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自己資本比率を上げたくても借入を減らしてはいけない

自己資本比率を上げたくても借入を減らしてはいけない

自己資本比率を上げるために借入を減らそう、というハナシがありますが。いろいろな面で問題があるため、結果として銀行から融資が受けにくくなってしまうことがある、というお話です。

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自己資本比率を上げるために借入を減らそう

決算書について、あまたある「財務指標」のなかでも、とりわけ有名なものの1つに「自己資本比率」があります。自己資本比率とは算式でいうと、「純資産(自己資本)÷ 総資産(総資本)」です。

自己資本とは、出資や利益から構成されるものであり、返済する必要がない資金調達金額をあらわします。ゆえに、総資金調達額(=総資本)に占める自己資本の割合、つまり、自己資本比率が高いほど財務的に安全な会社だ、というのがよくいわれるところです。

そこで、「自己資本比率を上げるために借入を減らそう」と考える社長がいます。そうすれば、銀行からも「良い会社」だと見てもられえるに違いない、との考えです。

具体的には、少しでも借入を減らすために、決算前に「繰り上げ返済をする」とか。決算前に銀行から融資セールスを受けても、借入を増やさないために断るとか。

たしかに、借入を減らしたり、増やさないようにすれば、自己資本比率は上がるでしょう。ですが、それで必ずしも銀行から「良い会社」と見てもらえるか、銀行からの評価が上がるとは限りません。

むしろ、いろいろな面で問題があるため、結果として銀行から融資が受けにくくなってしまうことがあります。

それならいったい、どうしたらよいのか。自己資本比率を上げるために、借入を減らしてはいけないのだとすれば、代わりにどうしたらよいのか。このあとお話をしていきます。

繰り上げ返済の効果、融資セールスを断る効果

はじめに、繰り上げ返済や融資セールスを断ることによる、自己資本比率への影響を考えてみます。どれだけ自己資本比率を下げる「効果」があるのか、ということです。

総資産1億円、純資産 2,000万円の会社があったとします。自己資本比率は 20%です(2,000万円 ÷ 1億円)。では、この会社が 1,000万円の繰り上げ返済をするとしたらどうでしょう?

手元の預金(資産)が 1,000万円減って、借入(負債)も 1,000万円減りますから、総資産は 9,000万円になります。純資産は変わらず 2,000万円なので、自己資本比率は 22.2%です(2,000万円 ÷ 9,000万円)。

というわけで、繰り上げ返済によって、自己資本比率は 2.2%上がりました。とはいえ、「そんなもんしか上がらないのか…」というインパクトでもあります。

総資産1億円の会社にとって 1,000万円の預金が減ることは、一般に「かなり大きい」とおもわれますので、資金繰り的にはリスキーな行為です。にもかかわらず、たった2.2%では… という見方もあるでしょう。

いっぽうで、融資セールスを断るケースについても確認をしてみます。さきほどと同じく、総資産1億円、純資産 2,000万円の会社があったとして(自己資本比率 20%)。

1,000万円の融資セールスを受け入れた場合、手元の預金(資産)が 1,000万円増えて、借入(負債)も 1,000万円増えます。よって、総資産は1億 1,000万円になりますから、自己資本比率は「2,000万円 ÷ 1億 1,000万円」で 18.2%です。

もともとの自己資本比率は 20%、融資セールスを受け入れると 18.2%。なので、融資セールスを断れることで、自己資本比率を 1.8%上げることができたといえます(20% − 18.2%)。

とはいえ、これもまた「わずか 1.8%」との見方があるでしょう。たったそれだけの自己資本比率を上げるよりも、手元の預金を 1,000万円増やしたほうがよい、との考えだってあるはずです。

自己資本比率を上げたければ利益を増やせ

繰り上げ返済や融資セールスを断ることで「自己資本比率を下げる効果」も、意外とアヤシイものだなぁ… ということがわかりました。

とはいえ、自己資本比率が高いほうがいい(少なくとも、低いのでは困る)のは間違いありません。それならいったい、どのようにして自己資本比率を上げればよいのか?

結論は、利益を増やすことです。利益を増やすだなんてカンタンに言ってくれるな、とおもわれるかもしれませんが。会社は「利益を出す・利益を増やすために存在する」のですから、カンタンかどうかはともかく、前提としておかしなものではないでしょう。

にもかかわらず、節税にいそしむあまり、わざと利益を減らそうとする社長はいるものです。自己資本比率から見ても得策とはいえませんよ、というハナシでもあります。

それはそれとして、利益を増やすことにはどれだけの効果があるのか? ここも具体例で考えてみましょう。さきほどまでと同じく、総資産1億円、純資産 2,000万円の会社があったとします。

この会社が、税引後利益 300万円を稼ぐことができるとしたらどうでしょう。税引後利益とは文字どおり、税金を払ったあとの利益ですから、手元の預金(資産)も 300万円増えることになります。

いっぽうで、税引後利益(利益剰余金)は「純資産」を構成する要素の1つですから、純資産も 300万円増えます。すると、自己資本比率は「2,300万円 ÷ 1億300万円」で 22.3%です。

もともとの 20%からは 2.3%の増加であり、前述した繰り上げ返済による効果 2.2%と同等、融資セールスを断る効果 1.8%を上回ります。あたりまえの話ではありますが、利益を増やせば、自己資本比率はちゃんと上がるのです。

ちなみに、総資産1億円の会社はおおむね、年商(年間売上高)も1億円くらいと想定できます。だとすれば、税引後利益 300万円は、税引後利益率3%(300万円 ÷ 1億円)ですから、ムリな話をしているわけでもありません。

利益を増やすためにはおカネが要る

そうはいっても、利益を増やすのがタイヘンなんだ、というのであれば。1つの策が、手元のおカネ(預金)を増やすことだといえます。

利益を増やせる会社の社長は、「経営」に集中できているものです。経営とはすなわち、会社のあすを考えて、あすのために手を打つこと、行動することだといえます。まさに、社長の仕事、社長にしかできない仕事です。

ところが、手元のおカネがない会社の社長は、経営に集中することができません。それより先に、「目先の資金繰り」という仕事を優先せざるをえないからです。なので、資金繰りが厳しい会社は、社長が経営に集中できず利益が増えない。いっそう資金繰りが悪くなる… という悪循環に陥ります。

そうならないように、会社は「じゅうぶんなおカネ」を手元に置いておくのが得策です。繰り上げ返済や融資セールスを断るのは、それに逆行する行為であることを理解しておきましょう。たとえ自己資本比率を上げることができても、おカネがなくて社長が資金繰りに縛られるようでは本末転倒です。

また、会社が預金残高を減らすと、銀行からの融資が受けにくくなります。銀行は、預金がある会社を安心・安全と見ているからです。この点で、預金残高は「平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の2ヶ月分以上」をキープすることをおすすめします。

なお、平均月商の1ヶ月分未満になると、銀行融資は極端に受けにくくなることも覚えておきましょう。

さらにいうと、会社はおカネがないと、ここぞのチャンスに攻めることもできません。攻めるときというのは、おカネが必要になることが多いものです。自己資本比率を優先するあまり、繰り上げ返済や融資セールスを断ってしまいおカネがないと、チャンスを逃してしまい、利益が伸び悩む原因になりかねません。

いますぐに使わないとしても、手元におカネを置いておくことも考えてみましょう。

利息は気にしない

繰り上げ返済をしない、融資セールスは断らないとなると、借入が増えて支払う利息も増えるじゃないか。と、おもわれるかもしれません。ではまた、具体例で考えてみましょう。

年利3%で 1,000万円の借入をしたとき、当初1年間で支払う利息は 30万円です(1,000万円 × 3%)。法人税率が 30%だとすれば、利息は経費ですから、9万円の節税効果があります(30万円 × 30%)。つまり、実質的に支払う利息は 21万円です。

年商1億円の会社であれば、利益率に与える影響は 0.21%になります(21万円 ÷ 1億円)。わずか 0.21%だともいえます。いまは低金利ですから、年利3%よりもずっと低く借りられることもあるでしょう。

だとすれば、利息は気にしないことです。もちろん、ムダに利息を払う必要はありませんが、手元のおカネを増やすのを優先するのであれば、利息は「必要なコスト」だと考えましょう。

言い換えると、繰り上げ返済や融資セールスを断ったとしても、その効果は、利益率にしてわずか 0.21%だということです。

まとめ

自己資本比率を上げるために借入を減らそう、というハナシがありますが。いろいろな面で問題があるため、結果として銀行から融資が受けにくくなってしまうことがある、というお話をしてきました。

自己資本比率を上げたいのであれば、借入を減らすのではなく、利益を増やすことを考えてみましょう。結果として資金繰りが安定し、社長が経営に集中することで、会社が成長しやすくなります。

自己資本比率を上げたくても借入を減らしてはいけない

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