消費税の経理処理について、税込経理を選んでいる場合。毎月の試算表で、ぜったいに注意すべきことをお話ししていきます。この注意を怠ると、のちの資金繰りで問題が起きかねません。
注意を怠ると、資金繰りで問題が起きる。
会社でおこなわれる、消費税の経理処理について。「税込経理」と「税抜経理」とがあります。文字どおり、税(消費税)を「込み」で経理するのか、それとも、「抜き」で経理するのか?
たとえば、税込 110万円の売上だとしたら。「売上高 110万円」とするのが税込経理。「売上高 100万円」とするのが税抜経理です。
基本的には(いちぶに例外あり)、どちらの経理処理でもかまいませんし、どちらの経理処理にもメリット・デメリットがあります。ゆえに、さいごは「社長の好み」で選べばよい、と言っていいでしょう。
そこで、社長が「税込経理」を選んだ場合。毎月の試算表で「ぜったいに注意すべきこと」についてお話をしていきます。この注意を怠ると、のちの資金繰りで大きな問題が起きかねません。
というわけで、このあと確認をしていきましょう。
はじめに、予習をちょっとだけ
このあとの話の「予備知識」として。消費税の計算について、具体例で確認をしておきましょう。
売上高が 1,100万円(税込)、消費税がかかる費用が 660万円(税込)、消費税がかからない費用が 400万円の会社があったとします。
ちなみに、消費税がかからない費用の代表格は「人件費(役員報酬や給与、社会保険料)」です。
では、この会社が納める消費税はいくらになるのか? 考え方としては、「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引きして計算します。つまり、こういうことです↓
- 預かった消費税 = 売上高 1,100万円 ÷ 110% × 10% = 100万円
- 支払った消費税 = 消費税がかかる費用 660万円 ÷ 110% × 10% = 60万円
- 納める消費税 = 預かった消費税 100万円 ー 支払った消費税 60万円 = 40万円
なお、このような計算のしかたを「原則課税」と呼びます。これに対して、「簡易課税」という例外による計算のしかたは、次のとおりです↓
- 預かった消費税 = 売上高 1,100万 ÷ 110% × 10% = 100万円
- 支払った消費税 = 預かった消費税 100万円 × みなし仕入率 50% = 50万円
- 納める消費税 = 預かった消費税 100万円 ー 支払った消費税 50万円 = 50万円
簡易課税のポイントは、「消費税がかかる費用」はムシできるところにあります。預かった消費税に「みなし仕入率」なるもの掛け算するだけ。そういう意味で、簡易です(計算がラク)。
その「みなし仕入率」は、「業種」によって決まっています。たとえば、サービス業であれば 50%ですが、卸売業なら 90%、小売業なら 80%、製造業なら 70%… といった具合です。
なので、原則課税と簡易課税の両方で計算をしてみて、「どちらが有利か(納める税額が少なくなるか)」で、原則課税にするか・簡易課税にするかを「選ぶ」ことになります。
ただし、選ぶことができるのは、売上高が 5,000万円以下の会社に限られる点は注意です。簡易課税はあくまで「例外」なので、規模が小さい会社だけに認められた「特典」だと考えておきましょう。
以上で、予備知識のお話はおしまいです。
税込経理をするときに試算表でぜったいに注意すべきこと
ここが、今回のお話の「結論」です。税込経理をするときに、毎月の試算表でぜったいに注意すべきこと。それは、「消費税の計算」を織り込むことです。
消費税の計算とは、まさにいま、確認をした「消費税がいくらになるのか?」の計算になります。ん、いったいどういうこと? と、思われるかもしれませんので。
消費税の計算をしていない試算表をイメージしてみましょう。さきほどの会社を例とすれば、こんな感じです↓
- 売上高 1,100万円
- 消費税がかからない費用 400万円
- 消費税がかかる費用 660万円
- 利益 = 1,100万円 ー 400万円 ー 660万円 = 40万円
というわけで、利益 40万円で「黒字」のイメージです。ところが、これは、「誤ったイメージ」にすぎません。もう、お気づきのことと思いますが、「納める消費税」が忘れられているのです。
さきほどの「原則課税」の計算によれば、この会社が納める消費税は 40万円でした。これが、いま見た試算表では、忘れられているわけです。
消費税 40万円は、利益 40万円のなかに含まれていることになりますから、実際には「利益 ゼロ」が「正しいイメージ」だ、ということになります。
場合によっては、納める消費税が 50万円だったり、100万円だったりもするわけですから。消費税の計算を忘れていると、社長は「利益を見誤る」ことになります。
ところが、けして少なくはない会社で、消費税の計算を忘れているのが、税込経理の恐ろしさです。
というわけで、仕訳をひとつ入力しよう
では、消費税の計算をしたら、具体的に、どのような経理処理をすればよいのか? 次のような仕訳をひとつ入力します。会計ソフトで↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 |
---|---|---|---|
租税公課 | ××× | 未払消費税 | ××× |
「租税公課」は「費用(損益計算書の項目)」の勘定科目なので、この仕訳によって、租税公課の分だけ、利益が少なくなります。これなら、社長が「利益を見誤る」こともないでしょう。
それから、もうひとつ。上記仕訳の「未払消費税」は「負債(貸借対照表の項目)」の勘定科目です。負債とは、いずれ支払うべき債務をあらわすものであり、未払消費税はまさに、いずれ納めなくてはいけない税金にあたります。
この未払消費税の「残高」も、社長は毎月ぜったいに確認をしておきましょう。なぜなら、その金額分の「おカネ」を用意しておかないと、消費税の納税ができなくなってしまうからです。
毎月、試算表をつくるときに、その「ひと月分の消費税」を計算して仕訳を入力することで、未払消費税の金額は「積み上がっていく」ことになります。ゆえに、未払消費税の「残高」が、その時点での納めるべき消費税額です。
なお、予定納税(期の途中で納める消費税)があった場合には、次のような仕訳を入力します↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 |
---|---|---|---|
未払消費税 | ××× | 預金 | ××× |
これによって、未払消費税の残高は、予定納税の金額分だけ「減少する」ことになります。予定納税とは、税金の「前払い」ですから、その分は差し引いておこうというわけです。
結果として、試算表に掲載される未払消費税の残高は、やはり、いずれ納めるべき消費税の金額をあらわします。ですから、社長は未払消費税の残高を見て、納税資金の用意をするようにしましょう。
法人税も忘れてはいけない
消費税とあわせて、もうひとつ。税金といえば、法人税(法人住民税・事業税含む)があります。会社の「利益」に対してかけられる税金です。
法人税もまた、利益のなかから払わなければいけない税金であり、毎月の試算表の段階で「見積もり」をして、納税資金の用意を考えておく必要があります。
この点で、消費税の計算を忘れていると、法人税の見積もりを間違えることになるので気をつけましょう。繰り返しになりますが、法人税は「利益」に対してかけられる税金だからです。
算式で言うと、「法人税 = 利益 × 税率」です。消費税を忘れた利益をもとに計算していたのでは、いけませんよね。なお、税率は概算として「30%〜35%」くらいで見ておくとよいでしょう。
さらに言うと。見積もりをした法人税も、試算表でわかるようにしておくと、社長としても納税資金を考えやすくなるでしょう。具体的な仕訳としては、こんな感じです↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 |
---|---|---|---|
法人税・住民税および事業税 | ××× | 未払法人税 | ××× |
「法人税・住民税および事業税」という勘定科目は、「費用(損益計算書の項目)」であり、「税引前当期純利益」の下に位置します。「法人税・住民税および事業税」の下に位置するのが、「当期純利益」であり、税引後の最終利益です。
いっぽうで、「未払法人税」という勘定科目は、「負債(貸借対照表の項目)」になります。さきほどの「未払消費税」と同じ考え方・見方になります。残高が、いずれ納めるべき法人税だと考えておきましょう。
消費税を忘れると、銀行から嫌われる
さいごに、銀行融資の話をしておきます。
税込経理をしているのであれば、毎月の試算表で消費税の計算、消費税の仕訳を忘れてはいけませんよ、というお話をしました。
これを忘れていると、社長が「利益」や「納税資金」を見誤るばかりではなく、銀行から嫌われます。なぜなら、銀行が試算表を見ても、やはり「正しい利益」を把握できないからです。
毎月の試算表では利益が出ていたのに、決算になって、まとめて消費税を計算したら赤字になった… というのは意外と「あるある」だと言えます。
だから、銀行は消費税の仕訳がない試算表を信用しません。また、そんな試算表で経営判断している会社(社長)はだいじょうぶなんだろうか? と、疑問にも思うでしょう。結果として、融資の受けにくさにつながります。
銀行融資をスムーズに受けるという点からも、試算表での「消費税の計算」を忘れないようにしましょう。
まとめ
消費税の経理処理について、税込経理を選んでいる場合。毎月の試算表で、ぜったいに注意すべきことをお話ししてきました。この注意を怠ると、のちの資金繰りで問題が起きかねません。
意外にも、注意できていない試算表が散見されるところです。税込経理を選んでいる社長は、試算表を見る際、きちんと確認をしておくようにしましょう。