借入の返済原資は利益。ならば、借入するよりも利益を出すのが先だ、ということです。
が、これとは逆に「利益を出すより借入が先だ」という考え方もありますよ。という、お話です。
利益が先か、借入が先か。
会社が銀行から借入をするときに言われることとして、「借入の返済原資は利益」というものがあります。利益を出してはじめて、返済をすることができる。言い換えると、利益が出ていなければ、借入をしてはいけない。借入するよりも利益を出すのが先、だと。
なるほどたしかに、なっとくできる話ではあります。が、これとは逆に「利益を出すより借入が先だ」と言われたらどうでしょう? また、そんな暴論を… と、思われるかも知れませんが。
実は、「利益を出すより借入が先」との話にも、なっとくできる理由はあります。具体的にはこちらです↓
- 利益を出すには時間がかかる
- 利益を出すにもおカネが必要
- 返済するために利益は必ずしも必要ない
これらについて、「借入よりも利益が先」と対をなす考え方として、おさえておくとよいでしょう。それでは、順番に見ていきます。
利益を出すより借入が先、だと言える理由
利益を出すには時間がかかる
そもそも、なんのために借入をするのか? と、言えば。「ただ借金を増やそう」として、銀行借入をする会社はないはずです。そうではなく、おカネを増やすために借入をするはずです。
なんのためにおカネを増やすのかは、後述するとして。会社はどれくらいのおカネを持つのがよいか。わたしがおすすめしているのは、「平均月商(年間売上高÷12ヶ月)の6ヶ月分以上」の現金預金です。
ところが、それほどのおカネを持っている会社は多くありません。
場合によっては、平均月商の1ヶ月分前後でやりくりしている会社もあり、そのような会社の資金繰りは厳しいものです。そこで、「いまよりもさらに、平均月商1ヶ月分の現金預金を利益で増やそう」と考えた場合にどうなるか?
結論として、税引前利益率(税引前利益÷売上高)が12%という会社でさえ、丸1年かかります。税引前利益が6%であれば2年かかりますし、3%であれば4年かかります。
と考えると、利益でおカネを増やすのはタイヘン、利益でおカネを増やすには時間がかかることがわかるでしょう。
それなら、出資をしてもらっておカネを集めるのも1つの方法です。けれども、信用力が乏しい中小企業では、第三者から出資を集めることもまた、カンタンではありません。
出資者からは「配当」を求められますから、配当を出すためには、またしても利益が必要になります。利益を出すにも時間がかかる… と、堂々巡りの展開です。
というように、利益を増やしておカネを増やすのは難しい。それなら、銀行借入をしておカネを増やすのも、中小企業にとっては、有効な選択肢のひとつだと言えるはずです。
利益を出すにもおカネが必要
さきほど、借入をするのはおカネを増やすためだ、という話をしました。では、なんのためにおカネを増やすのか? 利益を出すためです。
利益を出すのに、それほどのおカネはいらんだろう? と、思われるかもしれません。たしかに、そういう商売もありますし、じっくり利益を増やすのであれば、必ずしもおカネは必要ないでしょう。
ですが、早く利益を増やすためには、おカネが必要になることがあります。仕入を増やす、人を増やす、設備を増やす、店舗を増やす、企業買収する、など。早く利益を増やすには、おカネがツキモノです。
ならば、そのときになったらおカネを借りればよい。と、思われるかもしれません。ところが、うまく借入できるかどうかは、銀行の融資審査しだいです。審査でNGになるかもしれず、OKでも入金までに時間がかかるかもしれない。
それまでのあいだ、チャンスが待ってくれているかどうかはわかりません。チャンスの神様には前髪しかない、とも言われます。チャンスをつかむにも、タイミングが必要。タイミングを逃さないためには、おカネが必要です。
だとしたら、来たるべきチャンスに備えて、あらかじめ借入をしておカネを持っておくのも、有効な方法だと言えるでしょう。チャンスをつかんで早く利益を増やすために、利益を出すより借入が先です。
また、「備える」という点では、ピンチに対する備えという考え方もあります。不測の事態によって、会社がつぶれてしまうようなことがあれば、利益もなにもありません。
ピンチにもつぶれにくい会社であるためには、利益よりも先におカネ、利益よりも先に借入をしておカネをたくわえておく。ピンチを乗り切ることができれば、いずれまたチャンスもやってるというものです。
逆に、ピンチを乗り切ることができない会社に、次のチャンスはありません。
返済するために利益は必ずしも必要ない
冒頭で、「借入の返済原資は利益」という話をしました。これは、半分ほんとうで、半分は違います。銀行から借入をした場合、利益がなくても返済できるケースがあるのです。
ひとつは、経常運転資金を借入する場合。経常運転資金とは、算式で言うと「売掛金+棚卸資産ー買掛金」で計算される金額です。
売掛金は、売上代金が回収されて、おカネになるのを待っている金額。棚卸資産は、売れておカネになるのを待っている金額。これらが増えると、会社の資金繰りは厳しくなります。
いっぽうで、買掛金は、仕入代金の支払いを待ってもらっている金額です。買掛金が増えると、会社の資金繰りはラクになります。
以上の「売掛金・棚卸資産・買掛金」を相殺した金額は、会社が事業を続ける限り、持っておかなければいけないおカネです。経常運転資金分のおカネがないと、資金繰りがまわらなくなってしまいます。
そこで、経常運転資金分の融資を受けるわけですが。短期継続融資という借りかたがあります。短期の手形貸付、あるいは当座貸越を利用する借りかたです。
短期継続融資で借りることができると、会社としては「実質借りっぱなし」にすることができます。毎月の返済がなくなるため、返済原資としての利益も不要です。
それでも、いつか返済しなければいけないじゃないか。と、思われるかもですが。そのときは、売掛金・棚卸資産を現金化して、返済をすることができます。やはり、利益はいらないのです。
それから、もうひとつ。利益がなくても返済できるケースがあります。手元におカネを置いておくための借入です。ピンチやチャンスに備えて、おカネを増やすために借入をする。
借りたおカネを使わずに置いているあいだは、いつでも、そのおカネで返済をすることができます。ゆえに、返済原資としての利益は不要です。だとすれば、借入するよりも利益を出すのが先だ、というわけでもありません。
まとめ
借入の返済原資は利益。ならば、借入するよりも利益を出すのが先だ、ということです。
が、これとは逆に「利益を出すより借入が先だ」という考え方もあります。対をなす考え方として、理由とあわせて押さえておくとよいでしょう。会社の資金調達・資金繰り改善に役立つはずです。
- 利益を出すには時間がかかる
- 利益を出すにもおカネが必要
- 返済するために利益は必ずしも必要ない