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「債務償還年数>実際返済速度」という問題と解決策

「債務償還年数>実際返済速度」という問題と解決策

会社の銀行融資をめぐる問題点として、「債務償還年数>実際返済速度」が挙げられます。借入が重い、返済負担が大きいと感じるケースです。その解決策について、解説をしていきます。

目次

《問題提起》借入が重い・返済負担が大きい

会社が銀行融資を受けるにあたって、問題点の1つに「債務償還年数>実際返済速度」があります。と聞いても、おそらく何のことかわからないでしょう。

債務償還年数はさておき、実際返済速度とは、わたしが命名した財務指標だからです。というわけでまずは、2つの財務指標の算式を確認してみることにします。次のとおりです↓

  • 債務償還年数=(借入金残高ー預金残高)÷(税引後利益+減価償却費)
  • 実際返済速度=借入金残高÷年間返済額

債務償還年数のうち、「税引後利益+減価償却費」は「簡易キャッシュフロー」とも呼ばれるものであり、借入金の返済原資になります。ゆえに、債務償還年数は「現状の簡易キャッシュフローが続く場合に、あと何年で返済できそうか」をあらわす財務指標です。

いっぽうの実際返済速度は、「現状の返済ペースだと、あと何年で返済できるか」をあらわす財務指標になります。

そのうえで、冒頭でもふれた「債務償還年数>実際返済速度」が何を意味しているのかを考えてみましょう。結論、「現状の実力(簡易キャッシュフロー)から見て、実際の返済ペースが速すぎる」ということです。

すると、どうなるか?当然、資金繰りは厳しくなります。「借入が重い」とか、「返済負担が大きい」と感じるのは、このケースです。

では、どうすれば、この問題を解決できるのか?1つは、簡易キャッシュフロー(≒利益)を増やすことであり、それが正攻法だといえます。ところが、そうカンタンに利益を増やせるものでもありません。

そこで、利益を増やす努力はしつつ(=中長期的な解決策)、短期的な解決策を講じる必要があります。具体的には、大きく分けて2つ。それぞれの効果や注意点について、このあと確認していきましょう。

《短期的な解決策1》新規借入

事例として、次のような会社があったとします↓

  • 借入金残高 1,500(当初借入 2,500、返済期間5年)
  • 預金残高 300
  • 簡易キャッシュフロー 100

では、債務償還年数と実際返済速度を計算してみましょう↓

  • 債務償還年数=(1,500−300)÷100=12年
  • 実際返済速度=1,500÷500=3年

債務償還年数の計算で、借入金残高から預金残高をマイナスしているのは、預金があれば、その分の借入金はないのと同じだからです。結果、債務償還年数は12年となりました。

実際返済速度の年間返済額は、「当初借入 2,500÷返済期間5年」で計算しています。結果、実際返済速度は3年となりました。

まさに、「債務償還年数>実際返済速度」の状態です。実力的には、返済に12年かかるのに、実際には3年で返そうとしているのですから、いかに資金繰りが厳しくなるかがわかるでしょう。

というわけで、短期的な解決策の1つめとして、新規借入を検討することにします。文字どおり、あらたに借入をするだけです。新規借入の融資条件は、次のとおりとします↓

  • 借入金額 1,000、返済期間5年

つまり、新規借入分の年間返済額は200(1,000÷5年)です。すると、事例の会社の状況は次のように変わります↓

  • 借入金残高 2,500(既存分 1,500+新規分 1,000)
  • 預金残高 1,300(既存分 300+新規借入分 1,000)
  • 簡易キャッシュフロー 100(変化なし)
  • 年間返済額 700(既存分 500+新規分 200)

これを受けて、債務償還年数と実際返済速度を再計算してみましょう↓

  • 債務償還年数=(2,500−1,300)÷100=12年
  • 実際返済速度=2,500÷700=3.6年

結論、あまり変わらず…です。債務償還年数は、これまでと変わらず12年。実際返済速度は、3年から3.6年になっただけであり、ほとんど変わっていません。

なんだよ、これじゃあ解決にならないじゃないか。と、おもわれるかもですが、預金残高が300から1,300に増えていることに注目です。

返済原資の不足額は「600(年間返済額 700−簡易キャッシュフロー 100)」ではあるものの、預金残高が1,000増えたことで、これを補うことができます。これが、新規借入の効果であり、狙いです。

《短期的な解決策2》借り換え

次に、短期的な解決策の2つめとして、「借り換え」について考えてみます。事例は、さきほどと変わらず、次のとおりです↓

  • 借入金残高 1,500(当初借入 2,500、返済期間5年)
  • 預金残高 300
  • 簡易キャッシュフロー 100

なので、債務償還年数と実際返済速度も変わらず、次のとおりとなります↓

  • 債務償還年数=(1,500−300)÷100=12年
  • 実際返済速度=1,500÷500=3年

この状況から、「借り換え」をします。ここで言う「借り換え」とは、あらたに2,500を借り入れして、既存の1,500は返済をする借り方です。結果、借入残高が1,000増えるのは、前述の「解決策1」と変わりません。

借り換えにあたり、融資条件は次のとおりです↓

  • 借入金額 2,500、返済期間5年

これにより、借り換え後の年間返済額は500(2,500÷5年)です。すると、事例の会社の状況は次のように変わります↓

  • 借入金残高 2,500
  • 預金残高 1,300(既存分 300+借り換え分 1,000)
  • 簡易キャッシュフロー 100(変化なし)
  • 年間返済額 500

これを受けて、債務償還年数と実際返済速度を再計算してみましょう↓

  • 債務償還年数=(2,500−1,300)÷100=12年
  • 実際返済速度=2,500÷500=5年

というわけで、債務償還年数はあいかわらず12年のままですが、実際返済速度は3年から5年と2年もスピードを落とすことができました。債務償還年数と実際返済速度が近づく分だけ、資金繰りはラクになります。

返済原資の不足額も、「解決策1」では600であったのに対して、「解決策2」では400まで減っています(年間返済額 500−簡易キャッシュフロー 100)。借り換えによって、既存の借入も返済期間を延ばせたからです(3年→5年)。

また、借り換えによって、預金残高が1,000増えていますから、返済原資の不足額も補えますし、そのうえで、より多くの預金を手元に残せるのが、解決策2の効果になります。

以上をふまえて、同じ借入をするのでも、ただ新規借入するよりは、借り換えのほうが資金繰り改善効果が大きいことを理解しておきましょう。

こうして、借入によって資金繰りを改善し、時間かせぎができれば、そのあいだに利益改善をはかり、よりいっそう資金繰りを改善することができます。

まとめ

会社の銀行融資をめぐる問題点として、「債務償還年数>実際返済速度」が挙げられます。借入が重い、返済負担が大きいと感じるケースです。その解決策について、効果や注意点を解説しました。

「債務償還年数>実際返済速度」は、放置をすれば、いずれ資金ショートにいたる危険な問題です。まずは、問題が起きていることを把握すること。そのうえで、問題が起きているのであれば、本記事でお話をした解決策を講じることが大切になります。

「債務償還年数>実際返済速度」という問題と解決策

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