社長が理解しておくべきこととして、繰越欠損金があります。その繰越欠損金について、銀行融資を考えるうえで知っておくべきこと、のお話です。意外と知らずにいる社長がいます。
繰越欠損金の理解が足りない。
突然の専門用語ではありますが、社長は「繰越欠損金」について理解をしておく必要があります。いやいや、そんなことはわかってるよ。そう、おもわれるかもしれませんが。
繰越欠損金そのものに対する理解はもちろん、銀行融資への影響についても理解していますか? と聞かれると。い、いや… そこはあまりよくわからない… ということもあるかもしれません。
銀行融資を必要とする会社であれば(多くの会社はそうでしょう)、理解には不足があると言ってよいでしょう。
そこで本記事では、繰越欠損金について、社長が銀行融資を考えるうえで知っておくべきことをお話ししていきます。具体的には次のとおりです↓
- 繰り越せるのは 10年だけ
- すべての欠損金が悪ではない
- 解消計画を示すことが大事
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
繰越欠損金について、社長が銀行融資を考えるうえで知っておくべきこと
繰り越せるのは 10年だけ
繰越欠損金とは、平たく言うと「過去に生じた赤字のうち、繰り越しができる金額」です。
そもそも、法人税は「利益(厳密には所得) × 税率」で計算します。この点で、利益がマイナス(赤字)の場合には、税率をかけるのではなく、税金はゼロとなるのはご存知でしょう。
では、その「利益のマイナス」はどうなるのか? 一定のあいだ、翌年以降に繰り越すことができます。繰り越すとはつまり、翌年以降の利益(黒字)と相殺ができる、ということです。
たとえば、X年3月期の決算で 500万円の赤字が生じたとします。利益がマイナスですから、前述したとおり、X年3月期の法人税はゼロです。では、翌年の Y年3月期の黒字が 800万円だとしたらどうなるか?
法人税の計算は、「(利益 800万円 − 繰越欠損金 500万円)× 税率」となります。繰越欠損金があるおかげで、Y年3月期の税金が少なくなる。というのが、繰越欠損金の効果です。
では、過去の赤字(繰越欠損金)を繰り越すことができる「一定のあいだ」とは、どれくらいの期間をいうのか。平成30年4月1日以降に開始した決算期の赤字は、翌年以降 10年のあいだ繰り越すことができます。それよりも前に生じた赤字は9年です。
以上をふまえて、過去にどれだけの赤字が生じたのか、そのうちどれだけが黒字の相殺に使われたのか、そしていまどれだけの繰越欠損金が残っているのか? これらを一覧にした書類が、「法人税別表7」です。
法人税申告書一式のなかに含まれていますので、いちど確認をしておくことをおすすめします。見方がよくわからなければ、顧問税理士に教えてもらうとよいでしょう。
法人税別表7を見ると、決算期ごとに、その年に生じた繰越欠損金の額が記載されています。その金額と、会計上(損益計算書上)の赤字の金額は、必ずしも一致しません。
これは、会計上の収入・費用と、税金計算上の収入・費用とが必ずしも一致しないことによります。一致しないのはどこ? をあきらかにするのが、「法人税別表4」という書類です。
すべての欠損金が悪ではない
繰越欠損金が 10年のあいだ繰り越せる、と前述しました。そのようすが、法人税別表7に記載されていることもお話をしたとおりです。
この点で、銀行が法人税別表7に注目していることを覚えておきましょう。なぜ、注目しているのか? 銀行にとっては赤字(欠損金)は、融資審査における懸念事項だからです。
言うまでもなく、赤字の会社は危険なので、銀行としては融資をしたくない。だから、法人税別表7を見て、赤字のようすを把握しようとするわけです。
もちろん、毎年の決算書を見れば、過去の赤字もわかります。とはいえ、まだお付き合いをはじめたばかりの会社となれば、過去の決算書も3年ていどしか入手していないことはあるものです。
このとき、法人税別表7を見れば、それよりも前の赤字のようすがわかります。銀行にとっては、重要な情報です。なので、社長も法人税別表7の内容を把握しておくようにしましょう。
そのうえで、銀行に対して「赤字(欠損金)が生じた原因」を説明することが大切です。
さきほどのハナシで言えば、お付き合いをはじめたばかりの銀行は、過去の赤字の額はわかったとしても、その原因まではわかりません。ところが、原因しだいで「赤字の意味合い」は変わります。
赤字の原因が「本業の不振」であれば、銀行としては不安材料になるでしょう。この先も心配だ… となれば、融資がしづらくなるところです。
いっぽうで、赤字の原因が「前向き」なものだとしたら。たとえば、遊休不動産を売却して現金化した(=資金繰りが改善する)ことによる売却損、不採算事業からの撤退(=収益力・資金繰りが改善)したことによる費用などが挙げられます。
それらは一時的には赤字ですが、中長期的な視点で見ればプラスの効果があるものです。すべての赤字、すべての欠損金が「悪」ではありません。
にもかかわらず、法人税別表7の金額だけを見られて「単なる赤字」と評価されるのはよくありません。なので、社長は法人税別表7の内容を把握し、必要に応じて、その内容(赤字の原因)を銀行に説明できるようにしましょう。
解消計画を示すことが大事
繰り返しになりますが、繰越欠損金は 10年のあいだ繰り越しができます。ウラを返すと、10年を超えて繰り越しはできない。10年を超えると、繰越欠損金は消滅してしまいます。
するとどうなるか? もったいないですよね。さきほど具体例でお話をしたとおり、繰越欠損金が残っていれば、翌年以降の黒字と相殺をすることで税金負担を減らすことができます。
ところが、繰越欠損金が消滅してしまったら、それもできないわけです。結果として、同じ黒字であっても納税負担が大きいことから、その分だけ財務改善が遅れる(=ムダに税金を払う)ことになってしまいます。
実際に、繰越欠損金を消滅させている会社は少なくありません。赤字が続いたり、黒字が不十分な会社です。
そういった会社では、決算書(貸借対照表)の「繰越利益剰余金」の額が、法人税別表7の「繰越欠損金」の額よりも大きくなる、という特徴があります。銀行は、そのあたりの確認もしていることも覚えておきましょう。
そのうえで銀行は、「繰越欠損金を期限内に解消(黒字と相殺)できるかどうか」に注目しています。言い換えると、「繰越欠損金を相殺できるだけの利益が、これから先に出るのかどうか」です。
そこで、社長は「毎年の利益計画」を策定して、いま残っている繰越欠損金をどのように相殺していくのかの「解消計画」を、銀行に説明できるとよいでしょう。繰越欠損金を消滅させることなく、有効活用できることがわかれば安心なので、銀行も融資をしやすくなります。
まとめ
社長が理解しておくべきこととして、繰越欠損金があります。その繰越欠損金について、銀行融資を考えるうえで知っておくべきこと、のお話です。意外と知らずにいる社長がいます。
- 繰り越せるのは 10年だけ
- すべての欠損金が悪ではない
- 解消計画を示すことが大事