財務指標もあまたありますが。「製造業に特有」かつ「資金繰りに関する」ものを取りあげて、確認をしていきます。
製造業の決算書を読み解くために必要なもの
会社の決算書や試算表を読み解くうえで、参考になるのが財務指標。とはいえ、あまたある財務指標を理解するのもカンタンではありませんが。
本記事では、そんな財務指標のなかから、「製造業に特有」かつ「資金繰りに関する」ものを取りあげてみます。
製造業の経理処理では、特定の「勘定科目」の金額が、他の業種に比べて大きくなる傾向があるため注意が必要です。また、IT化が進んでいるいまだからこそ、気をつけるべき財務指標もあります。
具体的には、以下5つの財務指標です↓
- 仕掛品回転期間
- 固定資産回転率
- 固定長期適合率
- 労働生産性(1人あたり付加価値)
- 労働装備率
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
製造業特有の資金繰りに関する財務指標5選
仕掛品回転期間
まずは、算式であらわすと次のとおりです↓
算式中の「仕掛品」とは、製造の途中であり、未完成の製品を言います。製造業に特有の勘定科目の1つです。いっぽう、算式中の「売上高 ÷ 12ヶ月」は、いわゆる平均月商をあらわしています。
したがって、仕掛品回転期間は「未完成の製品(仕掛品)が、平均月商の何ヶ月分あるか?」を示す財務指標だということです。
この指標は、一時点のみの数字を確認するのではなく、過去の数字と比較をすることが大切です。たとえば、今月の仕掛品回転期間を、前月のそれや、前年同月のそれと比べてみる。
そのうえで、仕掛品回転期間が延びているようなら、製造費用(原材料費や外注費、賃金、光熱費などの経費)が増えている可能性があります。つまり、コスト増加です。
そのコスト増加分を売値に転嫁できないようだと、翌期以降、製品販売時には利益が減少する要因になります。銀行が決算書を見るときには、気にしているポイントです。
さらには、仕掛品を増やして利益を水増し(粉飾決算)する会社もあるため、銀行はそこを疑ってもいます。
ですから、仕掛品回転期間が延びているときには、その「理由」と「コスト増加」への対応について、銀行に説明するようにしましょう。
固定資産回転率
算式であらわすと、次のとおりです↓
算式中の「固定資産」は、さらに対象をしぼって「有形固定資産」とすることもあります。そのうえで、固定資産回転率とは、固定資産の活用度合いをあらわす財務指標です。
固定資産回転率の計算から、「その売上をあげるのに、固定資産(あるいは有形固定資産)が何回転しているか」がわかります。
固定資産回転率が低い場合には、固定資産をうまく活用できていない、言い換えると、過剰投資の疑いアリです。
製造業にあっては、工場や製造機械など、多額の固定資産(設備投資)を必要とするため、その固定資産が有効に活用できているかは、資金繰りを左右する重要なポイントになります。
では、固定資産回転率が高い場合はどうでしょう? 固定資産を有効に活用できている、という見方がひとつ。もうひとつは、設備投資が不足しているという見方です。
設備投資を怠れば、いまはよくても将来の生産性に影響します。そう考えると、固定資産回転率が高すぎるのも問題です。過去からの推移と比較をして、確認するようにしましょう。
銀行は、同業他社の数値と比較もしていますから、あわせて確認しておくのがおすすめです。日本政策金融公庫がWEBで公表している「小企業の経営指標調査」で、同業他社の数値を知ることができます。
固定長期適合率
算式であらわすと、次のとおりです↓
固定長期適合率は、「固定資産の購入原資が、安定的な資金でまかなわれているか」をあらわす指標です。
製造業では、固定資産の金額が大きくなることは前述しました。金額が大きいということは、投資額を回収するのにも時間がかかる、ということです。
なので、もし多額の固定資産を、短期で返済が必要な借入金で購入していたとしたら… 資金繰りがマズいことになりますよね。そこで、固定長期適合率で確認をするわけです。
結論として、固定長期適合率は 100%未満が「必須」になります。逆に、100%超であれば、短期で返済が必要な資金(流動負債)で固定資産を購入しているということです。
ちなみに、固定長期適合率の算式中にある「固定負債」は、1年以内に返済しなくてもよい負債であり、流動負債よりも安定的な資金です。
また、「純資産」のなかみは「資本金」と「利益剰余金」であり、いずれも返済不要の安定的な資金だと言えます。よって、固定資産の金額が「固定負債 + 純資産」でまかなわれているかどうかが、ポイントになるのです。
労働生産性(1人あたり付加価値)
算式であらわすと、次のとおりです↓
労働生産性とは、「投入した労働力(労働者数)に対して、どれだけ効率よく成果をあげられているか」をあらわす財務指標です。
このうち「成果」が「付加価値」にあたるわけですが、おおむね「売上総利益」と考えておけばよいでしょう(いろいろと細かい定義はありますが、ここでは省きます)。
したがって、「労働生産性 = 売上総利益 ÷ 労働者数」ということになります。労働生産性が高いほど、資金繰りがよくなることは言うまでもありません。その逆もまたしかり、です。
では、どうしたら労働生産性を高めることができるのか? 端的に言えば、売上総利益を増やして、労働者数を減らすことです。そのヒントが、昨今のIT化にあります。
IT化が進めば、効率化・省力化によって、売上総利益を増やして、労働者数を減らすことが可能です。労働者を減らすなどと言うと異論がありそうですが、必ずしも解雇を意味するものではありません。
ITには置き換えられない、いわゆる「クリエイティブ」な業務に転用すれば、売上総利益をさらに増やすことができるでしょう。
話を戻すと、労働生産性は「IT化に対する取り組み姿勢」をはかる指標にもなる、ということです。同業他社に比べて労働生産性が低い会社は、IT化が遅れているのかもしれない。
銀行も、そのような見方をしていることを覚えておくとよいでしょう。
なお、同業他社の数値を知りたいのであれば、前述した「小企業の経営指標調査」に加えて、中小企業基盤整備機構が提供しているWEBサービス「経営自己診断システム」もおすすめです。
労働装備率
算式であらわすと、次のとおりです↓
労働装備率とは、イカツイ名称ではありますが。算式を見ると、労働者1人あたりの設備投資額(有形固定資産)をあらわす指標だとわかります。
では、それがいったい何を意味しているのか? 機械化や自動化といった、これまたIT化に対する取り組み姿勢を意味していると言えます。
つまり、労働装備率が高ければ、IT化に積極的であり、労働装備率が低ければ、IT化に消極的だという見方です。
もちろん、すべてがすべてIT化すべきということではありませんが。労働装備率が低ければ、銀行は「業績見込みや資金繰り見込みに不安があって、設備投資ができないのでは?」という見方もしているものです。
なお、前述した「労働生産性」は、次のように置き換えることもできます↓
というわけで、労働生産性を高めるためには、労働装備率を高めるか、設備生産性を高めればよいことがわかります。
ちなみに、設備生産性とは「有形固定資産をどれだけ有効に使えているか」をあらわす指標です。設備生産性を高めるためには、前述した「固定資産回転率」を高めることが役立ちます。
まとめ
財務指標もあまたありますが。「製造業に特有」かつ「資金繰りに関する」ものを取りあげて、確認をしてきました。
本記事で取りあげた5つの財務指標がわかっていれば、製造業の会社の決算書・試算表を、よりいっそう深く読み解くことができるはずです。ぜひ、押さえておきましょう。
- 仕掛品回転期間
- 固定資産回転率
- 固定長期適合率
- 労働生産性(1人あたり付加価値)
- 労働装備率