決算書が赤字… あるいは、黒字でも利益が不十分。ならば、役員報酬を減額しよう。
というのであれば、銀行融資に与える悪影響に気をつけなければいけません。この点について、対応策もふまえてお話をしていきます。
安易な役員報酬減額で問題は起きる。
コロナを経て、決算書が赤字… あるいは、黒字でも利益が不十分… という会社は少なくありません。そこで、「役員報酬を減額する」のは利益減少に対して取りうる方法の1つです。
ところが、銀行融資に悪影響を与えることがあるので気をつけましょう。おもに、次の3点です↓
- 利益の水増し疑い
- 貸付金の増加
- キーマンの退職
会社の利益減少に対しては、役員が、その報酬を減らすことで責任をとるべき面はありますが。安易な役員報酬減額には問題があること、つまり、売上増加や他のコスト削減を優先すべきであることも、理解しておきましょう。
それではこのあと、3つの悪影響と対応策について順番に確認していきます。
「利益減少→役員報酬減額」が銀行融資に与える悪影響と対応策
【悪影響1】利益の水増し疑い
社長の役員報酬が月額 50万円、税引前利益が 400万円の赤字を予測している会社があったとします。赤字だと銀行融資が受けにくくなってしまう。そこで、社長は役員報酬を月額 40万円減額することにしました。
すると、税引前利益は 80万円のプラスに転じます(▲400万円+40万円×12ヶ月)。結果、役員報酬は月額 10万円です。これを見た銀行は、どう考えるのか?
「利益の水増し」を考えます。なぜなら、社長が月額 10万円の役員報酬で生活できるわけがない。少なくとも、30万円くらいは必要だろうから、減額できるのは月額 20万円ていどのはず。
だとしたら、ほんとうの税引前利益は 160万円の赤字だ(▲400万円+20万円×12ヶ月)。というのが、銀行の見方になります。決算書上は 80万円の黒字だとしても、銀行は 160万円の赤字で見る。
つまり、会社は 240万円の利益を水増ししたことになります。銀行融資には悪影響でしょう。
なお、「社長が 30万円くらいは必要だろう」について、30万円なのか、20万円なのか、はたまた 40万円なのかはケースバイケースです。社長の家族構成や生活環境などを加味して、銀行が検討します。
それはそれとして。もしも社長が、10万円でも生活できるのであれば。それを銀行に説明することが対応策になります。
たとえば、社長に不動産賃貸収入がある、親から相続した預金がある、配偶者がほかの会社で働いていて給与収入がある、など。だから、社長の役員報酬は 10万円でもだいじょうぶ。
という話ができれば、銀行から「利益の水増し」とは見られずにすむ場合があります。
社長個人のことは、社長のほうから言わなければ銀行にはわからないことです。会社の融資なのだから、個人は関係ない、ということではなく。必要に応じて、社長個人の情報も開示するようにしましょう。
【悪影響2】貸付金の増加
役員報酬が月額 200万円の社長がいたとします。ところが、会社が業績不振のため、利益を増やそうと役員報酬を月額 100万円に減額することにしました。
このケースでは、「利益の水増し」という見方はありません。ふつうは、月に 100万円あれば、じゅうぶんに生活をすることができるからです。これにより、年間 1,200万円の利益を増やすことができます。
いっぽうで、会社から社長に対する貸付金が増えている場合はどうでしょう? つまり、決算書に「役員貸付金」が掲載されている。しかも、その金額がどんどん増えている…
月額 100万円の役員報酬では生活できず、社長が会社からおカネを借りているわけです。ヒトはいちど上げた生活レベルを下げるのは難しいものであり、実際に目にする状況でもあります。
役員貸付金は、銀行が忌み嫌うモノのひとつです。会社が返済してもらえるかどうかわからず、銀行が融資をすれば、そのおカネもまた社長個人に流れてしまうかもしれない。と、銀行は考えます。
銀行は、会社の「事業」におカネを貸すのであって、社長の「生活」におカネを貸すのではありません。だから、決算書に「役員貸付金」が掲載されているのを嫌がるのです。
信用保証協会はとくに、役員貸付金を注視しています。ゆえに、保証付き融資が受けにくくなるのは、役員報酬減額による大きな悪影響になります。
そう考えると。役員貸付金が掲載されるくらいなら、役員報酬の減額はせず赤字のほうがまだマシだ。とさえ言ってよいでしょう。
したがって、役員報酬を減額するのであれば、ぜったいに役員貸付金を発生させないこと。役員報酬を下げた分、生活レベルを落とせないのであれば、安易に役員報酬の減額はしないことです。
【悪影響3】キーマンの退職
社長以外にも役員がいる会社では、利益減少時に、役員みなが責任をとって報酬を減額することがあります。その結果、役員が辞めてしまうとうことはあるものです。
これはこれでしかたがありませんが、気をつけたいのは「キーマンの退職」になります。銀行は、会社にとってだいじな人材であるキーマンが退職した場合、事業に影響が出ることを警戒するからです。
そういう意味で、役員は役員であること自体が「キーマン」の証になりますので、退職したとなれば、銀行は警戒することでしょう。
利益が減少しているうえに、キーマンの退職。さらなるキーマンの退職もありえますし、この先、会社はだいじょうぶだろうか? というのは、銀行でなくとも想像できるところです。
そこで、対応策としては、銀行に対する説明になります。その役員が退職しても、今後の事業に大きな影響がないことを、銀行に説明して理解してもらいましょう。
あらたに人を採用するとか、既存の社員のなかから役員に登用するとか。なんにせよ、辞めてしまった役員の穴はきちんと埋めることができる、という説明が必要です。
なお、実際に辞める役員がいないとしても、役員報酬を減額したときには、そのようすを銀行に伝えたほうがよいでしょう。役員みなの総意であることや、あらためて団結の意を強くした、など。
銀行が抱くであろう不安や心配を先回りして解消することが大切です。
ちなみに、役員が退職しても黙っていればわからないのではないか? と、思われるかもしれませんが。役員の変更があれば、役員名簿を改訂して銀行に渡すべきですし、銀行が会社の謄本を確認すればわかることでもあります。
隠しごとをするような会社に、良い印象を持つ銀行などないことも理解しておきましょう。
まとめ
決算書が赤字… あるいは、黒字でも利益が不十分。ならば、役員報酬を減額しよう。というのであれば、銀行融資に与える悪影響に気をつけなければいけません。
対応策もふまえて、確認をしておきましょう。
- 利益の水増し疑い
- 貸付金の増加
- キーマンの退職