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返済が厳しいのは借入が多いから、とは限らない

返済が厳しいのは借入が多いから、とは限らない

借入が多くて返済が厳しい… というハナシがありますが。返済が厳しい原因は、必ずしも「借入が多い」ことではありません。では、どのような原因が考えられるのか?

目次

借入金月商倍率は3倍以内

会社の銀行借入について、「返済が厳しい…」という場合。その原因は、「借入が多いから」とは限りません。

この点で、ちまたのニュースを見ていると、「倒産企業増加、1件あたり負債額も増加」みたいなものもありまして、ややもすると「借入が多いからつぶれたのかなぁ」などとおもわれるかもしれません。

が、それはちょっと違います。というのが、このあとのお話です。話の前提として、「年間売上高1億 2,000万円、借入 3,600万円」の会社を例にあげることにします。

借入が多すぎないか? を見る指標の1つに、「借入金月商倍率」があります。算式で言うと、「借入金残高 ÷(年間売上高 ÷ 12ヶ月)」です。つまり、借入金は「平均月商」の何ヶ月分あるのか? をあらわしています。

その借入金月商倍率は、いっぱんに、「6倍以上は危険(借りすぎ)」とされ、「3倍以内」が安全圏という見方です。では、さきほどの例にあげた会社はどうでしょう?

借入金月商倍率 = 3,600万円 ÷(1億 2,000万円 ÷ 12ヶ月)=3倍

上記のとおり、いちおう「安全圏」の範囲にとどまります。借入が多いとは言えない。じゃあ、返済が厳しいことはないよね? と言えるのかというと、実は、そうとも言い切れません。

このように、借入が多いとは言えない会社であっても、返済が厳しいことはあります。それはなぜなのか? 返済の厳しさをやわらげるにはどうしたらよいのか? を考えていきましょう。

利益 < 返済額 のケース

借入金額が多い以外の原因で、返済が厳しいケースとしてはまず、「利益 < 返済額」があげられれます。

借りたおカネの返済原資は利益、というハナシは聞いたことがあるのではないでしょうか。ゆえに、銀行から融資を受けるときには、利益が出ているほど借りやすくなるわけです。

では、「利益 < 返済額」の状態だとどうなるか? 稼いだ利益からは返済ができないので、手元のおカネ(預金)を取り崩して返済を続けることになります。

この状態が続けば、遅かれ早かれ、返済が厳しくなることがわかるでしょう。ちなみに、「利益 < 返済額」は厳密にいうと「税引後利益 + 減価償却費 < 返済額」と表現されます。

話の趣旨から逸れるので解説は省きますが、ひとまず「そういうもの」として、「税引後利益 + 減価償却費 = 返済原資」と覚えてしまいましょう。

では、さきほどの事例の会社にあてはめてみます。「年間売上高1億 2,000万円、借入 3,600万円」という会社でしたが、「税引後利益 300万円、減価償却費 ゼロ、返済額 720万円」だとしたらでしょう?

税引後利益 300万円 + 減価償却費 0 < 返済額 720万円

となりますから、返済が厳しいことがわかります。借入金額が多いわけではなくても、「返済原資(税引後利益 + 減価償却費)」が少ないと、このとおり、返済が厳しくなるのです。

対応としては、言うまでもありませんが、利益を増やすことになります。売上を増やすなり、費用を減らすなりして、返済額を上回る利益を確保することを検討しましょう。

返済スピードが速すぎるケース

借入金額が多い以外の原因で、返済が厳しいケースはまだあります。それは、返済スピードが速すぎるケースです。なお、ここで言う「返済スピード」とは、次のように計算します↓

返済スピード = 借入金額 ÷ 年間返済額

では、事例の会社にあてはめてみます。「税引後利益 1,000万円、減価償却費 ゼロ、返済額 1,200万円」だとしたらでしょう?

税引後利益 1,000万円 + 減価償却費 0 < 返済額 1,200万円

となるので、やはり利益が少ないのが問題か? というと、そうでもないでしょう。年間売上高1億 2,000万円の会社で、税引後利益 1,000万円は「かなり優秀」だと言えるからです。

この場合、問題は「利益」ではなく「返済額」のほうにあります。返済額が多すぎるのです。とはいえ、それは借入金額が多いということではないのか? といえば。それは違う、ということは前述したとおりです。

ここで、返済スピードを計算してみましょう。

返済スピード = 借入金額 3,600万円 ÷ 年間返済額 1,200万円 =3年

つまり、いまの返済スピードだと、「3年で完済」ということをあらわしています。この情報をアタマに残しつつ、借入金額 3,600万円の内訳を確認してみましょう。次のとおりだとします↓

  • 残高 1,800万円(当初借入 3,000万円)、返済期間5年、年間返済額 600万円
  • 残高 1,200万円(当初借入 2,000万円)、返済期間5年、年間返済額 400万円
  • 残高 600万円(当初借入 1,000万円)、返済期間5年、年間返済額 200万円

このとおり、借入金額 3,600万円は、3本の借入で構成されています。いずれも、返済期間は5年であることに注目です。にもかかわらず、なぜ、返済スピードは3年と短いのでしょうか。

それは、借入の本数が多いからです。借入の本数が多くなると、同じ借入金額だとしても、返済スピードが速くなってしまいます。ここでもし、3本の借入を返済期間5年で、1本にまとめて借り換えることができたらどうなるか? こうなります↓

借入金額 3,600万円 ÷ 返済期間5年 = 年間返済額 720万円

これであれば、税引後利益 1,000万円でじゅうぶんに返済することができます。というわけで、返済スピードが速すぎるときの対応は、「借入をまとめる」ことです。

あわせて、「そもそも、借入の本数を増やしすぎないこと」も覚えておきましょう。あたらしく融資を受けるときには、既存の借入をまとめて借り換える、ということです。

まとめ

借入が多くて返済が厳しい… というハナシがありますが。返済が厳しい原因は、必ずしも「借入が多い」ことではありません。

では、どのような原因が考えられるのか? そして、返済の厳しさをやわらげるにはどうしたらよいのか? について、お話をしてきました。借入額だけに目を奪われないようにしましょう。

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