社長が、税理士に財務のアドバイスを求めるのであれば気をつけましょう。なかには、アドバイスを間違える税理士もいるからです。では、なにが間違いなのか? というお話をしていきます。
なかには間違えている税理士もいる。
会社の社長が、税理士に「財務のアドバイス」を求めることは少なくないようです(実際に、そのような統計データもあります)。また、積極的に求めずとも、顧問税理士がアドバイスをしてくれる、ということもあるでしょう。
なお、ここで言う「財務のアドバイス」とは、銀行融資や銀行対応をはじめとした資金繰り全般に関わるようなアドバイスです。
この点で、税理士が財務のアドバイスを間違えていることもあるので、社長は気をつけなければいけません。よく言われることではありますが、税理士は「税金の専門家」であり、税理士みなが財務の専門家ではないからですね。
では、どのような間違えがあるのか? おもなものを3つほど挙げてみましょう。こちらです↓
- 借入するのはよくない
- もっと節税しましょう
- おカネは使ってナンボ
もしかしたら、すでに、これらのアドバイスを受けたことがあるかもしれません。ところが、「中小企業の財務」という点では、間違いがあるといってよいでしょう。
というわけで、このあとそれぞれのアドバイスの何が間違いなのかを解説していきます。
ちなみに、税理士みなが財務のアドバイスを間違えるわけではありません。ひとくちに税理士といっても、たくさんいますから。なかには間違えている税理士もいる、それだけのハナシです。
なにを隠そう、わたし(税理士です)もかつては間違えていたアドバイスだったりします。なので、このあとのお話は、わたしと同じ税理士の方に向けた注意喚起でもあるわけです。
前置きはこれくらいにして、本題に入っていきましょう。
税理士が間違えている財務のアドバイス
借入するのはよくない
もうちょっと平たく言うと、「借金は悪だ」みたいなアドバイスです。まぁ、そこまで極端に借入を嫌うかどうかはともかく。借入を減らすようにアドバイスする税理士がいます。
もちろん、借入が必要ない会社であれば、それも正しいアドバイスです。ところが、多くの中小企業は、現在から将来にいたる過程のなかで、「いずれ借入が必要になるかも」という状態にあります。
銀行から借入をするかもしれないのであれば、借りられるうち(業績が良い・おカネがあるとき)に借入をして、銀行との関係性を築いておくことが大切です。
銀行が大事にするのは、おカネを借りてくれる会社であり、ふだんおカネを借りてくれているから、会社がピンチのときにも「なんとか支援しよう」と考えられる。これを理解しておきましょう。
ふだんは、借入をせずに関係性もないのに、いざ会社がピンチになってから、慌てて駆け込まれても、銀行には助ける義理も道理もありません。
ですから、「もう絶対に銀行借入は必要ない」と言える状態になるまでは、銀行借入はむしろ必要なものだと考えておきましょう。誤解を恐れずにいえば、借入が多いほど「信用」になります。
また、同じ観点から気をつけたいのが「繰り上げ返済」です。会社の預金残高が増えてくると、繰り上げ返済をアドバイスする税理士がいます。が、もうおわかりですよね?
繰り上げ返済をすれば、銀行借入が減ります。銀行にとって借入は商品です。繰り上げ返済は、その商品を返品しているようなものですから、銀行から見れば好ましいことではありません。
繰り上げ返済をしておきながら、のちのちになって「また貸してください」というのは、なんとも自分勝手なハナシであり、銀行が「貸したくない」と考えるのも無理からぬことでしょう。
なのでやっぱり、「もう絶対に銀行借入が必要ない」と言えるまでは、繰り上げ返済もしないことをおすすめします。借りたら返すな、返すなら借りるな。毎月返済を続けていけば、借入は減っていきますが、あるていど減ったところで減った分を借り直すことも、財務のセオリーです。
もっと節税しましょう
できる節税をするのは、当然です。でも、それを超えて、ムリをしてまでする節税には問題があります。具体的には、利益が出ているときにおカネを使って費用を増やす節税です。
それを「節税」と呼ぶかはともかく、会社の利益を見て「もっと節税しましょう」という税理士がいます。数は少ないと祈りたいのですが、「いるか・いないか」で言ったらいる。
費用を増やすために、税理士を接待するようアドバイスされた… というハナシもあるわけで。まぁ、そこまでヒドいハナシではないにしても、費用を増やすアドバイスはあるものです。
では、そのアドバイスのどこが間違いなのか? 節税によって、おカネが減ることです。税率が 30%だとしたら、税金を 30万円減らすのに 100万円のおカネを支出しなければいけません。
だったら、30万円の税金を払って、70万円手元に残しておいたほうがよくない? というハナシです。70万円のおカネが残らなかったことで、その分、資金繰りは悪くなります。
さらに、節税によって利益を減らした分だけ、銀行からの評価が下がるのも問題です。銀行は「利益=返済力」と見ていますから、節税すれば銀行からの評価が下がることを覚えておきましょう。
では、それが銀行融資にどれほど影響するのか。ざっくりとした目安でいうと、「節税によって減った税引後利益 × 10」の借入余力が減少します。
たとえば、経費を増やして 100万円の税引後利益が減少したのであれば、1,000万円の借入余力が減少する。つまり、節税前に比べて、1,000万円の借入ができなくなることを意味します。
さぁ、それでも節税をしますか? というハナシです。経費を増やすこと自体を否定するものではありませんが、それが「節税目的」になっている場合は気をつけましょう。
経費を増やす目的は、本来、別のところにあるはずです(売上アップとか、効率化とか)。節税は、その結果に過ぎず、あくまでオマケだといえます。
ちなみに、社長が「税金は嫌いだ!」「税金をもっと下げてくれ!」みたいなことを税理士に言い過ぎると、税理士もそれにならって「もっと節税しましょう」とアドバイスをしてしまうこともありえます。税金が少ないほうがよい気持ちはわかりますが、税金嫌いの発言はほどほどがおすすめです。
おカネは使ってナンボ
通帳に預金が増えていくのを見ると、「もったいない、おカネは使ってナンボです」といったアドバイスをする税理士もいます。
どんなおカネであれ、調達するのにはコストがかかるものですから(借入であれば利息、出資であれば配当みたいな)、余らせておくのはもったいない。おカネは投資に回すべき!
というのであれば、まことにもって正論です。ところが、それは「大企業」に当てはまる論理であって、中小企業にまで当てはまる論理ではありません。
大企業であれば、その信用力を活かして、必要なときに必要なだけの資金調達ができるものです(少なくとも、中小企業に比べれば)。だから、おカネを余らせておく必要はなく、将来の投資に回すことができる。あるいは、繰り上げ返済をすることもできます。
いっぽうで、中小企業はどうかというと。必要なときに必要なだけの資金調達ができる会社は、ほとんどないと言ってもよいでしょう。必要なとき、つまり、赤字のときや有事の際に、すぐ資金調達できるわけではありません。
実際、銀行に駆け込んだところで、警戒をされるばかりです。借りたいときほど借りられないのが中小企業、ということでもあります。だから、借りられるうちに借りておかねばなりません。
そうして借りたおカネは、いざというときのために「備えておく」のです。そこに、「おカネは使ってナンボ」の論理はありません。
なので、たとえ調達コストがかかろうと、もったいなと言われようとも、通帳の預金残高を増やしていくことが、中小企業におすすめの財務方針となります。
まとめ
社長が、税理士に財務のアドバイスを求めるのであれば気をつけましょう。なかには、アドバイスを間違える税理士もいるからです。では、なにが間違いなのか? というお話をしてきました。
税理士は「税金の専門家」であり、税理士みなが財務の専門家ではない、と心得ておきましょう。
- 借入するのはよくない
- もっと節税しましょう
- おカネは使ってナンボ