経常利益を見ている社長でも、経常収支は見ていない社長がいます。経常利益はOKでも、経常収支に問題が生じているケースがあるので気をつけましょう、というお話です。
経常収支のことは知らない社長
社長にとって、「経常利益」は見るべき数字の1つです。経常利益とは、文字どおり、経常的な利益であり、その会社が「持続的・継続的に稼ぐチカラ」をあらわしています。
では、経常利益がプラスであればOKなのか? 経常利益が大きければOKなのか? といえば。必ずしも、そうとは言い切れません。なぜなら、「経常収支」に問題が生じているケースがあるからです。
とはいえ、「はて、経常収支とな?」という社長もいることでしょう。経常利益のことは知っていても、経常収支のことは知らない… という社長は少なくないのです。
そこでこのあと、経常収支について次のようなお話をしていきます↓
- 経常収支は資金繰りをあらわす
- 社長が経常収支を見るべき理由
- 銀行が経常収支を見ている理由
それでは、順番に確認していきましょう。
経常収支は資金繰りをあらわす
まずは、「そもそも経常収支とは?」について、確認しましょう。経常収支を算式であらわすと次のとおりです↓
算式中の「売上債権」とは、売掛金や受取手形のこと。「棚卸資産」とは、商品や製品、原材料など、いわゆる在庫のこと。「仕入債務」とは、買掛金や支払手形のことです。
なお、「増加額」について、増加ではなく減少している場合には、手前にある「加減算」の記号が逆転します。たとえば、売上債権が 100万円増加していれば「経常利益 ー 100万円」ですが、売上債権が 100万円減少していれば「経常利益 + 100万円」といった具合です。
では、この経常収支がなにをあらわしているのか? もうおわかりのこととおもいますが、「資金繰り」です。経常利益を起点に、資金繰りの状況を計算しています。
まずは、「経常利益分のおカネが増える」というところから計算スタートです。
売上債権が増加するということは、その分だけ「入金待ちのおカネが増える」ということなので、結果として、手元のおカネは減ります。なので、「経常利益 ー 売上債権増加額」です。
同じように、棚卸資産が増加するということは、その分だけ「入金待ちのおカネが増える」ということなので、やはり手元のおカネは減ります。なので「経常利益 ー 棚卸資産増加額」です。
仕入債務は、売上債権の逆で考えましょう。仕入債務が増加するということは、その分だけ「支払い待ちのおカネが増える」ということなので、手元のおカネは増えます。なので、「経常利益 + 仕入債務増加額」です。
また、減価償却費や引当金増加額(たとえば、貸倒引当金の繰入額)は、おカネの支出をともなわない費用であるため、「利益に足し戻す」という趣旨で、経常利益に加算しています。
以上の計算によって、「一定期間における資金繰り = 一定期間に増えたおカネの額」がわかる。これが、経常収支です。
ちなみに、一定期間とは。決算書で見れば1年、試算表で見ればひと月となります。
たとえば、売上債権増加額を1年で見るのなら、前年決算書に比べて、当年決算書の売上債権がどれだけ増加したのか? ひと月で見るのなら、前月試算表に比べて、当月試算表の売上債権がどれだけ増加したのか? です。
社長が経常収支を見るべき理由
経常収支は「資金繰り」をあらわしている、というお話をしました。だとすれば、社長が経常収支を見るべき理由は、もはや言うまでもないでしょう。
資金繰りは、会社にとっての生命線だからです。資金繰りが悪くなる、つまり、手元のおカネ(現金預金)が少なくなり、最終的に足りなくなれば(資金ショート)、会社はつぶれてしまいます。
だから社長は、いつも資金繰りを気にしているはずです。資金繰りが気になりだすと、夜も眠れない… という社長もいるでしょう。
にもかかわらず、経常利益ばかりを見て、経常収支は見ていない… というか、経常収支(の計算方法)を知らない… という社長がいます。これでは、資金繰りの心配は膨らむばかりです。
その心配を解消するためにも、社長は「経常利益と経常収支をセットで見る」ようにしましょう。
経常収支を計算するときの「起点」が経常利益である以上、経常利益がプラスであること、経常利益が大きい額がよいのは大前提です。
そのうえで、経常利益以降の計算(ー 売上債権増加額 ー 棚卸資産増加額 + 仕入債務増加額 + 減価償却費 + 引当金増加額)がポイントになります。
ここからわかることは、「利益と資金繰りは別」だということです。もし、経常利益が1億円であったとしても、経常利益以降の計算によってはマイナスにもなりえます。
ゆえに、世の中には「黒字倒産」というハナシがあり、「勘定合って銭足らず」という警句が存在するのです。もちろん、経常収支の「額」を見るだけでおわっては意味がありません。
経常利益に対して、経常収支が少ないようであれば、「資金繰りが悪くなっている原因」をつきとめましょう。原因は、経常利益以降の計算を見ればわかるはずです。
気をつけたいのは、おもに次のようなことになります↓
- 売上債権のなかに、回収できない債権(不良債権)が増えている
- 売上債権の回収条件が悪くなっている(回収が遅い)
- 棚卸資産のなかに、販売できない在庫(不良在庫)が増えている
- 棚卸資産のなかに、価値が下がっている在庫(不良在庫)が増えている
- 仕入債務の支払条件が悪くなっている(支払が早い)
社長は、こういった状況をできるだけ早く察知して、改善につとめるようにしましょう。経常収支の計算は、その「きっかけ」になります。
銀行が経常収支を見ている理由
社長は、「経常利益と経常収支をセットで見ましょう」という話をしました。これに関連して、銀行もまた、経常利益と経常収支をセットで見ています。と言ったら、驚くでしょうか?
ですが、経常収支が「資金繰りをあらわしている」のだとすれば、けして驚くような話ではありません。おカネを貸している銀行にとって、融資先の資金繰りは最大の関心事だからです。
繰り返しになりますが、もし、経常利益が1億円であったとしても、経常収支がマイナスということはありえます。すると、銀行は貸したおカネを回収しそびれてしまうかもしれず。だったら早く回収しないと! だったら貸せない! となるのは当然です。
なので、銀行融資を必要とする会社の社長は、「銀行の目」も意識して、経常収支を確認しておく必要があります。
なお、銀行の見方は「過去との比較」です。つまり、現時点だけを見るのではなく、過去の経常利益、過去の経常収支と比較をする、という見方をしています。
もう少し具体的に言うと、「経常利益 > 経常収支」の状況が継続していないか? です。もし、そのような状況が、3年も5年も続いてた場合に銀行はなにを考えるか?
粉飾決算(利益の水増し)です。さきほどの経常収支の算式を思い出してみましょう。粉飾決算をしようとする会社は、架空売上を計上したり、架空在庫を計上するのが王道です。すると、売上債権や棚卸資産が増加しますから、経常利益に対して経常収支は少なくなります。
その結果が、「経常利益 > 経常収支」としてあらわれるわけです。
1〜2年のあいだくらいであれば、「経常利益 > 経常収支」もありえますが、いくら「利益と資金繰りは別」とはいっても、3〜5年の中長期で見れば「利益と資金繰りは一致」するものです。
利益はウソをつく。だが、キャッシュ(おカネ)はウソをつかない。というのは、古今東西に伝わる財務の格言でもあります。
にもかかわらず、中長期で見てもなお「利益と資金繰りが別」というのであれば、「なんだか怪しいぞ…」と、粉飾決算を疑うのが銀行です。
粉飾決算をしてはいけないのはあたりまえとして、銀行が「経常収支に注目している」ことを社長は理解しておきましょう。銀行融資を受けたいのであれば、銀行の見方を理解しておくのは重要なことです。
まとめ
経常利益を見ている社長でも、経常収支は見ていない社長がいます。経常利益はOKでも、経常収支に問題が生じているケースがあるので気をつけましょう、というお話をしました。
経常収支は銀行も見ている数字であり、銀行融資の受けやすさにも影響するところです。社長は、経常利益と経常収支をセットで見るクセをつけましょう。
- 経常収支は資金繰りをあらわす
- 社長が経常収支を見るべき理由
- 銀行が経常収支を見ている理由