節税とは、税金を減らすことだ。と考えるのであれば、注意が必要です。なぜなら、節税とは「おカネを増やすことだから」というお話をしていきます。
あらためて、節税とは?
会社における「節税」とはどういうことか? と、聞かれたときに。「税金(法人税)を減らすことだ」と考えるのであれば、注意が必要です。たしかに、節税によって「税金が減る」という一面はあります。が、そこだけを見ていると、「本末転倒」になりかねません。
では、あらためて、節税とはどういうことなのか? それは、「おカネを増やすこと」です。と言われても、いまいちよくわからない… そう、おもわれるかもしれません。
そこで、「節税 = おカネを増やすこと」とは、具体的にどういうことなのか? このあとお話をしていきます。その内容は、次のとおりです ↓
- 脱税をしていない
- 税金が減る以上に支出しない
- 会社と社長個人とをあわせて見る
これらについて、順番に確認をしていきましょう。
節税 = おカネを増やすこと、とは?
脱税をしていない
冒頭で、「節税 = おカネを増やすこと」だと言いました。その具体例として、まずは「脱税をしていない」ということについて、確認をしておきましょう。
いやいや、そんなのあたり前だろう。と、おもわれるかもしれませんが。節税は「税金を減らすこと」だと考えていると、税金を減らそう減らそうとするあまり、「実は脱税」になっているケースはあるものです。
ここで、脱税の「よくある例」として、「売上隠し」について考えてみましょう。もしも社長が、1,000万円の売上を隠した場合。法人税率が 30%だとすれば、会社は 300万円の税金を払わずに済むことになります。
払わずに済んだ税金の分だけ、おカネが増えたと考えれば、税金は減ったし、さらには「節税 = おカネを増やすこと = 脱税 」ではないのか? と、いえば。もちろん、そんなはずはないというのはわかりますよね。
言うまでもなく、脱税は「違法」だからです。いくら脱税によって、税金が減っておカネが増えたとしても、違法は許されるものではありません。結果、脱税が見つかれば、追加で税金を支払うことになります。
さらには、ペナルティの税金(重加算税や延滞税)を課されるために、通常よりもはるかに多額の税金を払うことになれば、脱税はおカネは増やすどころか減らす行為です。
また、脱税によって社会的信用に傷が付けば、銀行融資が受けられなくなったり、売上先が離れていったりということもありえます。すると、おカネはますます減ってしまうでしょう。
売上隠しのほかにも、架空の経費を増やすという脱税もいっしょです。ほんとうは、社長個人の「プライベート」の支出なのに、会社の経費として経理処理してしまう… とか。ときおり、これを「グレーゾーン」だと考えている社長がいますが、グレーではなくブラックです。
税務署に見つからなければOK、見つからなければグレー、ということではありませんので。グレーとブラックの違いには、じゅうぶん気をつけるようにしましょう。
税金が減る以上に支出しない
よくある節税として、「経費を増やす」という方法があります。たとえば、決算日のまぎわになって「おもった以上に利益が出ている」ことがわかった場合。社長はあわてて、経費を増やそうと考えることがあります。
経費が増えれば利益が減って、利益が減れば税金も減るからですね。ではここで、具体的な数字で考えてみましょう。社長が税金を減らすために、100万円の経費を増やしたとします。このとき、税率が 30%だとすれば、減る税金は 30万円です。
社長としては、30万円の税金が減ったので「よき、よき」といったところかもしれませんが。いっぽうで、100万円の経費を「支出」している点が問題になります。極端な場合、その 100万円が「冗費(ムダ使い)」であれば、節税によって 100万円のおカネを失ったと言えるでしょう。
それならば、経費を増やしたりせずに、税金 30万円を支払ったほうがよかったということになります。100万円との差額である 70万円を、手元に残すことができるからです。
こうして言われてみれば「あたりまえ」のことなのですが、実際には、散見される節税でもあります。もっとも、おカネを減らしている時点で、本来は節税とさえ呼べないのですけれど。
繰り返しになりますが、節税とは「おカネを増やすこと」です。税金が減っても、おカネが減ったのでは意味がありません。ですから、税金が減る以上に支出をしないように、と考えるようにしましょう。
もちろん、同じ支出でも「必要な支出」であればOKです。さきほどの 100万円も、のちの売上増加につながる「先行投資」であれば、支出する価値はあります。
また、節税の方法のなかには、「税額控除制度」があることも理解しておきましょう。たとえば、特定の設備投資をしたり、一定額以上の給与アップをしたりした場合に、税金を減らすことができる制度があります。
これであれば、税金を減らすために「追加の支出」をするわけではありませんから、有効な節税方法です。税額控除制度についてくわしくは、顧問税理士に確認をするのがよいでしょう。決算日のまぎわになってから… では間に合わないこともありますので、「あらかじめ計画的」に節税を検討することが大切です。
会社と社長個人とをあわせて見る
さいごに、もうひとつ。「節税 = おカネを増やす」の例として、「会社と社長個人とをあわせて見る」ということについて確認をしておきましょう。
言い換えると。節税を考えるときに、「会社ばかりを見て、社長個人のほうを見ていないことがあある」ので気をつけましょう、という話です。また、具体的な数字を使って確認をしてみます。
社長の役員報酬をとる前の「会社の利益」が、3,000万円だったとして。法人税を嫌う社長が、極端ではありますが、役員報酬を 3,000万円とるとどうなるか?
会社の利益はゼロになるので(役員報酬をとる前の利益 3,000万円 ー 役員報酬 3,000万円)、法人税もゼロです。ちなみに、利益ゼロですから、会社にはおカネが残りません。いっぽうで、役員報酬には所得税がかかります。その税率が 40%だと仮定すると、所得税は 1,200万円(役員報酬 3,000万円 × 税率 40%)になり、社長個人の手元に残るおカネは 1,800万円です(役員報酬 3,000万円 ー 所得税 1,200万円)。
これに対して、こんどは社長が役員報酬を 2,000万円とるケースを考えてみましょう。すると、会社の利益は 1,000万円になります(会社の利益 3,000万円 ー 役員報酬 2,000万円)。法人税の税率を 30%と仮定すると、会社の税金は 300万円です(会社の利益 1,000万円 × 税率 30%)。結果、会社には 700万円のおカネが残ります(会社の利益 1,000万円 ー 法人税 300万円)。
いっぽうで、役員報酬 2,000をとった社長はどうかというと。所得税の税率が 35%だと仮定すると、所得税は 700万円(役員報酬 2,000万円 × 税率 35%)になり、社長個人の手元に残るおカネは 1,300万円です(役員報酬 2,000万円 ー 所得税 700万円)。会社に残ったおカネ 700万円とあわせると、会社と社長個人とをあわせたおカネは 2,000万円になります。
というわけで、はじめに見た「役員報酬 3,000万円」の例と、あとから見た「役員報酬 2,000万円」の例とでは、残るおカネに差が出る点に注目です。
役員報酬 3,000万円の例では、会社と社長個人あわせて、手元に残るおカネは 1,800万円でした。これに対して、役員報酬 2,000万円の例では、手元に残るおカネは 2,000万円です。会社の利益は同じでも、役員報酬を 2,000万円とするほうが、会社と社長個人あわせて見れば、200万円もおカネが多くなります。
これは、法人税の税率と所得税の税率の違いによるものです。ちなみに、法人税は利益にかかわらず税率が一定ですが、所得税は役員報酬が増えるほど税率が上がります。よって、そのあたりをふまえて、「会社と社長個人とをあわせて見る」ことが重要です。
会社だけ、あるいは、社長個人だけを見ていたのでは、全体で節税ができたのかどうか、全体でおカネが増えたのかどうかはわからない。ということを、覚えておくようにしましょう。
まとめ
節税とは、税金を減らすことだ。と考えるのであれば、注意が必要です。なぜなら、節税とは「おカネを増やすことだから」というお話をしてきました。
節税によって、たしかに税金は減りますが。それは、表面的な「事象」だとも言えます。節税の「本質」は、税金を減らしたうえで、おカネを増やすことにある。と、考えるようにしてみましょう。
- 脱税をしていない
- 税金が減る以上に支出しない
- 会社と社長個人とをあわせて見る