「退職金」の文字を見た銀行は、いろいろなことを考えています。
損益計算書に「退職金」を掲載するのであれば、銀行対応で気をつけるべきことがありますよ。という、お話です。
退職金は、ただの費用にあらず。
退職金の支払いがある。つまり、損益計算書に「退職金」を掲載するのであれば、銀行対応で気をつけるべきことがあります。ずばり、こちらです↓
- 特別損失に表示する
- 退職理由をあきらかにする
- 顧客の持ち出しがないことを説明する
- 生産能力低下への対応策を示す
- リストラの方向性を伝える
退職金は「ただの費用」にあらず。「退職金」の文字を見た銀行は、いろいろなことを考えています。この点で、銀行対応が必要になることを理解しておきましょう。
それではこのあと、それぞれの対応を順番に見ていきます。
退職金の支払いがあるときの銀行対応5つ
【対応1】特別損失に表示する
退職金を、損益計算書の「販売費および一般管理費」として掲載してる会社がありますが。「特別損失」として表示することを検討しましょう。
なぜなら、そのほうが「営業利益」が増えるからです。
銀行は、純度が高い利益として「営業利益」をより重視しています。ところが、退職金を「販売費および一般管理費」として掲載すると、その分、営業利益が少なくなってしまうのはデメリットです。
とはいえ、説明がつかないのに「特別損失」に表示するのも問題があります。この退職金は特別損失だ、と言い切れる「理由」は大切です。
まず、「役員」の退職金であればどうでしょう? 毎期、役員が退職するわけではありませんし、金額的なインパクト(重要性)もあるでしょうから「特別損失」で。というのは、問題ありません。
いっぽう、社員への退職金はどうかというと。中小企業では社員に退職金を支払わないこともありますので、そう考えると、退職金を支払うこと自体が特別です。
また、その場合には、金額的なインパクトもあるといえるでしょう。ゆえに、特別損失で。という理由は成り立ちます。
銀行に決算書を渡すときには、このあたりの「理由」を伝えるようにしましょう。伝えない場合、銀行は「営業利益をよく見せかけるために、特別損失にしただけなんじゃないか」と考える可能性があるからです。
【対応2】退職理由をあきらかにする
損益計算書の「退職金」の文字を見て、銀行は「なにか社内でトラブルがあったのだろうか」と想像することがあります。
トラブルによっては、今後も退職者が続く可能性があるわけで。すると、事業の存続が困難になることだってあるかもしれません。銀行は、そこが心配なのです。
また、経理担当者の退職を、銀行はとくに警戒しています。会社の財務状況を、もっともよくわかっているのが経理担当者。会社の先行きに不安を感じて、見切りをつけて辞めたのではないか? と、銀行は想像します。
というわけで、事実とは異なる想像をされないように、真の退職理由を銀行に伝えるようにしましょう。結婚や出産をはじめ、自己都合による退職であれば、銀行に「強いネガティブ」を感じさせずにすむはずです。
ちなみに。いくら、自己都合であったとしても、あまりに頻繁に退職者が出る会社には問題があります。社員10人の会社で、毎年3人も4人も退職する… これは多すぎる、と言っていいでしょう。
辞める人が必ずしも、真の退職理由をクチにするわけでもありません。銀行は、「離職率」を計算してもいますから。離職率が高すぎる場合には、抜本的な対応に取り組みましょう。
【対応3】顧客の持ち出しがないことを説明する
たとえば、ベテランの営業担当社員が退職した場合。その社員が、退職と同時に、顧客を持ち出すことがあります。すると、会社の売上は減りますから、銀行としては心配するところです。
その心配がないのであれば、銀行に対して、きちんと説明をしておくようにしましょう。
例としては、「定年による退職なのでだいじょうぶです」とか、「退職後は外注先として協力関係が続きますのでだいじょうぶです」とか、「退職後も非常勤役員として関わってもらうのでだいじょうぶです」などといったことが考えられます。
銀行は、実に想像力が豊か(とくにネガティブなことに対して)ですから、こちらも想像力をはたらかせて、あらかじめ説明ができるようにしておきましょう。
[ad1]【対応4】生産能力低下への対応策を示す
社員が退職すれば、その分の生産能力は低下します。生産部門の社員にせよ、営業部門の社員にせよ、事務部門の社員にせよ、なにかしらの生産能力は低下します。
銀行としては、「生産能力低下への対応策はあるのか?」と心配になるところです。具体的には、「新規採用はあるのか?」という目で見ています。
あるていどの退職はしかたないとして、それを補う、あるいは、それを上回る新規採用はあるのかどうかがポイントです。なので、退職金の支払いがあるときには、銀行に対して、新規採用の状況についても説明するとよいでしょう。
なお、退職による生産能力低下を補うものは、必ずしも「人」であるとは限りません。ITを活用することで、業務の効率化を実現できる。というのであれば、それも対応策です。
最近では、ITへの取り組み状況を評価する銀行も増えています。退職金の支払いがあるかどうかにかかわらず、折を見て、ITの活用状況や効果、今後の取り組みなどを、銀行に伝えるとよいでしょう。
【対応5】リストラの方向性を伝える
損益計算書の「退職金」を見た銀行が、考えることはまだあります。それは、「リストラが続くのだろうか?」です。
もし、退職が「リストラ」の一環であるとしたら。リストラが続く限り、退職金が増えるかもしれません。また、それ以外にも、不採算事業の撤退費用といった損失が増える可能性もあります。
それらは当然、赤字要因ですから、銀行としては心配になるところです。したがって、リストラを進めているのであれば、その方向性を銀行に伝えるようにしましょう。
たとえば、「役員報酬はじめ、経費削減にも取り組んでいます」とか、「遊休不動産の売却により、キャッシュ確保をはかります」とか、「リストラはひととおり終了したことで、損益分岐点が下がったため、今期は黒字に転換できます」といった説明が考えられます。
銀行には「退職金=リストラ」のイメージがあることを理解して、聞かれずとも先回りして説明できるようにしておきましょう。銀行からの安心感を得られるはずです。
まとめ
「退職金」の文字を見た銀行は、いろいろなことを考えています。
損益計算書に「退職金」を掲載するのであれば、銀行対応が必要になることを理解しておきましょう。
- 特別損失に表示する
- 退職理由をあきらかにする
- 顧客の持ち出しがないことを説明する
- 生産能力低下への対応策を示す
- リストラの方向性を伝える