債務超過とは、実質的な破たんであり、銀行融資が受けられなくなる。すると、資金繰りはますます悪化して、ほんとうに潰れてしまう… かというと、必ずしもそうではなく。中小企業が債務超過でも潰れない理由について、お話をしていきます。
理論と実際とはちがう。
会社の財務状態をあらわす言葉に、「債務超過」があります。債務超過とは、赤字を起因とする「資産 < 負債」の状態であり、実質的な破たんであることから、銀行融資が受けられなくなる… 資金繰りはますます悪化して、いよいよほんとうに破たんをしてしまう。潰れてしまう、などと言われるところです。
が、実際には、債務超過の状態にある会社であっても、潰れる会社ばかりではなく、依然として存続している中小企業はけして少なくありません。これを知って、「なぜだ?」とおもわれる社長もいることでしょう。理論と実際とでは、違いもあるということです。
というわけで、中小企業が債務超過でも潰れない理由についてお話をしていきます。具体的にはこちらです ↓
- 一時的な損失によるものだから
- 社長からの借入ができるから
- リスケをしているから
なお、これらの理由について、実際に自社がそのような状態にあるときの「注意点」についてもあわせてお話をしていきます。順番に確認をしていきましょう。
中小企業が債務超過でも潰れない理由と注意点
一時的な損失によるものだから
債務超過とは、「資産 < 負債」の状態だと言いました。言い換えると、「純資産がマイナス」の状態でもあります。
その「純資産」とは、平たく言うと「資本金 + 利益剰余金」です。このうち、利益剰余金は「過去の利益の累計額」をあらわしています。つまり、会社が創業してからいままでの利益を合計したものが「利益剰余金」です。
ひとつ例を挙げてみましょう。資本金 100、創業から3年のあいだ「利益=100」を続けている会社があったとします。この会社の利益剰余金の金額は 300(100 × 3)です。ではここで、会社が 500の赤字を出した場合はどうなるか?
資本金は 100、利益剰余金は ー200(300 ー 500)になります。すると、純資産は「100 ー 200 = ー 100」となることから、たちまち債務超過です。このとき、会社は銀行融資が受けられなくなってしまうのか? というと。
必ずしも、そういうわけでもありません。なぜなら、ー500という赤字の原因が「一時的な損失」であり、翌期以降はまた利益が出るのであれば、銀行は「大きな問題はない」と考えるからです。
なお、一時的な損失の例としては、次のようなものが挙げられます ↓
- 役員退職金、従業員退職金
- 特別償却費
- 不動産取得税(不動産業を除く)
- 新規店舗出店に関する費用、店舗閉鎖に関する費用
- 貸倒損失
ここでの注意点は、会社が銀行に対して「一時的な損失」であることを説明することです。この説明がなかったり、不十分であったりすると、銀行は「一時的な損失」であることがわからずに、「翌期以降も赤字になるのではないか? だったらもう、融資はできないぞ」ということになりかねません。
このあたり、くわしくはこちらの記事も参考にどうぞ ↓
社長からの借入ができるから
中小企業の特徴として、「社長 = 大株主」が挙げられます。多くの中小企業では、経営(社長)と所有(大株主)とが一致しており、社長と会社は「一心同体」の状況です。
よって、会社の資金繰りがピンチにおちいると、社長が「みずからの資産を会社に投入してしのぐ」というのは、中小企業ではけしてめずらしいことではありません。
社長がみずからの資産を投入するとは、つまり、会社が社長から「おカネを借りている」ということであり、会社の貸借対照表には「役員借入金」が計上されることになります。こうして、負債である役員借入金が増えれば、「資産 < 負債」の状態となり、債務超過になることはあるでしょう。
では、債務超過なので会社が潰れるか? といえば、そうでもなく。社長が会社におカネを入れている状態ですから、会社の資金繰りはどうにか回っていたりもします。
さらには、「返済の必要がない役員借入金」を、銀行は「資本とみなす」と考えている点もポイントです。決算書上は債務超過であっても、役員借入金を資本とみなす、つまり、役員借入金を負債から除けば、債務超過を免れることはあります。
結果として、決算書上は債務超過であっても、まだ銀行から融資を受けられるというケースはあるわけです。
このようなケースでの注意点として、まず、役員借入金の「出どころ(原資)」を銀行に説明すること。極端な場合、役員借入金の出どころが、社長がサラ金から借りてきたおカネとなれば、さすがに問題です。なので、銀行は「出どころ」に注目をしています。この点で、ふだんから、社長の個人名義の預金について、銀行に情報開示をしておくのもよいでしょう。
加えて、「返済の必要がない役員借入金」であることも、銀行に説明することが大切です。「資本とみなす」のは、「返済の必要がない」場合のみ。社長が返済を求めるのであれば、資本とみなすことはできません。
これは、決算書を見ただけではわからないことでもありますから、あらためて、銀行には説明をするのがおすすめです。
リスケをしているから
さいごに、もうひとつ。債務超過であっても、会社が潰れない理由として「リスケをしているから」が挙げられます。リスケとは、リスケジュールの略であり、「返済の猶予あるいは減額」のことです。
たとえば、もともと毎月 50万円を銀行に返済していた会社が、資金繰りが悪くなって、返済ができなくなってしまった… そこで、銀行にお願いをして、返済額をいったんゼロにしてもらう(猶予)、あるいは減額をしてもらう。これが、リスケです。
というように、リスケをするような会社は、まず間違いなく債務超過に陥っています。ところが、債務超過だからといって、すぐに潰れたりしないのは、リスケによって「支出」を抑えることができるからです。支出が抑えられて資金繰りが回れば、債務超過であったとしても、会社を継続することはできます。
ここでの注意点は、「はやめのリスケ」です。リスケによって、会社を継続できるのは、リスケの時点で「相応の預金残高がある会社」であることを理解しておきましょう。
逆に、リスケの時点で、すでに預金残高が少ない会社は、リスケによって支出を抑えても「手遅れ」になる可能性が高まります。ですが、「リスケはできればしたくない」との思いから、リスケのタイミングが遅れてしまうことはあるものです。
では、そのタイミングを具体的にどう考えたらよいのかなど、くわしくはこちらの記事も参考にどうぞ↓
まとめ
債務超過とは、実質的な破たんであり、銀行融資が受けられなくなる。すると、資金繰りはますます悪化して、ほんとうに潰れてしまう… かというと、必ずしもそうではなく。中小企業が債務超過でも潰れない理由について、お話をしてきました。
その理由を理解したうえで、実際に自社がそのような状態になったときの「注意点」についてもあわせて確認をしておきましょう。そうカンタンには潰れないとはいえ、債務超過が危険な状態にあることに変わりはありません。