自社の決算書に記載されている「短期借入金」はホンモノか?

自社の決算書に記載されている「短期借入金」はホンモノか?

自社の決算書に、「短期借入金」という勘定科目の記載がある場合。はたして、それはホンモノなのか? 実は、ニセモノもあるので気をつけましょう。というお話をしていきます。

目次

ホンモノがあれば、ニセモノもある。

決算書には、さまざまな「勘定科目」が掲載されますが。自社の決算書のなかに、「短期借入金」はありますか? あるとすれば、貸借対照表の「負債の分」のなか、「流動負債」の1つとして掲載されているはずです。

短期借入金とは、その名のとおり、短期の借入金なわけですが。意外と、「ニセモノ」の短期借入金であるケースが少なくありません。つまり、「ほんとうは違う勘定科目にするのが正しいよね」ということです。

では、「ホンモノ」の短期借入金とは、どのようなものをいうのか? そのあたりを、このあと確認していきましょう。

このあとの話の内容
  • ニセモノの短期借入金とは?
  • ホンモノの短期借入金とは?

ニセモノの短期借入金とは?

ほんとうは、1年以内返済長期借入金

短期借入金とは、短期の借入金だといいました。もう少し正確にいうと、決算日から1年以内に返済期限がくる借入金です。では、返済期限が1年を超える借入金は? といえば、「長期借入金」になります。

具体例で確認をしてみましょう。今期末に、「返済期間5年、金額 1,000万円」の融資を受けたとします。決算書には、どのように記載するのが正しいのでしょうか?

正解は、「1年以内返済長期借入金(流動負債) 200万円、長期借入金(固定負債) 800万円」です。最終の返済期限は、今期末から5年後(1年超)なので長期借入金、というのはだいじょうぶでしょう。

ただし、そのうちの 200万円(1,000万円 ÷ 5年)については、1年以内に返済期限がきます。ゆえに、長期借入金とは区別して「1年以内返済長期借入金」とするわけです。

このとき、「1年以内返済長期借入金」を「短期借入金」と記載しているケースがあるので気をつけましょう。「完全な間違い」とまではいいませんが、後述する理由によって、短期借入金にはしないほうがよいのです。

なお、1年以内返済長期借入金(さきほどの例だと 200万円)も含めて、全額を「長期借入金」として記載しているケースがあります。これは、「間違い」といってよいでしょう。

流動負債と固定負債との区分がおかしくなることから、銀行も気にする指標のひとつ「流動比率」の計算結果が歪んでしまいます。ひいては、社長が指標を見誤ることにもなりかねません。気をつけましょう。

ほんとうは、役員借入金

社長はじめ、役員からの借入金も含めて「短期借入金」として記載している決算書があります。これも「絶対に間違い」とはいいませんが、おすすめもできません。

なぜなら、役員からの借入金のうち、その役員が返済を求めない借入金であれば、銀行は「自己資本」とみなすからです。決算書上は「負債」であるところを、自己資本とみなせば、銀行評価上はプラスの効果があります。つまり、融資が受けやすくなるということです。

ところが、役員からの借入金を「短期借入金」と表示していると、銀行が「役員からの借入金」であることに気がつかないケースがあります。すると、その役員借入金は負債のまま見られるわけですから、銀行評価上のプラスはありません。もったいないハナシです。

なので、役員からの借入金であることを銀行に気づいてもらえるよう、「役員借入金」という勘定科目で明示しましょう。これならさすがに、銀行も気づくはずです。

さらに、「返済を求められない借入金」だということは、返済期限が1年超だということですから、「固定負債」として記載します。これを「流動負債」として記載してしまうと、銀行は「すぐに返済する役員借入金なのかな?(だったら、自己資本ではなく負債)」と見ることになりますから注意が必要です。

ホンモノの短期借入金とは?

納税資金・賞与資金の借入

ここまで、ニセモノの短期借入金を確認してきました。ここからは、ホンモノの短期借入金について確認していきます。

まずは、納税資金の借入です。会社は、年の途中に予定納税、決算時に納税があります(法人税・法人住民税)。それら納税のためのおカネを、銀行から借りることが可能です。

半年ごとの納税なので、返済期間は6ヶ月となります。返済期限が1年以内にくる借入金ですから、これこそが「短期借入金」です。流動負債として記載しましょう。

同じように、賞与資金の借入があります。通常、夏と冬の2回、半年ごとに支給されることから、やはり返済期間は6ヶ月です。よって、「短期借入金」として記載することになります。

こうして、きちんと短期借入金の区分をしたうえで、自社の決算書を見たときに「短期借入金がない」というのはどういうことか? 納税資金や賞与資金の融資を受けていない、ということです。

すると、納税や賞与支払のタイミングで、一時的に、手元のおカネが減ってしまいます。場合によっては、資金繰りに不安が生じることもあるでしょう。それを避けるために融資を受けて、一時的なおカネの目減りを防ぐのです。

実際に目減りをしてしまった「あと」になってから、「やっぱり貸して」といっても納税や賞与のための借入はできません。銀行は、「そのとき」でなければ貸せないからです。

納税や賞与支払いは、会社の業績が良いことのあらわれ(業績が悪ければ納税はないし、賞与は払えない)ものなので、銀行も貸しやすく、会社にとっては借りやすい融資だといえます。

銀行融資は、借りたいときに借りれるかはわかりません。借りやすいときに、漏らさず借りておくことが、会社の資金繰りを守ることにつながります。

短期継続融資による借入

以前に比べて増えている借りかたとして、「短期継続融資」があります。文字どおり、短期で継続して借りる融資です。

まずは、6ヶ月〜1年を返済期限として融資を受けます。期限に一括返済をする前提なのですが、期限を迎えた時点で、会社の状況に大きな変化がなければ、もういちど返済期限を6ヶ月〜1年先に延ばします。これを繰り返すことで、会社は「借りっぱなし」にすることが可能です。

ただし、短期継続融資の対象は「経常運転資金」になります。経常運転資金とは、「売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産(在庫)ー仕入債務(買掛金・支払手形)」で計算される金額です。

その経常運転資金とは、会社が事業を続けている限り必要になるおカネであることから、「毎月分割返済」で借りると、返済のたびに資金繰りが悪化してしまいます。

それでも実際には、経常運転資金を毎月分割返済で借りている会社は多く、これを問題視した金融庁が銀行に対して「短期継続融資」を促しているところです。経常運転資金が大きい会社は、短期継続融資を銀行に相談するのがよいでしょう。

以上をふまえて、短期継続融資があれば「短期借入金」として記載します。実質的には「長期借入金」ではありますが、契約上は1年以内の返済期限なので「短期借入金」です。

したがって、短期借入金があるということは、会社にとって「資金繰りがよくなる借りかた」をしている証だともいえます。さきほどの納税資金や賞与資金の融資も同じことです。

逆に、決算書を見たときに、短期借入金がまったくないということになると、「あまりうまい借りかたができていないのかなぁ」との見方にもなります。

短期借入金のホンモノ・ニセモノを区分して記載をしたうえで、ホンモノの短期借入金を増やす借りかたも検討してみましょう。資金繰りの改善につながるところです。

まとめ

自社の決算書に、「短期借入金」という勘定科目の記載がある場合。はたして、それはホンモノなのか? 実は、ニセモノもあるので気をつけましょう。というお話をしてきました。

ホンモノとニセモノを取り違えると、つまり、決算書の勘定科目が不正確だと、銀行からの評価が悪くなったり、社長が判断を誤る原因にもなりかねません。気をつけましょう。

このあとの話の内容
  • ニセモノの短期借入金とは?
  • ホンモノの短期借入金とは?
自社の決算書に記載されている「短期借入金」はホンモノか?

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