融資審査で、銀行が預金残高の推移を重視する。というのは、聞いたことがあるかもしれません。が、それはなぜなのか? いろいろと理由があるのでお話をしてみます。
実際、たしかにそのとおり。
銀行から融資を受けている会社の社長であれば、いちどは聞いたことがあるかもしれません。融資審査では、「預金残高が重要だ」というハナシです。
実際、たしかにそのとおりであって、もう少し厳密に言うと「預金残高の推移」が重要になります。銀行は、融資先の「預金残高の推移」も見て、貸すか貸さないかの判断材料にしているのです。
ではなぜ、預金残高の推移を銀行は重視するのか? と聞かれると、いまいち回答に困ってしまう… という社長はいるようです。融資をより受けやすくするためにも押さえておきましょう。こちらです↓
- 返済財源だから
- 銀行が儲かるから
- 粉飾を見抜けるから
それではこのあと、順番に解説していきます。
融資審査で預金残高の推移を銀行が重視する理由
返済財源だから
預金があれば、その預金で借入を返済することができます。なので、「預金=返済財源」であり、預金が多いほど返済可能性が高い、というのが銀行の考え方です。
結果として、預金残高が多い会社は融資が受けやすく、預金残高が少ない会社は融資が受けにくくなります。とはいえ、預金残高は「常に変動」するものなので、一時点の瞬間的な残高はアテになりません。
そこで、預金残高の「推移」を見ることになります。毎日の預金残高を並べてみたときに、いちばん残高が低くなるのはどのような時期か(毎月25日ごろ?毎月初め?)、そのときの残高はどれくらいか。
これにより、試算表や決算書だけで残高を見ているよりも、より実態をつかみやすくなるわけです。もっとも、銀行が「預金残高の推移」を知ることができるのは、自行の口座に限られます。
ほかの銀行の口座にある預金は、会社が情報提供しない限り、知りようがありません。
ただ、銀行としては、自行の口座にある預金がいちばん重要なのですから、それはそれです(自行の口座にある預金は、いざというときには借入と相殺することができます)。
預金が多いと、融資が受けにくくなるのではないか? と考えている社長がいます。ですが、「預金=返済財源」であり、預金が多くて返済可能性が高い会社にこそ、銀行は「貸したい(安全に稼げるから)」と考えることを理解しておきましょう。
つまり、融資を受けたい銀行があれば、その銀行の口座の「預金残高の推移」に注意すること。日々の預金残高をできるだけ多くできるように考える、ということになります。
銀行が儲かるから
自行の口座に預金があることで、銀行がえられるメリットは「返済可能性が高い」だけではありません。「より儲かる」というメリットもあります。
たとえば、A銀行とB銀行から、それぞれ 1,000万円の融資を受けている会社があったとして。A銀行には 600万円の預金をしていて、B銀行には 100万円の預金をしているとします。
このとき、A銀行は表面的には 1,000万円の融資をしているものの、600万円の預金をあずかっていることから、実質的に融資をしているのは 400万円にすぎません。にもかかわらず、1,000万円分の利息収入をえています。
同じように考えると、B銀行の融資は表面的には 1,000万円、実質的には 900万円です。さて、どちらのほうが効率よく利息収入をえらえているか? といえば。当然、A銀行です。同じ 1,000万円を融資するのでも、A銀行のほうが儲かります。
なので、銀行は「できるだけ預金がほしい」と考えるわけです。もちろん、その預金とは「預金残高の推移」であり、一時点の瞬間的な残高だけ多くてもしかたないので、預金残高が平均的に高い状態を望みます。
もしかすると、銀行から「できるだけ〇〇万円以上の残高を維持してください」などと言われたことがあるかもしれません。これは、銀行が儲かるからであり、前述した返済財源を維持するためでもあります。
だとすれば、預金をどの銀行にあずけるかは「戦略的」に考えなければいけない、とわかるでしょう。融資を受けたい銀行や、融資条件を交渉したい銀行にこそ、預金をあずけるほうがいい。融資を受けていない銀行に預金をあずけるのは、銀行対応の面からはもったいない、ということです。
粉飾を見抜けるから
利益は意見、キャッシュは事実。という言葉を聞いたことはありますでしょうか。これは、利益には裁量の余地があるが、キャッシュ(おカネ)にはその余地がない、ということ。
もう少し補足をすると、利益は経理操作によって「粉飾(利益の水増し)」もできるけれど、キャッシュを利益操作することはできない。キャッシュには「預金残高」という客観的裏付けがありますから、ウソをつくことはできません。
なので、利益に経理操作の余地があるからと粉飾をしても、その「歪み」は必ず、キャッシュとの差にあらわれることになります。利益のウソは、おカネによって暴かれるのです。
銀行は、それをわかっています。だから、会社がつくる決算書や試算表の利益と、預金残高とを見比べています。利益は多いのに、預金が増えていない。預金残高が少なすぎやしないか。だとしたら粉飾なのではないか? という見方をしています。
なお、粉飾の歪みは、粉飾を重ねるごとに大きくなるものです。一時点の利益や預金残高だけを見るよりも、利益や預金残高の推移で見比べるほうが、より粉飾を見抜きやすくなります。
というわけで、ここでも銀行は「預金残高の推移」を重視しているのです。粉飾決算は「いつか必ずバレるもの」と考えておきましょう。バレれば、その後の融資は受けられなくなってしまいます。
まとめ
融資審査で、銀行が預金残高の推移を重視する。というのは、聞いたことがあるかもしれません。が、それはなぜなのか? いろいろと理由があるのでお話をしてみました。
理由まで理解していると、より有効な銀行対応ができるようになり、融資がより受けやすくなるものです。自社の預金残高の推移を、銀行の視点をふまえて、あらためて確認してみましょう。
- 返済財源だから
- 銀行が儲かるから
- 粉飾を見抜けるから