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役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない!のか?

役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない!のか?

「役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない」というハナシがあります。「たしかにそのとおり」と言える一面もあれば、「実は評価が下がる」という一面もある。という、お話です。

目次

ものごとには2つの面がある。

銀行から融資を受ける会社の社長は、銀行からの評価を気にしなけれいけません。言うまでもなく、評価が下がれば、融資は受けにくくなるからです。

その評価の「対象」として、「決算書」が挙げられます。端的に言えば、利益が多いほど評価は高くなり、逆に、利益が少ないほど評価は低くなる。というのは、多くの社長が知っていることでしょう。

これに関連して、「役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない」とのハナシがあります。

でも、利益が減ったら評価は下がるのではないか? と、おもわれるかもしれません。ですが、たしかに「評価は下がらない」という一面があります。いっぽうで、「実は、評価が下がる」という一面もあるので注意が必要です。

このあと、くわしく説明をしていきます。そのうえで、社長が役員報酬を増やすのであれば、どのような銀行対応をするとよいのか? についてもお話しますので確認していきましょう。

役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない理由

役員報酬として、社長自身の役員報酬(給与)をイメージしてみましょう。中小企業では、「社長 = 大株主」であることがほとんどです。

すると、社長自身の役員報酬は、社長が好きなように決めることができます。増やすのも自由、減らすのも自由です。結果として、社長の役員報酬は「利益の調整弁」として利用されます。

利益が出ているときに役員報酬を増やせば、利益が減るので、法人税を抑えることができる。逆に、利益が出ていないときには役員報酬を減らせば、利益が増えるので、銀行などに対する「見栄え」をよくすることができる、といった具合です。

このような「実情」を、銀行は当然わかっています。つまり、役員報酬の増減によって、利益が調整されていることを、銀行はわかっているのです。

そこで銀行は、「利益 + 役員報酬」という見方をしています。役員報酬をマイナスする前の利益を計算することで、役員報酬による利益調整の影響を排除するわけです。

そのうえで、過去から現在までの「利益 + 役員報酬」を比較してみれば、その会社の「ほんとうの利益」の推移を知ることができます。

たとえば、前年の決算書では「利益 300、役員報酬 500」、今年の決算書では「利益 200、役員報酬 1,000」だとしたら。利益で比べると「300 → 200」なので、銀行の評価は下がるようにおもえまえす。

ですが、前述したとおり、銀行は「利益 + 役員報酬」という見方もしていますから、前年は「利益 300 + 役員報酬 500 = 800」に対して、今年は、「利益 200 + 役員報酬 1,000 = 1,200」です。

なので、「800 → 1,200」となりますから、「この会社は好調だ!」という評価ができるでしょう。今年の役員報酬が前年と同じ 500であれば、利益は 700も出ていた、ということでもあります。

以上から、「役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない」というハナシになるわけです。

実は、評価が下がる理由

ところが、「役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない」というハナシには注意点があります。評価が下がらないのは「一面」に過ぎず、また別の「一面」もあるからです。

さきほどまでは「利益 + 役員報酬」に注目をしてきました。いうなれば、「損益計算書」の内容です。決算書には、「貸借対照表」もあります。役員報酬を増やすと、貸借対照表はどうなるのでしょうか?

まず、「現金預金」が減ります。役員報酬を増やせば、その分だけ、会社からおカネが出ていくということです。銀行は、現金預金の残高にも注目していることを覚えておきましょう。

言わずもがな、現金預金がなくなれば、銀行は返済してもらえなくなるからです。よって、現金預金の残高が少なくなると、銀行は融資しづらくなります。目安は「平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の1ヶ月分」です。これより少なくなると、融資が極端に受けづらくなります。

融資をスムーズに受けるためには、「平均月商の2ヶ月分以上」の現金預金が目安です。役員報酬を増やすのもよいですが、利益ばかりではなく、資金繰りにも目を向けるようにしましょう。

利益と資金繰りとは、必ずしもリンクしていません。利益が出ているからおカネもあるかというと、そうとは言い切れないということです。「黒字倒産」の言葉もあります。利益と資金繰りは別モノ、と考えておきましょう。

また、役員報酬を増やすと、その分だけ、貸借対照表の「利益剰余金」が減少します。利益剰余金は、純資産(自己資本)を構成する勘定科目であり、純資産の増減に影響する勘定科目です。

銀行は「純資産がじゅうぶんか?」に注目しています。純資産が不十分となり、マイナスになる状態が「債務超過」です。これは「資産 < 負債」の状態でもあり、銀行は「これ以上の融資はできない」と判断します。

その「利益剰余金」は、過去の利益の累積額です。なので、利益を出した分だけ利益剰余金は増えるし、利益を抑えた分だけ利益剰余金は減ります。

ということは、役員報酬を増やして利益が減れば、利益剰余金は減る。自己資本は減って、債務超過に近づく(あるいは、債務超過になってしまう)ことになります。したがって、役員報酬を増やすことには、評価が下がる一面もあるのです。

それなら社長がとるべき銀行対応は?

役員報酬を増やすことで、銀行の評価が下がるのであれば、役員報酬を増やせないじゃないか? と、おもわれたかもしれません。

ですが、社長の銀行対応によって、評価が下がるのを防ぐことはできます。ずばり、社長個人の資産について、銀行へ情報開示することです。

中小企業の多くは、「社長 = 大株主」だという話をしました。ゆえに、銀行は「社長 = 会社」と見ています。もう少し言うと、「社長の資産 = 会社の資産」です。

実際に、会社がピンチになれば、社長は個人の資産を投じてでも、会社を守ろうとするものでしょう。だとすれば、社長個人の資産があれば、会社も安全だと言えます。

ですから、銀行は「社長個人の資産」も評価の対象にしていることを覚えておきましょう。

役員報酬を増やすことで、会社の現金預金は減りますが、その分だけ社長個人の現金預金は増えます。これを「社長の資産 = 会社の資産」と見れば、実質的には現金預金は減っていない、ということです。

ただし、役員報酬として受け取った現金預金を、社長が使い果たしているようだと、銀行も評価することができません。なので、「たしかに現金預金がある」という情報を、銀行に伝えるようにしましょう。

具体的には、社長個人の資産(現金預金、有価証券、不動産など)を「一覧」にして、銀行に渡すことです。銀行は、自行の口座であれば把握できますが、他行の口座や預金以外の資産となると把握できないものもあります。

把握できなければ、評価してもらうことはできません。結果、評価が下がってしまうことがないように、社長がみずから積極的に、個人資産の情報を提供することを検討してみましょう。

まとめ

「役員報酬を増やして利益が減っても、銀行の評価は下がらない」というハナシがあります。

「たしかにそのとおり」と言える一面もあれば、「実は評価が下がる」という一面もある。という、お話をしてきました。

それぞれの理由を理解したうえで、社長が役員報酬を増やすのであれば、「どのような銀行対応をするとよいのか?」についても押さえておきましょう。銀行からの評価を下げずに済むはずです。

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