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繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?

繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?

会社の銀行融資について、繰り上げ返済はおすすめしていません。が、繰り上げ返済をしたがる社長は多いものです。というわけで、繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?についてお話をします。

目次

繰り上げ返済がお好きな社長と税理士と。

会社の銀行融資について、基本的には「繰り上げ返済はやめましょう」とおすすめをしています。どちらかというと、繰り上げ返済をしたがる社長が多いからです。ついでにいうと、繰り上げ返済をおすすめする税理士も少なくありません。

この点、会社における繰り上げ返済と、個人における繰り上げ返済(住宅ローンとか)をいっしょに考えている社長や税理士がいます。ところが、両者は「まったくの別モノ」です。

なので、そこを知らずにいると、繰り上げ返済によって、会社はしなくてもよい損をしたり、しなくてもよい苦労をしたりすることになりかねません。

では、会社における繰り上げ返済と、個人における繰り上げ返済のいったい何が違うのか?を確認しておくことにしましょう。おもなところでは次のとおりです。

繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?
  • 会社は収入が変動する
  • 会社はまた次回がある
  • 会社は利息が経費になる

それではこのあと、順番に解説していきます。

繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?

会社は収入が変動する

会社の収入、つまり「売上」は変動します。最近の話でいえば、新型コロナの感染が広がったことで、多くの会社の売上が減少しました。なかには、数ヶ月以上にわたり激減(ほぼゼロ)といった会社もあります。

いっぽうで個人の収入、つまり「給与」はどうでしょうか。会社が新型コロナのあおりを受けたことで、お給料が減ったという人はいるかもしれません。とはいえ、激減した(ほぼゼロになった)という人は多くないものとおもわれます。

少なくとも、収入が激減した会社の割合に比べれば、収入が激減した個人の割合は低いはずです。会社によって、雇用によって、個人は守られているからだ、といってよいでしょう。

それはそれとして、会社の売上が変動する要因はいろいろです。新型コロナでけではなく、自然災害や、業界や自社の不祥事、競合他社との競争、景気や経済の影響などなど。いずれにせよ、収入が変動することはめずらしくありません。

給与がほぼほぼ変動しない個人とは、大きく異なるところです。給与、つまり、収入が変動しないのであれば「先が読める」わけなので、手元のおカネが貯まったところで、住宅ローンなどの繰り上げ返済をするのはよいでしょう。

また、個人の場合には、支出も読みやすい(あまり変動しないし、じぶんでコントロールもしやすい)ので、そういう意味でも、繰り上げ返済が適しているといえます。

これに対して、会社のほうは、前述したとおり収入が変動するのに加えて、支出の変動も悩ましいところです。状況に応じて、突発的な支出が生じることはそこそこありますし、そういった支出がコントロールできないケースもあるでしょう。

となると、会社は「読めない将来」に備えて、「できるだけのおカネを蓄える必要性」があるわけです。にもかかわらず、安易に繰り上げ返済をしてしまい、のちのち後悔している社長の姿をわたしは知っています。

会社と個人とでは、そもそも「置かれている状況(前提)」が違うことを忘れてはいけません。

会社はまた次回がある

たとえば、個人の住宅ローンについて。基本的には、いちど借りたら次回はありません。つまり、また別の家を買ったり、ローンの借り換えをしない限り、次回の借入はないのです。

これに対して、会社はそうもいきません。繰り返しになりますが、会社の収入や支出は変動することから、放っておくと資金繰りは厳しくなってしまいます。なので、そうならないように、社長はたびたび、融資を受けることになるわけです。

つまり、「また次回がある」のが会社です。この点で、いちど借りたおカネを、会社が繰り上げ返済するとどうなるか。端的にいえば、その銀行からは嫌われます。えっ、そんなことある?銀行は早く回収できたほうが嬉しいんじゃないの?と、おもわれるのであれば間違いです。

銀行は、おカネを貸すのが商売なのですから、「できることなら貸したい」と考えています。貸すことによってはじめて、利息収入が得られるからですね。にもかかわらず、もし銀行に「早く返して」と言われるのであれば、自社は危険な会社だと見られているサインにほかなりません。

ですから、自社が危険な会社(業績が悪い・資金繰りが悪い)でない限りは、銀行は「できることなら貸したい」のであり、いちど貸したおカネは「約束どおり借り続けてほしい」と考えています。

約束どおりとは、当初の契約にもとづく「返済期間」です。5年であれば、5年間で返済してほしい。仮に3年で繰り上げ返済されれば、残り2年分の利息を得ることはできません。だったら、貸さなかったのに!というのが、銀行の思いです。

結果として、次回以降の融資が借りにくくなることはありえます。繰り上げ返済を繰り返すような会社はとくに、です。銀行は「また、繰り上げ返済されるかも」と想像します。

いちど借りればおしまいの個人と、また次回がある会社とでは、やはり状況が違うのです。

ちなみに、会社においては「銀行借入が信用になる」ことも覚えておきましょう。逆に、銀行借入がない会社(無借金の会社)は、銀行から「借りたくても借りられないほど信用がない会社」と見られることがあるので注意が必要です。

なので、繰り上げ返済するのであれば、「以後は2度と、銀行借入をしない」といえる状態になったときに限られます。銀行借入を減らしたり、無借金になれば、銀行からの信用も減るからです。

会社は利息が経費になる

繰り上げ返済をしたがる社長や、繰り上げ返済をおすすめしたがる税理士が、「利息がもったいない」と考えていることがあります。つまり、繰り上げ返済をすれば、その分、利息が減るからいいよね、との考えです。

たしかに、そのとおりではありますが。ただし、会社が支払う利息は経費になるので、その分、税金を減らす効果があることは理解しておいたほうがよいでしょう。

たとえば、1,000万円を金利3%で借りたとすれば、1年間の利息は30万円です。法人税率が30%だとすれば、利息が経費になることで、法人税は9万円減ります(30万円×30%)。

となると、実質的な利息は21万円であり、実質的な金利は2.1%です。利息に対するイメージが、だいぶ変わるのではないでしょうか。年間21万円、月にすれば1.75万円の利息ならば、利息を払ってでも、手元に1,000万円のおカネを置いておけるほうが安心だ、ともおもえるはずです。

また、いまはまだ「低金利の時代」ですから、そもそもの金利が2%や1%というケースもめずらしくはありません。であれば、実質的な金利はいっそう低いものになります。

いっぽうで、個人が支払う利息(たとえば住宅ローンの利息)は、経費になりません。というか、そもそも経費という概念もありません。もっとも、住宅ローン控除といった特典はあるものの、期間限定(最長13年とか)の特典にすぎません。

会社が、できるだけおカネを持つことの必要性については前述したとおりです。利息が経費になることもふまえて、「借りてでもおカネを持つ(=繰り上げ返済をせずにおカネを置いておく)」という権利を、安易に放棄することがないようにしましょう。

繰り上げ返済をしても、また借りればいいい。そう考えているかもしれませんが、「貸すか貸さないか」を決める権利は銀行にあります。借りたいとき(業績が悪い・資金繰りが悪い)ほど借りられないのが銀行融資です。

まとめ

会社の銀行融資について、繰り上げ返済はおすすめしていません。が、繰り上げ返済をしたがる社長は多いし、繰り上げ返済をおすすめる税理士が少なくないものです。

というわけで、繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?についてお話をしました。「おカネがあるなら、とにかく繰り上げ返済」とはならないように、気をつけましょう。

繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?
  • 会社は収入が変動する
  • 会社はまた次回がある
  • 会社は利息が経費になる
繰り上げ返済は会社と個人で何が違うのか?

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