事業性評価によれば、決算書(業績)が悪くても融資を受けられる。と考えるのであれば、それは「事業性評価の偏重」というものです。やはり決算書は良いに限る、そんなお話をしていきます。
決算書が悪くてもいいのか?
会社で銀行融資を受けている社長であれば、「事業性評価」という言葉をいちどは聞いたことがあるのではないでしょうか。
事業性評価とは、「決算書(業績)の良し悪しや、担保・保証の有無に依存せず、事業の内容や将来性を評価しよう」という考え方です。ここ数年にわたり、金融庁が銀行に推し求めている考え方でもあります。
ゆえに、銀行は取り組まざるをえない状況であり、最近ではとくに、積極的に取り組む銀行も増えました。取り組みの実績は、金融庁に報告しなければならないものでもあるからです。
これを聞いて、「だったら、決算書(業績)が悪くても融資が受けやすくなるのではないか?」と考える社長がいます。
たしかに、決算書が悪い会社でも、融資を受けられるチャンスは増えるでしょう。ですが、「決算書が悪くても」というのであれば、それは「事業性評価の偏重」というものです。
いくら事業性評価と言えども、「決算書が良いほど融資を受けやすい」のは、いままでとなんら変わりがないことは理解しておかなければいけません。
事業性評価にあたり、会社は銀行に「事業の内容や将来性」に関する情報を提供する必要があります。ですが、決算書が悪ければ、その「事業の内容や将来性」に対して、銀行が疑念を抱くのは当然でしょう。
つまり、決算書が悪ければ、「事業の内容や将来性」にも説得力が出ない、ということです。だとすれば、会社が事業性評価の恩恵を受けるためにも、「決算書は良いに限る」ということになります。
そもそも、事業性評価とは「決算書の良し悪しや、担保・保証の有無に依存せず」としか言っていません。あくまで「依存しない」だけであり、「考慮しない」わけではないのです。
そこで、あらためて「決算書が良い」とはどういうことなのか? について、確認をしておきましょう。具体的には次のとおりです↓
- 簡易キャッシュフロー > 0
- 債務償還年数 < 10
- 資産 > 負債
- 現金預金 > 平均月商の2ヶ月分
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
決算書が良いとはどういうことか?
簡易キャッシュフロー > 0
簡易キャッシュフローとは、言い換えると「税引後利益 + 減価償却費」です。その簡易キャッシュフローを銀行は「返済原資」と見ています。
もし、返済原資が「ゼロ以下」となれば、1円も返済できないことを意味しますから、銀行は融資ができません。よって、「最低でもゼロより大きい(1円以上)」というのが、簡易キャッシュフローに対する銀行の見方になります。
もちろん、これは「簡易キャッシュフローが1円でもOK」というハナシではありません。簡易キャッシュフローは大きければ大きいほど良い決算書、というのが正しい理解です。
結論、簡易キャッシュフローがすべてだ、と言っても過言ではありません。
簡易キャッシュフローを増やすことができれば、このあとお話をする項目もすべて「改善」の方向にむかいます。逆に、簡易キャッシュフローが減るようだと、すべては「改悪」の方向にむかうことを覚えておきましょう。
簡易キャッシュフローのキモは、「税引後利益」です。税引後利益を増やすためには、税引前の利益を増やすことです。このとき、「税金が増える」のを嫌って、出せる利益を出し惜しみする社長がいます。
税金を減らすのも1つの考え方ですが、やりすぎれば、決算書が悪くなり、事業の内容や将来性までもが悪く見られかねません。「出せる利益はきちんと出す」のは、銀行融資・銀行対応における基本戦略であり、財務の安全性を高める手段でもあります。
ちなみに、簡易キャッシュフローで「+ 減価償却費」としているのはなぜなのか? 気になる方は、こちらの記事も参考にどうぞ↓
債務償還年数 < 10
債務償還年数とは、算式で言うと「借入金残高 ÷ 簡易キャッシュフロー」になります。
つまり、簡易キャッシュフローを返済原資と見たときに、いまある借入金を何年で返すことができるか? というのが、債務償還年数です。
その債務償還年数は「10年未満であるべし」が、銀行の見方になります。10年以上になるようだと「すでに貸しすぎ」であり、銀行は融資を躊躇するところです。
もちろん、債務償還年数が「10年未満でありさえすればよい」というわけではありません。債務償還年数は短ければ短いほど良い決算書、というのが正しい理解です。
ところで、さきほど「簡易キャッシュフローがすべてだ」と言いました。債務償還年数の算式を見ればわかるとおり、簡易キャッシュフローが大きければ大きいほど、債務償還年数は短くなります。
やはり、簡易キャッシュフローは大事だし、利益を出すことが大事なのだということです。
なお、債務償還年数の計算をするときには、「(借入金残高 ー 現金預金) ÷ 簡易キャッシュフロー」としたり、「(借入金残高 ー 現金預金 ー 経常運転資金) ÷ 簡易キャッシュフロー」とする場合もあります。
その意味については、こちらの記事も参考にどうぞ↓
資産 > 負債
貸借対照表の「資産の部」の合計額が、「負債の部」の合計額よりも大きいかどうかです。もうおわかりのこととおもいますが、資産のほうが大きければ大きいほど、良い決算書だと言えます。
これを見て、簡易キャッシュフローと関係があるのか? とおもわれるかもしれません。貸借対照表のしくみを考えれば、大いに関係があることが理解できます。
貸借対照表の構成は、「資産 = 負債 + 純資産」です。このうち、「負債 + 純資産」は「資金の調達」であり、「資産」は「調達した資金の運用」をあらわします。
よって、「資金の調達額 = 資金の運用額」であり、「資産 = 負債 + 純資産」ということがわかるでしょう。では、「純資産」とは何なのか?
端的に言うと、「資本金 + 利益剰余金」です。資本金とは株主からの「出資」であり、「利益剰余金」とは過去の税引後利益の累計額になります。
だとすれば、「簡易キャッシュフローが増える → 利益剰余金が増える → 純資産が増える」ということがわかるはずです。純資産が増えれば、資産が増えることにつながります。「資産 = 負債 + 純資産」 だからです。
したがって、ここでも「簡易キャッシュフローが大事なんだ」と繋がります。
現金預金 > 平均月商の2ヶ月分
さいごにもうひとつ、良い決算書として「現金預金」が多いことが挙げられます。
現金預金があれば、たとえ赤字になったとしても耐えられる可能性が高まるからです。また、現金預金があれば、会社は必要なときに必要な投資をすることもできるでしょう。
ですから、現金預金が多い決算書ほど、会社は「持続・成長」の可能性が高く、良い決算書だと言えます。また、「現金預金が多ければ、返済が滞ることがないので安心だ」というのが銀行の見方でもあります。
では、銀行融資にあたり、具体的にどれくらいの現金預金があればよいのか? ずばり、「平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の2ヶ月分」です。これより多いことが、良い決算書の目安になります。
この点で、現金預金が平均月商の1ヶ月よりも少なくなると、融資は極端に受けにくくなることは覚えておきましょう。よって、現金預金が少なくなる前に、融資を受けておくことが大切です。
なお、簡易キャッシュフローが増えれば、手元に残る現金預金も増えますから、やはり簡易キャッシュフローを増やすことが大事なんだというのは、これまでのお話といっしょです。
まとめ
事業性評価によれば、決算書(業績)が悪くても融資を受けられる。と考えるのであれば、それは「事業性評価の偏重」というものです。やはり決算書は良いに限る、そんなお話をしてきました。
では、決算書が良いとは具体的にどういうことなのか? あらためて確認をしたうえで、良い決算書を目指しましょう。
- 簡易キャッシュフロー > 0
- 債務償還年数 < 10
- 資産 > 負債
- 現金預金 > 平均月商の2ヶ月分