多くの会社で利用されるようになったクラウド会計。そのメリットとはうらはらに、クラウド会計の利用が銀行融資に悪影響を及ぼすこともあります。その理由を押さえておきましょう。
クラウド会計の利用が銀行融資に及ぼす影響
いまでは、多くの会社が「会計ソフト」を使って経理をしています。なかでもとりわけ、利用割合が大きくなっているのが「クラウド会計(freee、マネーフォワード)」です。
クラウド会計によって、簿記がわからない人でも経理ができたり、各種データを手軽に取り込めることで、より効率的に経理ができるようになりました。というのは、クラウド会計のメリットです。
が、いっぽうで、クラウド会計を利用する会社は、銀行融資に及ぼす影響を理解しておいたほうがよいでしょう。端的に言えば、銀行融資が受けにくくなる可能性がある、ということです。
実際に、ある銀行員の方は「クラウド会計で作られた決算書は、いっそう注意深く確認している」と言っていました。ですから、「そういう見方」をされているかもしれない、との理解は必要です。
ではなぜ、クラウド会計の利用が銀行融資に悪影響を及ぼすのか? その理由は、次のとおりです↓
- 経理ができているつもりになる
- 税理士の関与度合が弱くなる
- 銀行側に偏見が生じている
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
クラウド会計の利用が銀行融資に悪影響を及ぼす理由
経理ができているつもりになる
冒頭でも触れたとおり、クラウド会計は「簿記がわからない人でも経理ができる」というメリットがあります。「AIによる自動仕訳!」といったフレコミを目にしたこともあるでしょう。
ですが、ほんとうに経理ができているのか? というと、必ずしもそうとは言い切れません。必要なデータを取り込めていなかったり、取り込みかたを誤っていたり、仕訳の設定が不十分であれば、経理の結果は「不正確」なものになってしまいます。
というのは、クラウド会計の注意点としても広く言われていることであり、銀行もまた、当然に理解しているのです。なので、クラウド会計を利用して作られた決算書を見つけると、その正確性を警戒する銀行員もいるのだと言われます。
ちなみに、決算書の「様式(フォントや罫線など)」は、会計ソフトによって異なりますから、見る人が見れば、どの会計ソフトで作られたのかはわかるものです。
では、銀行員が決算書の正確性を検証するにあたって、どこを見るのか? というと。まずは、預金残高です。わかっている人からすると「信じがたい」ことかもしれませんが、クラウド会計の決算書は、意外にも「預金残高が実際とは違っている」ことがあります。
預金取引のデータをクラウド会計に取り込む際、仕訳を間違えてしまうと、カンタンに残高はズレてしまうのです。それでも残高をチェックして、間違いに気づけばよいのですが、それができていない決算書があります。
データを取り込んだのだから、合っているにちがいない。仕訳の設定をしているのだから合っているだろう、といった思い込みが、クラウド会計ではより強くなるようです。
同じような思い込みや、チェック不足から、売掛金や買掛金の残高がおかしなことになっていたり、借入金の残高が実際とは違っていたり… わたし自身も、そういった決算書をなんども目にしています。
結果として、その会社の「正しい財務状況」はわからなくなるため、そもそも融資審査ができない… ということにもなりかねません。
ですから、クラウド会計を使って、会社内部で経理をする場合には、経理の結果をチェックできる「しくみ」を整えることが大切です。よくわからないということであれば、税理士に教えてもらいながらもよいでしょう。
なんにせよ、経理ができているつもりにならないように、気をつけなければいけません。
税理士の関与度合が弱くなる
クラウド会計を使って、経理が不正確になるというけれど。うちの会社には、顧問税理士がいるからだいじょうぶ。そう思われるかもしれません。
ですが、顧問税理士がいる会社でも、前述したような「不正確な決算書」がゼロではありません。クラウド会計に限らず、不正確な決算書はありえますが、クラウド会計のほうが不正確になりやすい「要素」はあるものと考えています。
たとえば、経理処理は会社内部でおこない、その結果を、顧問税理士がチェックするというケース。税理士側では、取引(仕訳)の1つ1つまでは見ていないことがあります。
これに対して、顧問税理士が経理処理をまるごと請け負い、税理士側が経理処理をしている(仕訳をしている)ケースでは、おのずと1つ1つの取引を見ることになるでしょう。
つまり、クラウド会計を使って、会社内部で経理処理をする場合には、結果として、税理士の関与度合が弱くなることはありえます(注・絶対にそうなるわけではありません)。
また、クラウド会計を使い、自社内で経理をしている会社は、税理士との契約が「年1回・決算のみ」というケースも少なくありません。つまり、毎月チェックをしてもらうのではなく、決算のときに1年分まとめてチェックをしてもらうカタチです。
もちろん、年1回・決算のみの契約自体が悪いわけではありませんが。自社内での経理処理が遅れた結果、税理士側の時間が不足して、チェックが甘くなる可能性はあるでしょう。なので、せっかくの自社内経理が、アダになるケースもあるわけです。
さらには、クラウド会計を使って経理を完結させ、顧問税理士がいない会社もあります。申告まですべて、自社でおこなうケースであり、個人事業主には比較的よく見られるケースです。
ところが、顧問税理士がいる場合に比べると、決算書・申告書に誤りが見られることが少なくないようにおもいます(経験にもとづく、私見です)。銀行もまた、顧問税理士の署名がない申告書を警戒している、というのは有名な話です。
したがって、顧問税理士との関与度合が弱くなることは、クラウド会計の注意点の1つであり、銀行の見方にも注意を要するものと考えておきましょう。
銀行側に偏見が生じている
ここまで、「経理ができているつもりになる」「税理士の関与度合が弱くなる」という話をしてきました。とはいえ、クラウド会計を利用すると、絶対にそうなるわけではありません。
きちんと経理ができていることだってあるし、税理士の関与度合が強いことだってあります。ただし、銀行側にはそれとは違った見方、いうなれば「偏見」があることは理解しておきましょう。
つまり、「クラウド会計を利用している=決算書に誤りがあるかも」という偏見です。だからといって、クラウド会計の利用をやめる必要はありません。銀行対応によって、銀行の偏見をあらためてもらうように働きかけましょう。
たとえば、試算表を定期的に提出する、という銀行対応が挙げられます。年に1回、決算書だけを提出されるよりも、試算表もあったほうが、銀行は決算書を検証しやすくなるものです。
そこで、事前に試算表を提示し続けることで、試算表を通じて、経理処理の正確性をアピールできるとよいでしょう。もちろん、試算表が不正確であれば逆効果ですから、きちんとチェックをできる「しくみ」を整えることが大切です。
その「しくみ」については、折を見て、銀行に説明をするのもよいでしょう。経理処理の流れを、銀行に説明するということです。これにより、銀行は「経理がわかる会社(社長)、経理ができる会社(社長)」だとのイメージを持つようになります。
また、税理士の関与度合についても、あわせて説明をするのがおすすめです。たとえば、毎月必ず、試算表を確認してもらっているとか、経理処理における会社と税理士の役割分担の状況など。
前述したように、クラウド会計は税理士の関与度合が弱くなりがちな面があるため、銀行としては、税理士の関与度合がわかれば安心できることでしょう。
まとめ
多くの会社で利用されるようになったクラウド会計。そのメリットとはうらはらに、クラウド会計の利用が銀行融資に悪影響を及ぼすこともあります。その理由を押さえておきましょう。
もちろん、クラウド会計そのものが悪い、クラウド会計を利用しないほうがよい、というハナシではありません。銀行の見方を理解して、適切な銀行対応ができるのであれば、クラウド会計は大いに利用すればよいのです。