製造業やソフトウェア業の決算書で見られる勘定科目の1つ、仕掛品。その仕掛品が増えたときの財務的な問題点をまとめます。社長にとっては、事業の持続・成長に関わる大事なポイントです。
仕掛品が増えると会社がつぶれる。
社長であれば、財務的な問題に気をつけなければいけません。財務的な問題とは、端的に言えば「おカネの問題」であり、おカネがなくなれば会社はつぶれてしまうからです。
では、その財務的な問題として、「仕掛品(しかかりひん)が増えたとき」に起きる問題を押さえておきましょう。
そもそも「仕掛品」とは、未完成の製品を言います。つまり、製造途中であり、そのままでは販売できない状態の製品をあらわす勘定科目です。製造業やソフトウェア業などの決算書で、しばしば見られます。
では、仕掛品が増えたときの財務的な問題とは? おもには次の3つです↓
- 資金繰りが悪くなる
- 翌期に影響する
- 融資が受けにくくなる
実際に、これらの問題が起きれば、会社はつぶれる可能性が高まります。ゆえに社長は、仕掛品が増えたときの問題点を理解しておきましょう。このあと、順番に確認していきます。
仕掛品が増えたときの財務的な問題点
資金繰りが悪くなる
冒頭、仕掛品とは「未完成の製品」だと言いました。では、仕掛品の金額は何をあらわしているのか? それは、「いままで製造にかかった費用」です。
具体的に言うと、製品をつくるための材料費、製造に関わった人たちの人件費(外注費も含む)、さらには、製造するために必要な諸経費(工場の賃料、光熱費、機械の減価償却費など)といったものが挙げられます。
では、それら「いままで製造にかかった費用」を回収するためにはどうすればよいか? 当然、製品として販売することです。販売してえた「売上代金」によって、かかった費用を回収します。
だとすれば、仕掛品のままでは「マズい」ことがわかるでしょう。仕掛品が増えるということは、それだけ、回収できない費用が増えるということであり、いずれ回収できるにしても、「コスト先行状態」にあるということです。
放っておけば、資金繰りが悪くなってしまいます。仕掛品が増えると、その管理コスト(保管費用、保険料、人件費など)も増えますから、資金繰りはいっそう悪くなるでしょう。
なので、まずは「仕掛品が増えないように管理する」ことが大切です。言い換えると、「仕掛品の状態にある期間を短くする」こと。言うほどカンタンではありませんが、それが大前提です。
そのうえで、仕掛品分のおカネを確保することを考えます。方法としては、銀行からの融資です。仕掛品の金額を目安として、「運転資金」の名目で融資を受けることができます。
ですから、「仕掛品の管理」と「融資による資金手当て」の2点を、社長は怠らないようにしましょう。
翌期に影響する
仕掛品が増えた… という場合、大きく2つの増えかたがあります。1つは「数が増えたケース」、もう1つは「金額が増えたケース」です。
数が増えたケースとは、以前は仕掛品 10個が標準だったのに、いまは 20個になった… というような状況があげられます。これについては、販売できる(売上代金でコスト回収できる)と考えれば、問題はありません。
問題は、金額が増えたケースです。たとえば、材料費が値上がりしたり、昇給による賃金アップがあったり、電気代が高騰したり… 結果として、1つの製品をつくるコストが、以前よりも高くなるような状況が挙げられます。
すると、どうなるか? 売値を上げない限り、利益は以前よりも少なくなってしまいます。たとえば、決算書に「仕掛品 100」とあれば、その 100が費用として計上されるのは、その仕掛品が製品として販売されたとき。通常は、翌期です。
したがって、仕掛品の「金額が増えたケース」の影響は、今期ではなく翌期であることを理解しておかなければいけません。
ただし、売値を上げることができれば、利益を減らさずにすみます。社長は、まだ仕掛品の段階であっても(売る前の段階であっても)、売値を上げられるか? どのように上げるか? を検討しておきましょう。
なぜなら、決算書に仕掛品が掲載された時点で、それは銀行の関心事になるからです。そのあたりを、次の項目で確認していきます。
融資が受けにくくなる
銀行が、融資先の決算書を見たときに、仕掛品の金額が増えている。そのうえで、売値を上げることができないとしたらどうでしょう? 前述したとおり、利益が減りますから、銀行としては融資がしづらくなります。
だから社長は、決算書に仕掛品が掲載された時点で、売値についても検討しておくことが大切なのです。検討した内容は、決算報告のときに銀行へ伝えるようにしましょう。これであれば、銀行も融資をしやすくなるはずです。
なお、銀行は仕掛品について「同業他社比較」もしています。同業他社の標準的な仕掛品に比べて、融資先の仕掛品が多すぎないかどうか? という見方です。
たとえば、標準的な仕掛品が 100のところ、自社の仕掛品が 200や 300だとしたら…? 銀行は、不良在庫や架空在庫を疑います。業績の悪い会社が融資を受けるために、利益を水増ししようと仕掛品を増やすケースがあるからです。
よって社長は、同業他社の標準的な仕掛品を理解し、自社の仕掛品が標準よりもだいぶ多いのであれば、銀行に対して「説明(仕掛品の内容や、仕掛品が多くなる理由など)」をすることが重要になります。
では、どうしたら、同業他社の標準的な仕掛品を知ることができるのか?
棚卸資産回転期間という指標を参考にするとよいでしょう。棚卸資産回転期間とは、算式であらわすと「棚卸資産 ÷(売上高 ÷ 12ヶ月)」です。棚卸資産が売上高の何ヶ月分にあたるか、を意味します。
ちなみに、仕掛品は棚卸資産の1つであり、ほかには、商品や製品、原材料、貯蔵品なども含まれます。
同業他社の在庫回転期間を知るには、中小企業基盤整備機構がWEBで提供している「経営自己診断システム」や、日本政策金融公庫がWEBで公表している「小企業の経営指標調査」などを利用するとよいでしょう。
まとめ
製造業やソフトウェア業の決算書で見られる勘定科目の1つ、仕掛品。その仕掛品が増えたときの財務的な問題点をまとめました。
実際に、問題が起きれば、会社はつぶれる可能性が高まります。ゆえに、事業の持続・成長に関わる大事なポイントとして、社長は「仕掛品が増えたときの問題点」を理解しておきましょう。
- 資金繰りが悪くなる
- 翌期に影響する
- 融資が受けにくくなる