運転資金を融資することはできません。よって、銀行と交渉をするためには、売上債権やたな卸資産のなかみがクリーンであること、なかみをあきらかにすること(明細を提示する)が大切です。
【悪影響3】銀行の姿勢後退
運転資金を証書貸付で借りていると、銀行としては、ある意味ラクちんだと言えます。いちど融資をしたあとは、約束にしたがって、毎月回収することができるからです。
しかも、多くの場合には保証付き融資ですから、会社が返済できない場合でも、信用保証協会から回収することができます。そういう意味でのラクちんです。
これに対して、運転資金を手形貸付で借りている場合はどうでしょう。期日には、審査が必要になります。前回融資をしたときと比べて、運転資金の状況に変わりはないか? 業況に変化はないか? といったことをチェックしたうえで、更新の可否を検討しなければいけません。
保証付き融資でなければ、回収不能による損失は銀行が100%かぶることにもなりますから。なおのこと、ただただ更新すればいい、というわけにはいきません。証書貸付に比べると、だいぶメンドーだと言えるでしょう。
ということもあって、銀行は証書貸付の融資を好みます。
証書貸付だと、銀行はラクができる。誤解を恐れずに言えば、いちど融資をしたあとは放置できる。銀行の姿勢は後退します。こうして、会社と銀行とのコミュニケーションが薄れていくのは、運転資金を証書貸付で借りるとこうむる悪影響の3つめになります。
コミュニケーションが薄れていけば、銀行は会社のことがよくわからなくなり、どうしても、「決算書の良し悪し」や「担保・保証ありき」の融資になってしまうでしょう。
とはいえ、会社の業績とは不安定なものであり、良いときもあれば悪いときもあります。中小企業では、じゅうぶんな担保資産があるわけではなく、経営者保証は社長にとって大きな負担です。
決算書の良し悪しばかりではなく、事業の内容や成長可能性までを評価して融資を検討できる。結果、担保・保証に頼らない融資を検討できる。そういった「柔軟な融資」を求めるのであれば、銀行の姿勢後退は避けるべきです。
そのあたりもふまえて、運転資金は手形貸付で借りることを考えていきましょう。
まとめ
本来、運転資金は手形貸付で借りるべきものです。
にもかかわらず、証書貸付で借りていると3つの悪影響をこうむることになります。気づいていなかった… ということがないように、もれなく理解しておきましょう。
- 資金繰りの悪化
- 信用保証料の負担
- 銀行の姿勢後退