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個人事業主の銀行融資が会社の銀行融資とは違うところ

個人事業主の銀行融資が会社の銀行融資とは違うところ

個人事業主が銀行融資を受けるのと、会社(法人)が銀行融資を受けるのと、なにか違いはあるのか? 個人事業主のほうが融資を受けにくかったりするのか? について、お話をしていきます。

目次

理屈と実際とには違いがある。

銀行融資の支援をしているなかで、ときおりいただく質問のひとつに「個人事業主の銀行融資は、会社(法人)の銀行融資と違うのか?」があります。

要は、個人事業主だと銀行融資が受けにくかったりするのかどうか? との質問です。結論として、「理屈のうえでは変わらない」ということになるでしょう。

が、実際には少々違うところもありますし、個人事業主が気をつけるべき点もありますので。おもなものについて、お話をしてみることにします。具体的にはこちらです↓

個人事業主の銀行融資が会社の銀行融資とは違うところ
  • 銀行員が慣れていない
  • プロパー融資が出にくい
  • 万一のときには借金が残る

それではこのあと、順番に確認をしていきましょう。

個人事業主の銀行融資が会社の銀行融資とは違うところ

銀行員が慣れていない

銀行融資の審査で重視されるのが「決算書」。その決算書について、個人事業主のものと法人のものと、どちらが見慣れているかといえば、「法人のもの」だという銀行員がいます。

銀行員によっては、取り扱う融資の件数が法人のほうが多い、といったこともあるのでしょうが。個人事業主の決算書はあまり見たことがない、見方がよくわからない… ということもあるらしく。

実際に、「元入金」の計算のしくみがわからなかったらしく、「どうなっているのか?」と銀行員から聞かれたこともあります。そういう意味では、銀行員の不慣れが、多からず融資の受けにくさに影響することはあるかもしれません。

そもそも、会社の決算書と比べて、個人事業主の決算書には「個人事業主に特有」の論点もあります。さきほどの「元入金」しかり、「個人事業主本人の給料」がないことしかり。

会社の決算書であれば、経費として「社長の給料(役員報酬)」が記載されています。そのうえで、会社の利益が計算されているため、「会社の利益=返済原資」というのが銀行の見方です。

では、個人事業主の決算書はどうなのか? 個人事業主本人の給料はありません。売上から諸経費をマイナスした残りが「利益(事業所得)」として計算されます。それなら、「個人事業主の利益=返済原資」かと言えば、必ずしもそうとは言えず。

なぜなら、利益のなかから、社会保険料や税金、生活費などを支払うわけですから、返済原資は「個人事業主の利益」とイコールではありません。もっと、小さくなります。くわしくはこちらの記事もどうぞ↓

当然、そのあたりをふまえて銀行は融資審査をしますが、ここにも「慣れ」の問題はあるようです。また、「生活費がいくらか」などは、銀行にとってよくわからないことでもありますから、個人事業主の側から「どれだけ情報提供できるか」が、審査に影響することもあるでしょう。

とはいえ、銀行融資全体を見たときに、「個人事業主だから融資が受けにくい」とまでは言えないものと考えます。基本的には、個人事業主と会社とで大きな変わりはありません。

プロパー融資が出にくい

「個人事業主は会社に比べて、社会的信用がない」というのは、よく言われるところです。たしかに、会社という「組織」や「看板」、あるいは「財務基盤(他人からの出資)」といったことが、個人事業主に比べて優位にはたらく一面はあります。

つまり、会社のほうが事業は安定的であり、個人事業主は不安定。銀行もまた、「個人事業主よりも会社のほうが安心・安全」と考えているものです。だからといって、個人事業主が融資を受けられないわけではありませんが。会社に比べて信用が低い、個人事業主に対する融資には「ある特徴」があります。

それは、プロパー融資が出にくいことです。プロパー融資とは、信用保証協会の保証がない融資をいいます。信用保証協会の保証がある融資(以下、保証付き融資)であれば、個人事業主が返済できない場合でも、信用保証協会が肩代わりをしてくれるため、銀行にとっては安心・安全です。

そこで、銀行が個人事業主に融資をするときには、どうしても保証付き融資が多くなります。個人事業主にしてみれば、「借りれるならそれでいい」との考え方もあるでしょう。

ただ、保証付き融資には、制度上の限度額があったり、利息に加えて信用保証料の支払いが必要になるなどのデメリットがあります。ゆえに、できることならプロパー融資も受けられるのがベストです。

と考えるのであれば、個人事業主の場合には、会社に比べて「プロパー融資は出にくい」ということは理解しておきましょう。

なお、プロパー融資が出にくいのは、個人事業主の決算書は「情報が少ない(会社の決算書に比べて)」ことにも起因しています。たとえば、会社の決算書には付随している「勘定科目内訳明細書」や「法人事業概況説明書」といった書類は、個人事業主の決算書にはありません。

ところが、銀行はそれらの書類を、会社の融資審査のときには「決算書以上」に注目しているものでもあります。その書類がないのですから、「個人事業主の融資はやりにくい…」という銀行の見方もあるわけです。

また、「貸借対照表」をつくっていない個人事業主もいます。こうなると、銀行はますます審査がしづらくなります。貸借対照表もまた、審査には重要な情報源だからです。

したがって、貸借対照表がないと、そもそも融資が受けられないこともありますし、受けられたとしても受けにくい、プロパー融資などもってのほか、ということになります。

万一のときには借金が残る

銀行融資について、個人事業主と会社との違いとして押さえておくべきことに「万一のときにどうなるか」があります。ここでいう「万一のとき」とは、業績が悪くなるなどして返済ができなくなってしまうケースです。

まずは、個人事業主の場合。事業とは関係のない財産(プライベートの預金や不動産など)をもってしても返済をしなければなりません。おカネを借りたのが事業のためであれ、おカネを借りた個人事業主に「さいごまで責任をとってもらうぞ」というのが銀行の姿勢になります。

これに対して、会社の場合。会社と社長とは「別(の人格)」なので、会社が返済できないからといって、社長個人にまで返済を求められることはありません。よって、社長個人の財産を守ることができるのは、会社を設立するメリットのひとつだと言えるでしょう。

ただし、会社が融資を受けるときに、社長が連帯保証人になっている場合には状況が変わります。会社が返済できないときには、やはり社長個人の財産をもってしても返済をしなければいけません。

この点で、日本政策金融公庫の新創業融資制度は、原則、社長の連帯保証を必要としない融資です。よって、起業に失敗して個人財産を失うリスクを避けるために法人を設立するのは、選択肢のひとつではあります

まとめ

個人事業主が銀行融資を受けるのと、会社(法人)が銀行融資を受けるのと、なにか違いはあるのか? 個人事業主のほうが融資を受けにくかったりするのか? について、お話をしてきました。

理屈のうえで違いはないけれど、実際には少々違うところがある。ある意味では、融資が受けにくい面もある。ということは、理解しておくとよいでしょう。

個人事業主の銀行融資が会社の銀行融資とは違うところ
  • 銀行員が慣れていない
  • プロパー融資が出にくい
  • 万一のときには借金が残る
個人事業主の銀行融資が会社の銀行融資とは違うところ

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