「黒字にしたい!」との思いがある社長が、いちどは考えるのが「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」です。たしかに選択肢の1つではありますが、デメリットもありますから気をつけましょう、というお話です。
社長がいちどは考えること。
社長であれば、「黒字を出したい!」との思いがあることでしょう。場合によっては、「黒字を出さなければいけない…」ということがあるかもしれません。
とはいえ、黒字が難しいときはあるもので。そんなときに、社長がいちどは考えるのが「減価償却しないで黒字」あるいは「減価償却費を少なくして黒字」です。
減価償却とは、1つあたり 10万円以上の固定資産(建物、機械、自動車、備品、ソフトウェアなど)について、「複数年に分割して経費(減価償却費)にする」という経理処理を言います。
その減価償却は、税金計算のルール(税法)においては「するもしないも自由」です。社長には「減価償却をしない・減価償却費を少なくする」という選択肢が生じることになります。
そこで、「黒字にできるなら…」と、選択する社長もいるわけです。が、いっぽうで、「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」には、デメリットがあることも忘れてはいけません。
具体的には次のとおりです↓
- 税金負担が多くなる
- 銀行融資に問題が生じる
- 社長が業績をつかめなくなる
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」のデメリット
税金負担が大きくなる
減価償却費は、数ある経費の1つです。経費を計上する効果の1つに、「税金(法人税)を減らす」ことが挙げられます。
税金の計算方法は、端的に言えば「利益 × 税率」です。したがって、利益を減らすことが税金を減らすことになり、利益を減らすには経費を増やせばよいことがわかります。
では逆に、経費を減らせばどうなるのか? 当然、利益が増えて、税金も増えることになります。だとすれば、減価償却をしない・減価償却を少なくすることで、税金が増えるわけです。
これは、本来払わなくてもよい税金を払うということでもあります。税金を払えば、その分だけおカネが減るのですから、会社の資金繰りは悪くなるのは問題です。
というように、「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」には、税金負担が大きくなるというデメリットがあることを理解しておきましょう。
銀行から融資を受けるためには黒字でなければならない、と考える社長がいます。建設業の会社なら、経審の点数を下げないために黒字でなければならない、と考える社長もいます。
ですが、本来払わなくてもよい税金を払うことで資金繰りが悪くなり、果ては資金繰り破たん… となるようでは元も子もありません。
減価償却の前提には「固定資産の購入」があります。固定資産の購入には「支出」がともないますから、その分だけ資金繰りが厳しくなるはずです。借入をして購入した場合でも、返済が待っています。
それらの支出を補う手段が「減価償却」です。減価償却には、経費が増えて税金を減らす効果があることは話をしました。税金が減ることで、固定資産の購入にともなう支出を補うわけです。
「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」を考えるのは、会社の業績が悪いときでしょう。業績が悪いときには、資金繰りも悪いものです。
そこへきて、減価償却しない・減価償却費を少なくすることで、さらに資金繰りを悪くすることが、いかに危険な行為であるか? 社長は忘れないようにしましょう。
銀行融資に問題が生じる
減価償却しない・減価償却費を少なくすることが、資金繰りにおいて「危険な行為」であるという話をしました。この話は、銀行も当然に理解しています。
よって、銀行が「減価償却しない・減価償却費を少なくする融資先」に気づくと、融資を躊躇する原因になることはあるものです。
それよりなにより、銀行はこうも考えています。本来計上すべき減価償却費を計上しないのであれば、それは粉飾(利益の水増し)だ!
粉飾は、銀行がもっとも忌み嫌うものでもありますから、社長はじゅうぶんに気をつけなければいけません。「黒字にしたいから減価償却をしなかった」というのは、まさに粉飾です。
これを聞いて、「減価償却はするもしないも自由ではなかったのか?」と、おもわれるかもしれません。たしかに、税金計算のルールでは自由です。ところが、いわゆる「企業会計」のルールは違います。自由ではなく、必須です。
そもそも「企業会計」は、会社の利害関係者に対して、正しい業績を示すことが目的であり、銀行が求めているのが「企業会計にもとづく決算書」になります。ゆえに、「減価償却はすべき、減価償却費は必要な額を計上すべき」というのが銀行の考えです。
ここで言う「必要な額」とは、「税法が認める限度額いっぱい」と置き換えることができます。税法では、固定資産の種類ごとに「耐用年数(何年で減価償却するか)」を定めていて、その耐用年数にもとづく減価償却の金額が、税法が認める限度額です。
銀行は、その限度額いっぱいまで減価償却すべきと考えています。この点で、銀行が決算書を見て、減価償却が限度額いっぱいまでされていないとわかれば、減価償却を限度額いっぱいまでした場合の利益に修正したうえで決算書を評価していることを覚えておきましょう。
つまり、「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」は、銀行に対して意味をなさないということです。
さらには、銀行から「ほかにも粉飾をしているのではないか?」と疑われることになります。減価償却のほかにも、利益を水増ししているかもしれないということです。結果、決算書をより厳しく評価されることにもなり、融資が受けにくくなるのはデメリットです。
社長が業績をつかめなくなる
ここまで、2つのデメリットについて話をしました。税金負担が大きくなるというデメリット、銀行融資に問題が生じるというデメリットの2つです。
これらに加えて、もっとも大きいデメリットとも言えるのが、「社長が業績をつかめなくなる」というデメリットです。
さきほど、企業会計は正しい業績を示すことが目的だという話をしました。社長もまた、正しい業績を知るべき者の1人です。ところが、「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」であればどうでしょう?
言うまでもなく、社長は「正しい業績を知る」ことができなくなってしまいます。正しい業績がわからなければ、社長は経営判断を間違えてしまうかもしれません。大きなデメリットです。
また、「減価償却しない・減価償却費を少なくする」ことの影響は、1回の決算にとどまらず、減価償却をしおえるまでのあいだ続きます。減価償却によって、固定資産の金額も変わるからです。
減価償却をすれば、その分だけ固定資産の金額は減っていきますが、減価償却をしなければ、固定資産の金額はそのままとなります。本来減るはずの金額が減らないということは、「資産の過大計上」です。
したがって、減価償却をしおえるまでのあいだ、決算書は「資産の過大計上」を続けることになります。これにより、社長が「正しい業績を見誤る」のも問題です。
社長にとって決算書は、自社の業績を「可視化」できる大事なツールの1つだと言えます。その決算書がアテにならないというのでは、社長も困ってしまうでしょう。もちろん、だからと言って、正しい業績用の決算書も別につくる(二重帳簿)のは本末転倒です。
さらに言えば、減価償却の影響は「試算表」にも及びます。決算書も試算表もアテにできないのでは、社長がアテにできる「数字」はもはやありません。たとえるのであれば、燃料計が壊れたクルマを運転しているに等しい行為です。
そんなクルマ、不安で運転ができませんよね。というわけで、「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」のデメリットを理解しておきましょう。
まとめ
「黒字にしたい!」との思いがある社長が、いちどは考えるのが「減価償却しないで黒字、減価償却費を少なくして黒字」です。
たしかに選択肢の1つではありますが、けして小さくはないデメリットが3つもあるのですから、安易に選択することがないよう、じゅうぶんに気をつけましょう。
- 税金負担が多くなる
- 銀行融資に問題が生じる
- 社長が業績をつかめなくなる