社長が判断に迷うものとして、「会社は黒字を優先すべきか? それとも、節税を優先すべきか?」があります。この点で、節税のデメリットを理解しましょう、というお話です。
二者択一で語られるものではない。
社長は日々、会社の経営や財務について「判断」を迫られます。その判断に迷うもののひとつが「黒字を優先すべきか? 節税を優先すべきか?」です。つまり、利益を出したほうがいいのか、それとも、利益を抑えて税金を支払ったほうがいいのか。
会社の税金(法人税)は、利益に比例するため、利益が増えれば税金も増える、利益が減れば税金も減る。社長が判断に迷うのもムリはありません。
では、黒字と節税のどちらを優先すればいいのか? 結論としては「黒字」です。が、もちろん、黒字か節税かは「二者択一」で語られるものではありません。厳密には、「どちらによりウエイトを置くのか?」という程度加減の問題にはなるでしょう。
この点で、「節税に大きなウエイトを置いている社長」もいることから、ここではわかりやすく、「黒字を優先」として話を進めます。
でもなぜ、黒字を優先すべきなのか? それは、節税を優先した場合にはデメリットがあるからです。本記事では、そのデメリットを確認していきます。おもなものとして、ぜんぶで3つ。こちらです ↓
- おカネが貯まらない
- 追徴課税の可能性が増える
- 銀行融資が受けられなくなる
このあと、順番に確認をしていきます。これらにデメリットを感じるようであれば、黒字優先に舵を切るきっかけにしていきましょう。
節税を優先した場合のデメリット
おカネが貯まらない
ひとくちに節税と言っても、手段はいろいろありますが。よく用いられるのが、「経費を増やす」という節税です。経費を増やせば利益が減る、利益が減るから税金が減る。たしかに、「節税=税金が減る」のであれば、それは節税です。
ところが、この節税では「会社におカネが貯まらない」ことに気づかねばいけません。たとえば、利益 100の会社があったとして、法人税率は 30%とします。このときの税金は 30です(利益 100 × 税率30%)。結果として、会社には 70のおカネが残ります(利益 100 − 税金 30)。
ここで社長は考えました、「経費を 100増やせば、税金はゼロじゃね?」と。「利益 100 − 経費 100 = ゼロ」ですから、税率 30%を掛け算しても税金はゼロ。これは、社長の思惑どおりで間違いありません。ですが、問題は「おカネ」です。
もともとは、利益 100だったのに、経費 100を増やしたために利益はゼロ。つまり、手元におカネは残りません。税金はゼロになりましたが、おカネもゼロです。これなら、税金を 30払って、手元におカネを 70残したほうがよかったのではないか? というハナシをしています。
これを聞いて、「いやいや、そんなバカなことはしない」と、おもわれるかもしれせん。たしかに、利益のすべてを経費で使うような社長は多くないでしょう。いっぽうで、利益の3割くらいとか、利益の1割くらいなら、経費を増やしている社長は少なくないものです。
当然ながら、3割だろうが1割だろうが、節税前よりも手元に残るおカネは「確実」に減ります。減った税金よりも、経費に使うおカネのほうが多いからです。だとすれば、「実は、バカなことをしているかもしれない」との見方は覚えておくのがよいでしょう。
ちなみに、おカネを貯めてどうするのか? といえば。大きく2つの目的があります。会社の「攻撃力を上げる」ことと、「防御力を上げる」ことの2つです。と聞けば、察しがつくものとおもいますが。
ここでいう「攻撃力」とは、新規事業をはじめたり、新商品・サービスの開発をしたり、会社が「成長」に向けて積極的に投資をするチカラです。おカネを貯めてあれば、そのチカラは上がります。
いっぽうで、「防御力」とは。不測の事態が起きたり、売上不振に陥ったりしたときに、会社を「持続」するために蓄えを取り崩して耐えるチカラです。やはり、おカネを貯めてあれば、そのチカラは上がります。
したがって、節税を優先するあまり、おカネが貯まらない会社は、攻撃力・防御力の両面で厳しい戦いを強いられるものと理解しておきましょう。
追徴課税の可能性が増える
さきほど、よく用いられるのは「経費を増やす」という節税だ、と言いました。この点で、追徴課税の可能性が増える、という問題に注意が必要です。いったい、どういうことなのか?
経費を増やそうという発想がエスカレートすると、いわゆる「グレーゾーン」を攻めるケースが増えるものです。グレーゾーンとは、明確にアウトではないものの、明確にセーフとも言えない経費が該当します。
もちろん、グレーゾーンを攻めること自体が問題ではありません。問題は、おもに2つ。ひとつは、グレーゾーンに対する準備が不十分であること。もうひとつは、グレーゾーンを超えて脱税に及ぶケースがあることです。
まずは前者、準備が不十分とは? 言うまでもありませんが、グレーゾーンは税務署にとっての関心事でもあります。ですからもし、税務調査となれば、追及される可能性は高くなるでしょう。
このとき、税務署を納得させられるだけの「説得材料」がなければ、調査が長引いてしまう… 場合によっては、会社が折れざるを得ないケースも考えられます。すると、追徴課税が発生するのはデメリットです。
税務調査の対応に手間がかかった挙げ句、追徴課税でおカネが減る。追徴課税の場合、もともとの税金に加えて、ペナルティの税金も乗っかりますから、よけいに税金を払うことになります。
それから、グレーゾーンを超えて脱税に及ぶケースについて。グレーゾーンを攻め続けていると、それも、税務調査がたまたまなくて、税務署からのおとがめもないと、ついつい攻めすぎてしまう… ということはあるものです。
わかりやすく言えば、ほんとうは経費ではないのに経費だと偽る。こうなると、節税ではなくて脱税です。脱税はいずれ必ず見つかるものであり(遅いか早いかの問題)、そのときには追徴課税を免れることはできません。
脱税によるペナルティ(上乗せの税金)は、さきほどのグレーゾーンによるペナルティとは別モノです。言わずもがな、脱税によるペナルティは圧倒的に重く、会社のおカネを大きく目減りさせることとなります。
これをレアケースとはとらえずに、「グレーゾーンを攻めるのもほどほどに」と考えておきましょう。人間とは、欲をかくものであり、おのずとエスカレートする勢いを止めるのは困難です。
銀行融資が受けられなくなる
いましがた、脱税のハナシをしました。社長がもし、ほんとうは経費ではないのに経費だと偽った場合には、「重加算税」というペナルティを課せられます。
重加算税とは、事実を隠したり偽装したりしたときに課せられるものであり、わかりやすく言うと「脱税」であることは(厳密には違いますが)、銀行も理解をしているところです。
その重加算税は、税務申告書に記載することになるため、それを見た銀行にもバレてしまいます。では、脱税をするような会社に銀行がおカネを貸すか? といえば、貸しませんよね。社会の公器とも言われる銀行が、脱税をする会社におカネを貸すわけにはいかないのです。
そうして、銀行から融資が受けられなくなった会社はどうなるか? 中小企業にとっては、生命線とも言える「銀行融資」という資金調達手段を失いますから、資金繰り破たんの可能性が高まります。これは、たいへんに大きなデメリットです。
また、脱税をせずとも、節税(経費を増やす)によっても、銀行融資が受けられなくなることはあります。なぜなら、さきほども話をしたとおり、節税によって利益が減るから、節税によっておカネが減るからです。
銀行は、融資をする際には「審査」をします。その審査のなかでも、とりわけ注目をされるのが、利益やおカネです。利益は「返済原資」と見られますから、利益が少ないほど借りられる金額は少なくなります。逆に、利益が多いほど、たくさん借りられるということです。
ただ、利益がいくら多くても、おカネが無ければ会社はつぶれてしまいます。利益が多いからといって、おカネが多いとは限らず。だから銀行は、利益とは別におカネの有無にも注目をしています。
ですから、行き過ぎた節税によって、利益やおカネが少なくなりすぎれば、銀行融資が受けられなくなることは覚えておきましょう。節税をしなければ、ほんとうは借りられたはずのおカネが借りられなくなった、ということです。
節税によって、手元のおカネを減らしたのに加えて、融資を受けることもできないのでは「二重苦」だといえます。節税のデメリットを軽く見ないように、気をつけなければいけません。目先の税金よりも、中長期の「成長・持続」がたいせです。
まとめ
社長が判断に迷うものとして、「会社は黒字を優先すべきか? それとも、節税を優先すべきか?」があります。この点で、節税のおもなデメリットについてお話をしてきました。
デメリットを感じるようであれば、黒字優先に舵を切るきっかけにしていきましょう。
- おカネが貯まらない
- 追徴課税の可能性が増える
- 銀行融資が受けられなくなる