会社が事業をはじめる・続けるうえで欠かせないのが預金口座。これに関連して、「会社が預金をあずけてはいけない銀行」という考え方についてお話をしていきます。
預金なくして商売は成り立たない。
会社が事業をはじめる、あるいは、続けるうえで欠かせないのが「預金口座」です。いまの世の中、現金商売は限られていますから、預金取引なくして商売は成り立ちません。そのために必要なのが「預金口座」です。
では、どの銀行に口座を開き、どの銀行に預金をあずければよいのか? この点で、「会社が預金をあずけてはいけない銀行」という考え方があります。
いますでに銀行融資を受けている会社、あるいは、これから融資を受けようとしている会社は、その考え方を無視するわけにはいきません。融資の受けやすさや、融資条件の良し悪しに影響するところだからです。
そこで本記事では、会社が預金をあずけてはいけない銀行についてお話をしていきます。具体的にはこちらです ↓
- 融資取引がない銀行
- 保証付き融資ばかりの銀行
- 預金を拘束しようとする銀行
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
会社が預金をあずけてはいけない銀行
融資取引がない銀行
会社が預金をあずけてはいけない銀行、1つめ。それは、「融資取引がない銀行」です。
たとえば、A銀行とB銀行から融資を受けている会社があったとします。そのうえで、B銀行とC銀行には預金をあずけていて、A銀行には預金をあずけていないとしたらどうでしょう?
融資をしている銀行にとって、融資先からあずかる預金は「担保」のようなものです。いざとなれば、貸しているおカネと相殺できるものでもあります。ゆえに、「自行の口座に預金をしてほしい」と考えるのが銀行です。
この点で、A銀行は「不満」におもいます。「融資もしていないC銀行には預金をしているのに、なぜ、融資をしているウチの銀行には預金をしてくれないんだ?」という不満です。
この不満が大きくなれば、A銀行からの融資が受けられなくなったり、受けにくくなったりします。また、融資を受けられたとしても、預金をしている場合に比べると融資条件は悪くなるものです。
預金があれば銀行は安心なのですから、金利を下げたり、返済期間を長くしたり、担保や保証をなくしたり、といった対応をしやすくなります。これらはいずれも、会社にとっては「有利」な融資条件です。
預金をあずけていないがために融資条件が悪くなるのは、会社にとっては「損」だとわかるでしょう。
なお、預金をしてさえすればいい、というわけではありません。預金は、融資額に応じてあずけるべき、というのが基本的な考え方になります。たとえば、次のような状況の会社であればどうでしょうか ↓
- A銀行の融資残高 … 3,500万円
- B銀行の融資残高 … 1,500万円
- C銀行の融資残高 … 融資なし
- 会社の預金総額 … 3,000万円
この会社の融資総額は、5,000万円です(3,500万円 + 1,500万円)。だとすると、A銀行の融資残高が融資総額に占める割合は 70%(3,500万円 ÷ 5,000万円)、B銀行の融資残高が融資総額に占める割合は 30%(1,500万円 ÷ 3,000万円)になります。
いっぽうで、預金総額は 3,000万円です。これに、さきほどの割合を掛け算します。つまり、A銀行であれば、「3,000万円 × 70%」で 2,100万円。これが、A銀行にあずけるべき預金額です。同じように、B銀行は「3,000万円 × 30%」で 900万円と考えます。
もちろん、その金額ピタリに預金をそろえることはできないにしても、その金額に「近づける」という考え方が大切です。少なくとも銀行は、「自行の融資残高が融資総額に占める割合」くらいの預金はしてほしいと考えています。
ちなみに、「融資残高が融資総額に占める割合」を超える預金は「預けすぎ」です。たとえば、次のような状況の会社であればどうでしょうか ↓
- A銀行の融資残高 … 3,500万円
- B銀行の融資残高 … 1,500万円
- C銀行の融資残高 … 融資なし
- 会社の預金総額 … 6,000万円
さきほどの例と違うのは、「会社の預金総額」だけです。その預金総額(6,000万円)に、「A銀行の融資残高が融資総額に占める割合(70%)」を掛け算すると、4,200万円になります。
ところが、A銀行の融資残高は 3,500万円ですから、4,200万円は預けすぎ。これだと、実質的におカネを貸しているのは、銀行ではなく会社だということになってしまいます。
それでも、A銀行に預金をあずけるのだとすれば、「さらなる融資を引き出すため」という理由であるべきです。その理由もなく預けるのでは、会社にとっては「損」になります。
この場合、「預けすぎ」の部分は、ほかの銀行に預けることで、あらたに融資を引き出すのも選択肢のひとつです。さきほどの例であれば、あえてC銀行にあずけて、あらたに融資を引き出す「材料」にする、ということになります。
保証付き融資ばかりの銀行
会社が預金をあずけてはいけない銀行、2つめ。それは、「保証付き融資ばかりの銀行」です。
そもそも、銀行からの融資は、大きく2つに分かれます。信用保証協会の保証付き融資と、プロパー融資です。保証付き融資とは、文字どおり、信用保証協会の保証がある融資。プロパー融資は、信用保証協会の保証がない融資になります。
では、会社にとって、どちらが融資を受けやすいかと言えば、保証付き融資です。会社が返済できなくなったときには、信用保証協会が肩代わりをしてくれるため、銀行は貸しやすいから、というのがその理由になります。
とはいえ、保証付き融資には「制度上の限度額がある」こと、また、「信用保証料」というコストがかかることなどから、会社はプロパー融資を引き出したいところです。
いっぽう、銀行にとってプロパー融資は、信用保証協会の保証が無い分だけ、リスクが高い融資になります。
この点で、あずけている預金が多いほど、プロパー融資が受けやすくなるものと考えておきましょう。預金が、銀行にとって担保のようなものであることは、すでに話をしたとおりです。
では、以上をふまえて、次のような状況の会社があればどうでしょうか ↓
- A銀行の融資残高 … 3,500万円(全額が保証付き融資)
- B銀行の融資残高 … 1,500万円(プロパー融資 1,000万円、保証付き融資 500万円)
この状況で、前述した「各銀行の融資残高が融資総額に占める割合」で預金をあずけているとどうなるか。B銀行は、「A銀行はずるいなぁ」と考えるでしょう。
なぜなら、A銀行の融資は全額、保証付き融資だからです。信用保証協会によって保証されているのですから、その分の預金はなくても、A銀行は安心・安全だと言えます。
にもかかわらず、保証付き融資の分まで預金をあずけるのは過剰。それなら、「リスクをとってプロパー融資をしているウチに預金をしてほしい」と、B銀行は考えるものです。
よって、預金をあずけるときには、「保証付き融資ばかりの銀行」にあずけすぎないように気をつけましょう。言い換えると、預金は「プロパー融資を引き出すための材料」として使っていきましょう。
なお、中小企業(とくに、年間売上高 10億円未満くらいの会社)が、都市銀行から無担保でプロパー融資を受けられることはまずありません。都市銀行は、大企業向けの銀行だからです。
なので、都市銀行に対しては「プロパー融資を引き出すための材料」という理屈はあてはまらないものと考えておきましょう。代わりに、地方銀行や信用金庫・信用組合からプロパー融資を引き出す、ということになります。
預金を拘束しようとする銀行
会社が預金をあずけてはいけない銀行、3つめ。それは、「預金を拘束しようとする銀行」です。
銀行にとって、預金は担保のようなものだ、という話をしました。とはいえ、預金を引き出されてしまえば、担保とはいえません。そこで、定期預金にすることで、「預金を拘束する」という銀行の考え方があります。
もちろん、会社にとっては好ましいことではありません。いちど定期預金にすると、カンタンには解約できなくなってしまいます。解約しようとすると、あの手この手で銀行に引き止められることになるからです。
こうなると、定期預金を正式に担保にとるまでもなく、実質的な担保になってしまいます。
こうして預金を拘束されれば、会社はおカネを自由に使えなくなってしまうのですから、定期預金はできるだけ避けましょう。定期預金を求めてくる銀行、定期預金をしなければ融資をしてくれないような銀行には、預金をしないということです。
会社の状況によっては、定期預金をしなければ融資を受けられないケースはあるかもしれません。が、複数の銀行にあたってみれば、必ずしも定期預金を必要としない銀行はあるものです。ゆえに、日ごろから複数の銀行とお付き合いをしておくことが大切になります。
まとめ
会社が事業をはじめる・続けるうえで欠かせないのが預金口座。これに関連して、「会社が預金をあずけてはいけない銀行」という考え方をお話ししてきました。
いますでに銀行融資を受けている会社、あるいは、これから融資を受けようとしている会社は、その考え方を無視するわけにはいきません。融資の受けやすさや、融資条件の良し悪しに影響するものとして、理解しておきましょう。
- 融資取引がない銀行
- 保証付き融資ばかりの銀行
- 預金を拘束しようとする銀行