言葉としては銀行に浸透した「事業性評価」も、本質的な浸透となると銀行ごとに差があります。そこで、事業性評価による融資に熱心な銀行の特徴についてのお話です。
熱心な銀行と、そうでない銀行とがある。
銀行から融資を受けている、受けようとしている会社の社長であれば、「事業性評価」という銀行の考え方を覚えておきましょう。
事業性評価とは、端的に言えば「銀行が融資先の事業そのものを評価すること」をいいます。これを聞いて、そんなのあたりまえだろう? とおもわれたのであればそのとおりです。
ところが実際には、事業そのものよりも、決算書(業績)の良し悪しや、担保・保証の有無によって融資の可否が決まっていた(いまもまだ)、という背景があります。
そんなわけで、2014年ごろから、金融庁が「事業性評価をするように」みたいなことを銀行に対して言い始めてからだいぶたちました。いまでは、銀行のあいだに、事業性評価の「言葉」が浸透しつつありますが、「本質的」には銀行ごとに差があるところです。
つまり、事業性評価による融資に熱心な銀行(支店)と、そうでない銀行(支店)がある、ということになります。
会社にとって、事業性評価をしてもらえるメリットは、銀行との中長期的な関係性が築けること。銀行が融資先の「事業(商売の良し悪し)」を理解していれば、短期的な業績悪化で融資姿勢が急変することは減り、未来への取り組みに対する協力を得やすくもなるでしょう。
ですから、社長には「事業性評価による融資に熱心な銀行」を見極める目が必要です。とはいえ、どのように見極めればよいのやら…?
そこで、事業性評価による融資に熱心な銀行の特徴についてお話をします。具体的には次のとおりです↓
- 業界のことがわかっている
- 会社の概要がわかっている
- 会社まで足を運ぶ
- 社長へのヒアリングがある
- 数字との結びつけができている
これらの特徴について、このあと順番に確認をしていきましょう。
事業性評価による融資に熱心な銀行の特徴
業界のことがわかっている
冒頭、事業性評価とは「融資先の事業そのものを評価すること」だと言いました。事業について理解するには、その前提として、融資先の「業界」を知ることが欠かせません。
業界全体のようすや傾向と、融資先とを比較することで、融資先の特徴を捉えやすくなるものだからです。そういう意味で、銀行は「基本的」には、業界動向について調査をしています。
なので、事業性評価うんぬん以前に、業界のことを調査してはいるのですが、調査の「深さ」には銀行ごとの差があったり、さらには銀行員(銀行担当者)ごとの「個人差」もあります。
この点で、業界のことをよりわかっている銀行・銀行担当者のほうが、事業性評価には熱心だと考えられますから、ふだんの会話のなかで「理解度」をはかっておくのがよいでしょう。
理解度が高い銀行担当者は、業界の動向を会話のきっかけにしていることは多いものですし、同業他社との違いに注目をして質問をしてきたりもするものです。
逆に、理解度が低い銀行担当者は、会社単体に視点が向いた会話が多くなります。もし、そのような状況であれば、社長のほうから「業界の動向」や「自社が同業他社と違うところ」などを伝えられるとよいでしょう。銀行が事業性評価に踏み出すきっかけになりえます。
会社の概要がわかっている
事業性評価として、銀行が「融資先の事業そのものを評価する」にあたって、まずは、融資先の「概要」を知る必要があります。
というのは、銀行にとって「基本のキ」なのですが、やはり銀行ごと、銀行担当者ごとに差はあるものです。その「差」をはかるための1つのポイントがホームページでしょう。
はたして、銀行担当者は自社のホームページを見ているかどうか? 会社の概要をよく調べていたり、よく調べようとする銀行担当者は、ホームページをよく見ているものですから、「ホームページに書いてあった〇〇について教えてください」といった話が多くなります。
もっとも、さっぱり更新されていないホームページであれば、銀行も聞くべきことがなくなってしまいますから、ホームページは絶えず更新することも大切です(「対銀行」に限った話ではありません)。
また、事業性評価に熱心な銀行は、社長の SNS(FacebookやTwitter、Instagram)をよく見ています。中小企業にあっては、「社長=会社」といっても過言ではありませんから、社長のふだんの言動や交友関係、趣味嗜好などにも注目をしているのです。
なので、SNSから得た情報をもとに、会話や質問をしてくる銀行があれば、事業性評価に熱心だとい見方をしてみてもよいでしょう。
会社まで足を運ぶ
事業性評価をするにあたって、銀行が融資先まで「足を運ぶ」かどうかも大切なポイントです。業界のことや、会社の概要であれば、ネットで情報を集めることもできますが、それだけでは集まらない情報が「現場」にはあります。
事務所・工場・店舗の整理整頓の状況や、経営者の顔色、社員の雰囲気など。いずれも事業に影響するところでありながら、それらに変化があったとしても、すぐには数字にあらわれなかったりもするところです。
ゆえに、あるていどの頻度で現場を見ておくことが大事であることは、銀行員であれば皆が知っています。が、いまは銀行も業務効率化やリストラによって、融資先に足を運ぶ回数が減っているのも事実です。
それでも、自社に足を運ぶ銀行かどうかは、事業性評価に熱心な銀行かを見極める指標の1つになるでしょう。
ただし、銀行から「事業性評価をするに値しない会社」と見られている場合には、事業性評価に熱心な銀行であっても、自社に足を運ぶことはありません。
そもそも、自社に注目をしてもらうためには、決算書(業績)が良いことが役立ちますし、将来の利益を描いた経営計画書を提示・説明するなど、会社側の銀行対応も重要です。
社長へのヒアリングがある
事業性評価に必要な情報は、「目で見る」だけではわからないこともあります。よって、事業性評価に熱心な銀行は、社長へのヒアリングを欠かしません。
たとえば、経営方針や理念(明文化されていないことが多い)、会社の強みや弱み(内部要因)、事業の見通し、資金調達ニーズ、後継者の有無・関係性、組織や内部統制の状況、社員の採用・教育に関する状況などなど。
いくら自社に足を運んでいる銀行であっても、それらのヒアリングがないようだと、事業性評価に熱心だとは言えないでしょう。言い換えると、ただ「御用聞き」に来ているだけです。
とはいえ、銀行担当者によっては、どのようにヒアリングを始めればよいかわからない。きっかけがつかめない。ということもあると聞きます。
ですから、社長のほうから、前述したような情報について話を振ってみるのもよいでしょう。それでもなお、話に踏み込んでこない銀行であれば、事業性評価に関心なしだといえます。
ちなみに、事業性評価に関するヒアリングは、融資とは直接関係がなさそうに聞こえる内容が多いため、「テキトーにあしらってしまう」という社長がいますので注意です。
数字との結びつけができている
事業性評価に熱心な銀行は、事業性評価の過程でえた情報(おもに数字以外の情報)と、数字(おもに決算書)との結びつけができているものです。
たとえば、利益が増えたのは、同業他社とは違う〇〇の強みがあるからとか。売上が減ったのは、〇〇を原因とする市場縮小の影響を受けているからとか。
ですから、銀行に決算書を見せたときに、ただ単に「〇〇の金額が増えましたね」というような話をするのではなく、「〇〇の金額が増えたのは、△△が原因ですか?」といった質問ができる銀行は事業性評価に熱心な銀行だといえるでしょう。
ウラを返せば、銀行が事業性評価をできるように、社長のほうから「数字と結びつけた情報」を提供することが大切だとも言えます。数字が増えたり減ったりした原因は何なのか? それを社長は把握したうえで、銀行に説明できるようにしておくということです。
銀行から聞かれても、社長が「どうだったかなぁ…?」では、銀行も事業性評価を進める気にはなれません。事業性評価は、銀行だけで進められるものではなく、社長も一緒になって進めるものであることを理解しておきましょう。
まとめ
言葉としては銀行に浸透した「事業性評価」も、本質的な浸透となると銀行ごとに差があります。ですから社長は、事業性評価による融資に熱心な銀行の特徴を知り、熱心な銀行とそうでない銀行とを見極められるようにしましょう。
- 業界のことがわかっている
- 会社の概要がわかっている
- 会社まで足を運ぶ
- 社長へのヒアリングがある
- 数字との結びつけができている