経営計画書を「自主的」に銀行へ提出する意味はない。というハナシを見聞きもしますが、本当にそうなのか? いやいや、意味はある。では、どういった意味があるのか? についてお話しします。
短期的な視点で目先ばかりを見ていれば。
銀行融資・銀行対応において、経営計画書(≒ 事業計画書)に関する「こんなハナシ」を見聞きします。それは、「経営計画書を自主的に銀行へ提出する意味はない」というハナシです。
つまり、経営計画書を提出したからといって融資が受けられないことはしばしばあるし、提出していなくても融資を受けることはできているし、みたいな。
たしかに、短期的な視点で目先ばかりを見ていれば、そういう受け止め方もあるでしょう。ですが、経営計画書には中長期的な視点であらわれる効果もある、とわたしは考えています。
つまり、経営計画書を自主的に銀行へ提出する意味はある、ということです。
と言われても、「中長期的な視点であらわれる効果」ってどういうこと? そうおもわれるかもしれませんので、このあと具体的にお話をしていきます。はじめに列挙しておくと、次のとおりです↓
- 事業の良し悪しが伝わる
- 業績悪化の可能性を軽減できる
- 業績悪化したときにも判断材料になる
これらの効果について、順番に確認をしていきましょう。
経営計画書を提出すると中長期的な視点であらわれる効果
事業の良し悪しが伝わる
銀行が融資を検討する際、きわめて重要な情報のひとつに「事業の良し悪し」があります。言い換えると、その会社は「良い商売(もうかる商売)をしているのかどうか」です。
事業が良ければ、会社は将来にわたって利益をあげることができますから、銀行は「貸したおカネを回収できる」ので安心できる。いっぽうで、事業が悪ければ不安になります。貸したおカネを回収できない可能性が高まるから、ですね。
では、事業の良し悪しを知るにはどうすればよいか? まずは、事業内容(どんな商売をしているのか)を理解すること。そのうえで、事業の将来性をはかることです。
この点、計画書の記載項目には「現状把握・現状分析」があり、これが事業内容を理解するのに役立ちます。現状把握・現状分析により、「事業の現状」や「現状の課題」があきらかにされているはずだからです。
したがって、銀行がそれらを見れば、融資先が「どのような事業をしているか、どのような問題・課題があるか」をつかみやすくなります(計画書がない場合に比べて)。
また、現状把握・現状分析をもとにつくられる「行動計画」や「数値計画」は、銀行が「事業の将来性」を検討・評価するのに有効な情報です。
ちなみに、現状把握・現状分析なしにつくられる行動計画や数値計画は、銀行からの信用がえられません。現状把握・現状分析は、行動計画や数値計画の「前提・根拠」にあたり、前提・根拠がない計画は、意味がない(絵空事)だと見られるからです。
意外と、行動計画・数値計画だけ(場合によっては数値計画だけ)という経営計画書が少なくありませんので、社長は気をつけましょう。
なんにせよ、経営計画書によって銀行に「事業の良し悪し」が伝わることで、その効果(良い商売であれば融資が受けやすくなる)は、中長期にわたって発揮されることとなります。
業績悪化の可能性を軽減できる
いま黒字であれば、銀行融資が受けやすい。ということは、社長であればご存知のことでしょう。いっぽうで銀行は、「いつ赤字になるかわからない」という目で、黒字を見ています。
決算書の黒字は、しょせん「瞬間的」なものにすぎない、という見方です。なので、銀行はいつも、「業績悪化の兆候」を気にしていることは覚えておいたほうがよいでしょう。
そこで、社長にできるのは「業績悪化の可能性を軽減する」ことです。銀行に対して、「ウチは、業績悪化の可能性が小さいですよ」と伝えられれば、銀行が抱く「業績悪化の疑い」を軽減することができます。
では、どのように伝えるか? もう、おわかりのこととおもいますが「経営計画書」です。計画書には、将来の行動や数値が記載されます。それらの行動や数値でもって、業績悪化がない(あるいは可能性は小さい)ことを説明できるとよいでしょう。
これに対して、決算書や試算表などは「過去の情報」にすぎません。そこに、将来の情報はありませんから(推測はできたとしても)、計画書とは「性格」が異なります。
だから、経営計画書という将来の情報を「自主的」に提出する意味があるのです。とはいえ、その計画書の内容が「正確」かどうかはわかりません。将来はだれにもわからず、「未知」です。
そう考えると、計画書は「やっぱり絵空事だ」という見方もあるでしょう。ですが、計画書を絵空事にするのか、信じるに足る計画書にするかは、社長しだいともいえます。
では、信じるに足る計画書にしあげるにはどうすればよいのか? すでにお話をしたとおり、「現状把握・現状分析」をもとに計画をすることです。
そのうえで、銀行に対して、自社の「業績悪化の可能性」を軽減できれば、将来にわたって融資が受けやすくなるという効果がえられるでしょう。
業績悪化したときにも判断材料になる
会社・事業を続けていると、良いときもあれば悪いときもあるものです。というハナシは、多くの先人・先輩社長の言葉でもあります。悪いときにはどうなるか? 融資が受けにくくなります。
それでも何とか銀行に支援をお願いしたい(融資やリスケジュールなど)となると、銀行からは「経営計画書を見せてください」と言われるものです。
銀行も慈善事業ではありませんから、なんでもかんでも「はい、そうですか」とはいきません。支援に値する融資先かどうかを判断する必要があり、判断材料が必要になります。
その材料の1つが、経営計画書というわけです。これを聞いて、「じゃあ、銀行に言われたらつくればいいよね」と考えるのであれば、気をつけたほうがよいでしょう。
まず、銀行から言われて「慌ててつくる計画書」には、荒さが出るものです。また、そもそもつくりかたがわからずに、途方に暮れてしまう社長もいます。これでは、支援が受けられません。
いっぽうで、ふだんから計画書を作成・運用している会社はどうでしょう。慌てることも、途方に暮れることもなく、すぐに銀行に対して計画書を提出・説明することができます。
さらに、ふだんから定期的・継続的に計画書を提出している(その進捗を報告もしている)ような会社であれば、銀行の計画書に対する信頼性は高いものです。
なぜなら、定期的・継続的な提出によって、銀行は計画書の「精度(計画の達成度)」を検証できています。ところが、初めて計画書を受け取ったとなると、そうはいきません。
計画書の精度がわからないことから、判断材料にはしづらい…(計画書の内容を信用しきれない) ということはあるものです。だとすれば、業績悪化する前から、定期的・継続的に計画書を提出することにも意味はあります。
というわけでぜひ、ふだんから計画書を銀行に提出することも検討してみましょう。
まとめ
経営計画書を「自主的」に銀行へ提出する意味はない。というハナシを見聞きもしますが、本当にそうなのか? いやいや意味はある、ということについてお話をしてきました。
短期的な視点で目先ばかりを見ていると、中長期的な視点であらわれる効果を見逃してしまいます。会社・事業には、中長期的な視点が必要なのはご存知のとおりです。
同様に、銀行融資・銀行対応も、中長期的な視点を持てるようにしましょう。
- 事業の良し悪しが伝わる
- 業績悪化の可能性を軽減できる
- 業績悪化したときにも判断材料になる