銀行がよく見ている書類のひとつ、勘定科目内訳明細書。なかでも、売掛金について。銀行がなにを見ているのか? なにを知ろうとしているのか? 確認をしていきます。
税務署のための書類を見る銀行。
銀行が融資先について、よく見ているもののひとつとして「勘定科目内訳明細書」が挙げられます。
勘定科目内訳内訳書(以下、内訳書)とは、税務申告書に含まれる書類のひとつ。文字どおり、各勘定科目の内訳明細をあきらかにするための書類です。
銀行は、決算書に掲載されている数字について、内訳書で内容の確認をしています。内訳書は本来、税務署のために作成している書類ですが、銀行も見ていることを覚えておきましょう。
では、銀行が内訳書でなにを見ているのか? なにを知ろうとしているのか? 今回は、「売掛金」に注目をしてみます。具体的には、次のとおりです↓
- 大口取引先の信用力が低い
- 取引先がかたよっている
- 前年の残高と比べて変化がない
- 「その他」でひとくくりの金額が多い
- 貸倒引当金がない・少ない
これらは、銀行からの評価が下がる可能性がある項目です。自社にあてはまるものがないか、このあと順番に確認をしていきましょう。
銀行が売掛金の勘定科目内訳明細書でなにを見ているか?
大口取引先の信用力が低い
銀行は、売掛金の内訳書を見て、「どんな取引先があるかなぁ?」という確認をしています。そのうえで、大口取引先、つまり、売掛金の残高が多い取引先については、信用調査をしていると考えてよいでしょう。
具体的には、帝国データバンクの「評点」が挙げられます。信用調査会社である帝国データバンクが、調査対象先の信用力について、100点満点で点数化をしたものが「評点」です。
結論として、評点が 40点台前半以下の場合には、信用力はかなり低いものと考えます。回収不能になる可能性が高い、ということです。安全の目安としては、40点台後半以上になります。
銀行が、信用力が低い取引先に気がつくと、社長に対してヒアリングをすることもあるでしょう。「〇〇社という大口取引先の状況はいかがですか?」みたいな。
その際、社長のほうは「評点」を見たこともなく、取引先の信用力の低さを具体的に把握していないケースがあります。すると、銀行からは「与信管理が不十分な会社だ」との見方にもつながるところです。
よって、最低限の与信管理として、帝国データバンクの評点チェックはしておきましょう。G-SearchというWEBサービスを利用すれば、1件あたり 1,760円(別途、月額基本料 330円)で、評点を含めた信用情報を取得できます。
取引先がかたよっている
売掛金の内訳書を見たときに、取引先がかたよっている会社があります。数件の取引先、あるいは、1件の取引先に売掛金の大半が集中している。すると、銀行は警戒します。
その取引先になにかあったら、その後の売上はどうなってしまうのか? 売上がなくなって、事業が継続できなくなってしまうのではないか? と考えると、銀行は融資をしにくくなります。
この点で、取引先が「大企業・上場企業」なら、むしろよいことなのではないか? と、思われるかもしれませんが。それもケースバイケースです。
大企業・上場企業の取引先複数に、売掛金が分散していればよいでしょう。いっぽうで、集中している場合には、その大企業・上場企業に見切られれば、売上は一気に消失します。銀行は、そこを警戒しているのです。
したがって、基本的には、取引先はあるていど分散しているほうがよいでしょう。会社自身にとっても、そのほうがリスク回避につながるはずです。
それでもなお、取引先が集中している場合には、その取引先との「関係性」が良好であることや、取引先の信用力に問題がないこと(前述の評点も参考に)を、銀行に説明できるとよいでしょう。
前年の残高と比べて変化がない
売掛金の内訳書に掲載されている、取引先A社の売掛金残高が 200万円だとします。そのA社の売掛金残高が、前年も 200万円だったという場合。銀行は、不良債権を疑うことを覚えておきましょう。
すると、その 200万円は「損失」だと見られますから、自社の評価はその分だけ下がることになります。
なお、不良債権は、大きく2つに分かれます。ひとつは、取引先の業績不振・倒産などによる支払能力の低下を原因とする不良債権。もうひとつは、取引上なにかしらのトラブルを原因とする不良債権です。
まず、前者については、前述したとおり銀行も信用調査をしていますから、取引先の支払能力を確認したところで、不良債権の判断をすることになります。
そのうえで、会社に対してヒアリングをして、与信管理の体制を確認したりもするでしょう。会社としては、与信管理は最善を尽くしていたことを説明できるようにしておきたいところです。
また、後者については、銀行から「自社商品・サービス」に関する問題を疑われることになります。実際に、商品・サービスの欠陥が理由で、取引先から支払いを拒否されることはあるものです。
すると、銀行は「今後の商売に影響はしないのだろうか?」と不安になりますから、融資を受けにくくもなるでしょう。
そもそも、不良債権化した売掛金を、内訳書に残しておくことも問題です。不良債権なのであれば、「損失」として経理処理するのが、正しい対応になります。
これを放置している時点で、銀行からは「粉飾」と見られることも忘れてはいけません。
「その他」でひとくくりの金額が多い
売掛金の内訳書を見たときに、「その他 〇〇件」として、ひとくくりに記載している会社があります。その金額が少額であれば問題はありませんが、数百万円、数千万円となると、銀行としては気になるものです。
「その他 〇〇件」のなかには、不良債権があるのではないか? 架空債権があるのではないか? を銀行は気にします。
よって、「その他 〇〇件」の内訳については、あきらかにするようにしましょう。内訳書はそのままでよいとしても、銀行に対しては別途、すべての内訳を提示することです。
内訳書については、会社や顧問税理士が「メンドー」を理由に、記載を省略しているケースがあります。その結果、「その他 〇〇件」として銀行から疑われるのは損なハナシです。
内訳書を見るのは税務署だけではありません。場合によっては税務署以上に、銀行も内訳書を見ていることを念頭に置いて、内訳書をつくるようにしましょう。
貸倒引当金がない・少ない
銀行は、売掛金の内訳書を見つつ、貸倒引当金の確認もしています。貸倒引当金とは、将来の貸倒れ(回収不能)に備えて、あらかじめ損失を見込み計上したものです。
貸倒れの可能性が高い取引先については、その分、多くの損失を見込むことになります。が、信用力が低そうな取引先があるにもかかわらず、貸倒引当金の金額が少なければどうでしょう?
銀行から見れば、「計上すべき費用を計上していない(粉飾)」となってしまいます。繰り返しになりますが、少なくとも大口取引先の信用情報は確認をして、信用力が低ければ、相応の貸倒引当金の計上を検討するのがよいでしょう。
ちなみに、売掛金が少しでもあれば、貸倒引当金がゼロということはありません。信用力に大きな問題がない取引先であっても、貸倒れの可能性がゼロではないからです。
そこで、最低でも「法定繰入率」によって計算した貸倒引当金を計上するようにしましょう。ここで言う「法定」とは、「法人税法が定める」ということを意味します。
法人税法では、業種によって「売掛金の残高×法定繰入率(0.3%〜1%)」までは、費用計上(貸倒引当金繰入)してもよいですよ、としています。
法人税法の場合には、「よいですよ」なので、費用計上しなくてもよいのですが(税務署的には、税金が増えるのでOK)。会社の正しい業績を把握するための企業会計の視点で言えば、貸倒引当金ゼロはありえません。
そこで、最低でも法定繰入率による貸倒引当金は費用計上すべき。というのが、銀行の見方になります。
とはいえ、法定繰入率による貸倒引当金の金額など、ごくわずかなのだから計上しなくてもよいっだろう。と、考えるのであれば違います。
なぜなら、銀行から「ほかにも計上していないものがあるのではないか?」と疑われるきっかけになりうるからです。たとえ少額であっても、計上すべきものを計上することが、銀行に対するアピールになることを覚えておきましょう。
まとめ
銀行がよく見ている書類のひとつ、勘定科目内訳明細書。なかでも、売掛金について。銀行がなにを見ているのか? なにを知ろうとしているのか? をお話ししてきました。
いずれも、銀行からの評価が下がる可能性がある項目です。自社にあてはまるものがないか、確認をしておきましょう。
- 大口取引先の信用力が低い
- 取引先がかたよっている
- 前年の残高と比べて変化がない
- 「その他」でひとくくりの金額が多い
- 貸倒引当金がない・少ない