自社の決算書を見たときに、現金の残高が大きい場合には気をつけましょう。なぜなら、銀行融資では3つもの評価損をこうむってしまうからですよ、というお話をしていきます。
現ナマは銀行に嫌われる
銀行から融資を受ける会社が、決算書について気をつけるべきことはいろいろありますが。意外と見過ごされたりもしているのが「現金」の残高です。
決算書のうち、貸借対照表のいちばん上(あるいは左上)に記載されている「現金」。その残高が「ミョーに多い」という会社があります。ここで言う「多い」とは、おおむね 100万円単位くらいの残高です。
では、自社の決算書を見たときに、現金の残高が大きい場合にはどうなるか? 銀行融資では、3つもの評価損をこうむるものと考えておきましょう。具体的には、こちらです↓
- 資産の評価損
- 信用の評価損
- 融資額の評価損
というように、銀行からの評価が3つも下がってしまいます。結果として、融資が受けにくくなる、あるいは、融資が受けられなくなるということを理解しておきましょう。
このあと、3つの評価減について確認をしていきます。
決算書の現金残高が多い会社が銀行融資でこうむる評価損
資産の評価損
いまは、キャッシュレスがどんどんと進んでいる時代でもありますから。100万円単位の「現金」を、実際に手元に置いている会社はそうないはずです。銀行もまた、そのように考えています。
よって、決算書に多額の現金が記載されている場合には、会社にヒアリングをして「実態」を確認するものです。そのうえで、「実際に現金はなさそうだ」となれば、その現金はないものとして決算書を評価します。
たとえば、決算書に 300万円の現金が記載されている場合。現金をゼロとして決算書を見る、ということです。現金は「資産」にあたりますから、その現金が減ることで、相対的に「負債」が多くなります。
すると、どうなるか? 財務の安全度は下がります。負債よりも資産が多いほど安全だと考えれば、資産が減ることは安全度が下がることを意味するからです。
場合によっては、「資産 < 負債」になるケースもあり、これを「債務超過」と呼びます。銀行が嫌う状態のひとつです。こうなると、融資が受けにくくなってしまいます。
ところで、なぜ、決算書の現金残高が増えるのか? それも、実際には現金がないのに、なぜ、決算書の金額だけが増えてしまうのか? その原因は、いくつかありますが。
ひとつは、「粉飾」です。言い換えると、利益を水増しする。そのために、現金残高が増えることがあります。ほんとうは、預金口座から費用を支払ったのだけれど、その費用を減らして利益を増やすために、現金を引き出したことにする。といったケースです。
もし、その金額が 300万円だったとすれば、貸借対照表には 300万円の資産(現金)が過大計上されるのと同時に、損益計算書では 300万円の利益が過大計上されていることになります。
したがって、「前期よりも 300万円も現金が増えている。粉飾をしているようだ」となれば、資産を評価損して見るだけではなく、利益も評価損して見るのが「銀行の見方」です。
安易な粉飾は、すぐに見破られることを理解しておきましょう。いうまでもなく、粉飾は「詐欺」ですから、銀行から粉飾と見られれば、以降は融資が受けられなくなってしまいます。
この点で、「わけあって現金残高が多い場合」には、銀行に対してきちんと説明をするようにしましょう。たとえば、たまたま売上代金を現金で回収して、それを銀行に預け入れたのが決算日後になってしまったとか。
知らないうちに、銀行から粉飾を疑われていた、ということがないように。たとえ、銀行から聞かれなくても、会社のほうから説明をすることがたいせつです。
信用の評価損
決算書の現金残高が増える原因として、粉飾の話をしました。原因は、ほかにもあります。それは、社長の「持ち出し」です。
会社の預金口座から、社長が現金を引き出して、そのままになっている。というように、社長が現金を持ち出した状態になっていると、その金額が決算書に残ってしまいます。
もし、プライベートで使うために持ち出したのであれば、すぐに会社へ戻すべきですし、会社の費用の支払いをしたのであれば、すぐに「経費精算」をすべきです。
こういったことができていないのであれば、「管理能力・管理体制」に問題あり、となってしまいます。銀行からの信用面で評価損をこうむることになり、融資が受けにくくもなるところです。
また、管理能力や管理体制だけではなく、社長の「管理意識」も問われます。一事が万事、現金以外にも、会社全体、事業全体に対する管理の不足が疑われるところです。
銀行にしてみれば、「この社長は、また同じことを繰り返すだろうなぁ。会社としても心配だ」となりますから。こういう会社は、融資が受けられなくなる、受けにくくなるわけです。
とはいえ、「そうなってしまった」ことに関してはしかたありませんから。だいじなのは、予防策です。これからはもう、社長が「持ち出し」をしない、ということを銀行にも理解してもらう必要があります。
では、具体的にどうすれば持ち出しがなくなるか? あたりまえのことではありますが、「社長が自由に、会社の預金口座から現金を引き出さないこと」です。
会社の費用を支払うために、会社の預金口座から、前もって現金を引き出す社長がいます。ところが、そのおカネに色はなく。社長のサイフのなかで、社長個人のおカネといっしょになってしまいます。これがよくありません。
社長が会社の費用を支払うのであれば、預金口座から直接支払う。現金払いであれば、まずは社長個人が立て替え払いをする。そのうえで、立て替え払いした金額ちょうどを、会社の預金口座から引き出すようにしましょう。これなら、決算書の現金残高が増えることはありません。
いわれてみれば、なんてことはない、あたりまえのことなのですが。意外と、そのあたりまえができていない。あたりまえができていないからこそ、銀行からは信用の評価損をこうむることを覚えておきましょう。
融資額の評価損
ここまで、資産の評価損と信用の評価損という話をしてきました。これらを受けて、ということになりますが。さいごのもうひとつが、融資額の評価損です。
資産の評価損により、決算書の評価が下がる。信用の評価損により、会社・社長に対する評価が下がれば、当然、融資はうけにくくなってしまいます。これが、融資額の評価損です。
決算書の現金残高が増える原因のひとつに、社長個人への貸し付けがあります(社長が会社のおカネを持ち出したまま)。そういう会社に銀行が融資をすれば、そのおカネもまた、社長個人への貸し付けにまわってしまう可能性があるでしょう。
銀行は、会社におカネを貸すのであって、社長個人におカネを貸すのではありませんから。「だったらもう、この会社には融資をするのをやめよう」となってもおかしくはありませんよね。銀行融資を必要とする会社にとっては、困ったことです。
とはいえ、もし、すでに帳簿の現金残高が多くなっていて、すぐには社長からおカネを戻すことはできない… という場合にはどうするか?
決算書に「現金」として記載するよりも、正直に「貸付金」として記載することをおすすめします。実際には無い現金を在るものとしてウソをつくよりも、実態を示す「貸付金」と記載するのが正しい処理であり、誠意も見えるからです。
ただし、社長への貸付金自体は、銀行から好まれるものではありません。返済されずに貸しっぱなしになるようであれば、やはり評価損をこうむることになります。そこで、社長には「返済の意思がある」ことを、銀行に説明できるようにしましょう。
具体的には、会社と社長とのあいだで、金銭消費貸借契約書をつくること。それにもとづいて、返済予定表を作成すること。これらの書類を、銀行にも提示します。
また、返済予定表にしたがって、実際に返済を進めることもたいせつです。きちんと返済が進んでいれば、貸しっぱなしにはならないことの証明になります。いちばん確実なのは、毎月の役員報酬から天引きをする方法です。
そのうえで、「今後はもう、社長個人に貸し付けしません」と銀行に伝えることで、融資が受けられなくなるような事態を避けやすくなります。くわしくは、こちらの記事もどうぞ↓
まとめ
自社の決算書を見たときに、現金の残高が大きい場合には気をつけましょう。なぜなら、銀行融資では3つもの評価損をこうむってしまうからです。
意外と見過ごされたりもしている部分でもありますので、まずは決算書の現金残高を確認すること。そのうえで、多額になっている場合にはすぐに解消に努める、あわせて、予防策を講じることがたいせつです。
- 資産の評価損
- 信用の評価損
- 融資額の評価損