会社の経理について、「税理士はいらない」という考え方がありますが。本当に、経理に税理士はいらないのか?実は、完全にいらないとまでは言い切れない。ということを、お話ししていきます。
経理ができる ≠ 経理が正しい
会社の「経理」について。税理士はいらない、という考え方があります。その昔は、税理士に任せる(丸投げする)のがあたりまえだったけれど、いまは経理ツールも便利になりました。
いわゆる「クラウド会計」などは、「経理の自動化」が売り文句であり、自社の独力で経理ができることをイメージさせるものでもあります。
かく言うわたしもまた、「税理士いらずの経理」という話は以前からしているところです。でも、ちょっと待った。本当に、経理に税理士はいらないのか? について、あらためて考えてみます。
間違いをチェックする能力はあるか?
たしかに、経理ツールの進化・普及によって、経理処理が自社でもできるようにはなりました。税理士に任せることなく、自社で帳簿をつけられるようにはなったわけです。
とはいえ、「経理処理ができる(帳簿をつけられる)」ことと、「その経理処理が正しい」ことは、イコールではありません。経理処理はできても、間違えていることもありえます。
言うまでもなく、経理ツールに対する「指示出し」を人間が間違えていると、経理ツールもまた、間違えた答えを出してしまうからです。その間違いをチェックするだけの能力が会社になければ、経理処理の結果(試算表とか決算書とか)は間違えたものになってしまいます。
もっとも、間違いにも大小あるので、小さければ「たいした問題ではない」ともいえるでしょう。ですが、もし大きな間違いであれば、社長が経営判断を間違える原因になりえます。
また、経営判断とは別に、税金計算を間違えて「税務署対応を迫られる」ということもあるでしょう。税金計算の元になるものが経理処理であり、経理を間違えれば税金を間違えることにもなるからです。
そうなると(税務署対応を迫られると)、税理士の助けも必要になるものですし、余計なロスが生じます(税務署対応の時間、税理士に支払う費用など)。
クチでいうほど経理はカンタンではない
なので、「経理処理ができる」ことと「税金計算ができる」こともまたイコールではない、と考えておくのがよいでしょう。繰り返しになりますが、「経理ができる=経理が正しい」わけではないのです。
もちろん、だからといって、「自社で経理処理することをやめましょう」などと言うつもりはありません。むしろ、その逆です。
自社で経理をすることにはメリット(税理士に頼むよりも、速く効率的に仕上げられる可能性がある、など)がありますから、積極的にすべきですし、正しくできるように「勉強」もしましょう!といのうが私見になります。
ただし、クチでいうほどカンタンなことではありません。自社で経理をしているという会社について、「その内容が完全に合っている」ことが少ないのは(わたしが知る限り)、その証でしょう。
では、どうするか?
チェックは税理士の助けを借りる
おいおい、完全にポジショントークじゃねーかよ(オマエ、税理士だし)。とおもわれたら、それも否定はしませんが。経理の結果をチェックする、という点で税理士の助けを借りるのはおすすめです。
つまり、日ごろの経理処理は会社でやる。その結果に間違いがないかどうかを、税理士にチェックしてもらう、ということになります。そのチェックを通じて(間違いがあれば教えてもらう)、会社が「勉強」をできるのもメリットです。
勉強を重ねれば、日ごろの経理処理の精度は高まっていくでしょう。そうして、自社でできることが増えれば、その後の税理士報酬を減らすことも可能です(税理士との交渉は必要でしょうが)。
なお、「税務署から調査の連絡があってから、税理士の助けを借りればよいのでは?」との考え方もあります。日ごろの経理処理に間違いがない・少ないのなら、それも1つの方法です。
とはいえ、間違いがあったり、間違いが多かったりすると、いくら税理士とはいえ、できることは限られてしまいます。間違えた直後であれば、処理を修正すれば済んだものが、いまとなってはそれだけではすまない…ということはあるわけです。
するとやっぱり、社長は税務調査への対応に、余分な時間や心労をともなうこととなり、税理士への報酬もふくらんでいくことになります(税務調査が長引くほど、手間がかかるほど)。
だったら、はじめから、日ごろからこまめにチェックしてもらっておいたほうがいいよね。と、わたしは考えるのですがいかがでしょうか。
あらためてまとめると、まず、経理処理は自社でやる。そのチェックを税理士にお願いする。その繰り返しによって、会社は勉強ができるので、経理処理の精度が高まり、税理士の助けも減っていく、ということです。
顧問税理士がいない会社の銀行融資
さいごに、もうひとつ。別の視点から、「本当に、経理に税理士はいらないのか?」を考えてみます。それは、銀行融資です。中小企業の多くは、銀行融資を利用していますから無視はできません。
はじめに結論として、「顧問税理士がいない会社の決算書」を、銀行は信用しないものです。顧問税理士がいない会社の決算書とは、法人税別表1に、税理士の記名がないものをいいます。
自社で、経理処理から申告までを済ませている会社などは、その典型です。自社でぜんぶできるなんてすばらしいことだと、わたしもおもいはするのですが、対銀行という点では気をつけましょう。
銀行はまず、「税理士のチェックがない決算書には間違いがあるに違いない」あるいは「税理士には頼めない事情があるのかもしれない(粉飾や脱税など)」と考えるものです。
銀行員はなんて性格が悪いんだ!というハナシではなく、銀行の仕事柄しかたありません。なので、銀行に対して文句を言うのはムダであり、銀行の考え方を受け入れるしかないのです。融資を受ける限りは。
さらに、銀行はこうも考えます。「税理士報酬を払えないくらいの商売なのではないか?」、つまり、もうからない商売なのではないか? だったら、危ないから融資ができないぞ、と。
これは、わたしが勝手に想像しているのではなく、実際に、ある銀行員の方から聞いた話です。すべての銀行員がそうはおもっていないとしても、そうおもわれていることはある、という点に注意をしなければいけません。
だとすれば、経理処理や申告を自社でするにしても、そのチェックは税理士にしてもらう。そのうえで、顧問税理士として、法人税別表1に記名をしてもらうことが、1つの方法になります。
まとめ
会社の経理について、「税理士はいらない」という考え方がありますが。本当に、経理に税理士はいらないのか?実は、完全にいらないとまでは言い切れない。ということを、お話ししてきました。
自社で経理処理をするのはすばらしいことですが、場合によって・場面によっては、税理士の助けを借りるほうがよいことも理解しておきましょう。