財務に関する用語の1つに「経常運転資金」があります。社長は、その経常運転資金がわからないと困る! と言える、3つの理由についてのお話です。
経常運転資金ってなんだっけ?
会社の財務(決算書や試算表)に関する考え方の1つに、「経常運転資金」があります。経常運転資金とは、算式であらわすと次のとおりです↓
経常運転資金 = 売上債権(売掛金・受取手形)+ 棚卸資産(在庫)ー 仕入債務(買掛金・支払手形)
この経常運転資金について、社長がわかっていないと困る3つの理由があります。言い換えると、社長は経常運転資金について、3つのことを理解しておきましょう、ということです。
具体的には、
- ないと困るおカネだから
- 不良が混じっているかも…だから
- 利益で返さなくていいおカネだから
これらを見て、「なんのこっちゃ?」というのであれば、このあとのお話をぜひ確認しておきましょう。それでは、3つの理由を順番に解説していきます。
社長は経常運転資金がわからないと困る!3つの理由
ないと困るおカネだから
まずは、経常運転資金の「意味」を確認しておきましょう。経常運転資金の算式を再掲します↓
このうち、「売上債権(売掛金・受取手形)」とは、売上代金の未回収分であり、「おカネになるのを待っている金額」にあたります。
棚卸資産(在庫)は、仕入れた商品の未販売分であり、売上債権と同じく「入金を待っている金額」です。
したがって、社長は「入金を待っている金額(売上債権 + 棚卸資産)」分のおカネを、別途用意しておかなければなりません。
なぜなら、入金を待っているあいだにも、社員のお給料を支払ったり、家賃を支払ったりしなければいけないからです。
では、算式の後半にある「仕入債務(買掛金・支払手形)」は? というと。仕入代金の未払い分であり、「支払を待ってもらっている金額」にあたります。前述の売上債権とは逆です。
なので、「入金を待っている金額(売上債権 + 棚卸資産)」と「支払を待ってもらっている金額(仕入債務)」とを相殺する意味合いで、「売上債権 + 棚卸資産」から「仕入債務」をマイナスしています。
結果として、「経常運転資金(売上債権 + 棚卸資産 ー 仕入債務)」分のおカネを用意する必要があり、用意できなければ、資金繰りで困ったことになる… ということです。
では、社長は経常運転資金分のおカネを、どのように用意すればよいのか?
ひとつは、自己資金のなかから貯めること。自己資金とは、「資本金(出資)」あるいは「利益」です。とはいえ、自己資金で貯めるのもカンタンではありません。
そこで、もうひとつの方法が「銀行融資」です。銀行からは、「経常運転資金分の借入」という資金使途(おカネを借りる理由)で、融資を受けることができます。
経常運転資金分のおカネを、自己資金で用意できていないのに、銀行融資を受けることもなく、資金繰りが危険な状態の会社はあるものです。こういう会社はむしろ、「借りなさすぎ」と言えます。
不良が混じっているかも…だから
繰り返しになりますが、経常運転資金とは「売上債権 + 棚卸資産 ー 仕入債務」です。このうち、社長がとくに気をつけたいのは、売上債権と棚卸資産になります。
なぜなら、売上債権のなかには「不良債権」が、棚卸資産のなかには「不良在庫」が混じっているかもしれないからです。
ちなみに、不良債権とは「代金が回収できない・回収が困難な、売掛金や受取手形」であり、不良在庫とは「販売ができない・販売が困難な在庫」をあらわします。
この点、決算書に記載された売上債権や棚卸資産の「数字だけ」を見ていたのでは、不良債権や不良在庫の有無はわかりません。社長は、「数字のなかみ」まで見る必要があります。
つまり、決算書の数字のなかに、どれだけ不良債権や不良在庫が含まれているのか? ということです。
これを社長が見逃していると、のちのち困ったことになります。言うまでもありませんが、「入金を待っている金額」だったものが、入金されないということになるからです。当然、資金繰りは悪化します。
ゆえに、銀行は売上債権や棚卸資産の「なかみ」に注目していることを覚えておきましょう。前述した「経常運転資金分の借入」をしようとしたときには、その「なかみ」を確認されます。
たとえば、今回の決算書に記載されている売掛金の金額が、「前回の決算書の金額よりもだいぶ多い(しかも、売上が増えたわけではない)」となると、銀行は「不良債権が混じっているのではないか?」と疑うわけです。
その疑いが晴れるまでは、経常運転資金分の借入をすることはできません。棚卸資産についても同じです。不良在庫の疑いがあれば、借入はできなくなってしまいます。
ですから、社長は常に経常運転資金の「なかみ(とくに売上債権・棚卸資産)」を精査し、不良債権や不良在庫の解消につとめることが大切です。
不良債権や不良在庫があるうえに、銀行からも借入できないとなれば、資金繰りの危機は目に見えています。
決算書や試算表ができたら、社長は「過去の数字と比較をする」ことで、経常運転資金のなかみに異常がないかを確認する。問題があれば解消につとめつつ、銀行にもきちんと説明できるようにしましょう。
利益で返さなくていいおカネだから
さきほど、「経常運転資金分の借入」をしましょう、という話をしました。では、たとえば、経常運転資金分の借入として、1,000万円を銀行から借りているとします。
これとは別に、設備資金(設備投資のためのおカネ)として、2,000万円も借り入れしているとしたら、この会社の借入金総額は 3,000万円です。
ここで社長が、「3,000万円の利益を出して返さなければいけない…」と考えるのであれば違います。なぜなら、3,000万円のうち 1,000万円は利益がなくても返済できるからです。
たしかに、「借入の返済原資は利益」だと言われますし、事実です。利益がなければ返済できない借入があります。それは、設備資金として借りたおカネです。
ところが、経常運転資金分として借りたおカネは、利益がなくても返済できます。その理由は、経常運転資金の算式を思い出してみればわかるはずです。
経常運転資金のなかには、売上債権や棚卸資産が含まれていました。それらは、入金を待っている金額であり、いずれおカネになります。ということは、そのおカネで返済をすればよいわけです。
銀行もそれをわかっているから、経常運転資金分のおカネについては、積極的に融資をします。銀行から見れば、経常運転資金分の融資は「取りっぱぐれ(回収不能)」が少ないのです。
話を戻して、社長は「経常運転資金分の借入は、利益がなくても返済できる」ということを理解しておきましょう。これがわからずに、借入金の総額だけを見ていると、借入金を過大に見誤ることになります。
経常運転資金分の借入金は、ないのと同じです。ただし、不良債権や不良在庫があるとなると、その分の借入金は利益がなければ返済できなくなります。やはり、不良債権や不良在庫には気をつけましょう、ということです。
まとめ
財務に関する用語の1つに「経常運転資金」があります。社長は、その経常運転資金がわからないと困る! と言える、3つの理由についてお話をしてきました。
いずれも、わからずにいると資金繰りに支障をきたすものですから、漏らさず理解しておくようにしましょう。
- ないと困るおカネだから
- 不良が混じっているかも…だから
- 利益で返さなくていいおカネだから