税金は納めたくないから、わざと赤字にしました。という、社長がいます。黒字を重んじる銀行に対して、そのような言い訳は通じるのかどうなのか…?理由もふまえて、お話をしていきます。
税金は納めたくない。でも、おカネは借りたい。
決算書が「赤字(税引前利益がマイナス)」の会社があります。売上不振や、突発的な損失などによって、やむなく赤字になってしまった…というケースだけではありません。
なかには、わざと赤字にしているケースもあります。つまり、黒字にすると税金を納めねばならないため、経費を増やして赤字にする、みたいな。
わたし自身、25年ほど税理士業界にいるわけですが、「絶対に赤字にして」とか「黒字はイヤだ」といった言葉を、社長から直接言われたこともあります。それはそれとして。
会社が銀行から融資を受けるときに、赤字がよろしくないことは、多くの社長が知っていることでしょう。では、「税金は納めたくない。でも、おカネは借りたい」という場合にどうするか?
銀行に対して、「わざと赤字にしました」と言い訳をする社長がいます。本当は黒字にできるのだければ、税金を抑えるために赤字にしたのだ!という理屈です。はたして、この言い訳は通用するのか。
結論、通用しません。では、なぜ通用しないのか?その理由をまとめるのが、今回のお話です。
結論だけではなく、理由も理解することが、「わざと赤字」という愚行(あえて言います)をやめる動機になるでしょう。いま黒字の会社であれば、「引き続き黒字を出そう」という再認識の機会にもなるでしょう。
というわけで、「わざと赤字にしました」の言い訳が銀行に通じない理由は次のとおりです↓
- 赤字は赤字だから
- たしかめようがないから
- 結局、そういう思考だから
それではこのあと、順番に確認をしていきましょう。
「わざと赤字にしました」の言い訳は銀行に通じない理由
赤字は赤字だから
たとえば、決算日を目の前にして、100万円の利益が出ていることがわかりました。法人税率が30%だとしたら、30万円も税金を納めなければならないじゃないか!と、社長はおもいます。
そこで、経理担当者や顧問税理士に向かって、「なんとしてでも赤字にしろ」と指示をする社長。試行錯誤のうえ、10万円ほどの赤字に着地をしてめでたしめでたし。かとおもいきや…
銀行からおカネを借りようとしたところ、赤字の決算書を見た銀行担当者は渋い顔をしています。社長は用意していた言い訳をはじめました。
「本当は、100万円の黒字だったのですがね。税金を抑えるために、わざと赤字にしたんですよ」
それを聞いた銀行担当者はおもいます。
「赤字は赤字。返済原資が利益である以上、赤字の会社におカネは貸せない」
というわけで、さっぱりめでたくはない結末が待っています。税金を抑えるためであれなんであれ、「赤字は赤字」である点がポイントです。
100万円の黒字を出して、30万円の税金を納めれば、手元に70万円のおカネが残りました。それが、銀行から見たときの返済原資です。ところが、10万円の赤字ということは、手元におカネが残らなかったことを意味します。
むしろ、10万円のおカネが減ったのです。30万円の税金を納めなくて済んだものの、70万円残るはずのおカネが、逆に10万円減っているのですから、身もフタもないハナシだといえます。
銀行が、利益について見ているのは「結果」です。途中は黒字でした、という「過程」については評価されないことを覚えておきましょう。繰り返しになりますが、赤字は赤字です。
たしかめようがないから
では、100歩ゆずって、銀行が「わざと赤字にした」ことを考慮しようとしたとして。それでも、銀行には通用しない理由があります。それは、「たしかめようがないから」です。
つまり、会社(社長)が、本当に「わざと赤字にした」のかどうかを、たしかめようがありません。10万円の赤字は、社長が言うようにわざとなのかもしれないいっぽうで、別の要因があるのかもしれない。
たとえば、おもったよりも売上が伸びなかったとか、原価率が上がってしまったとか、固定費が増えたとか。利益が減少する要因はさまざまあります。
だとすれば、赤字になった要因は「わざと」ではなくて、もっと別の「根本的・本質的な事業上の問題」にあるのかもしれません。となると、事はさらに深刻だといえます。
言うまでもなく、「そもそも黒字を出すことが難しい会社」ということになるからですね。
それを理解している社長が、銀行の目を欺こうと「わざと赤字にした」と言い訳することもありえます。事業上の問題を隠すために、納税を嫌うフリをする可能性もあるわけです。
この点、銀行からすると、あるていど以上はたしかめようがありません。社長が言っていることは本当かもしれないけれど、ウソかもしれない。となると、銀行は商売柄(銀行員であれば職業柄)、慎重・堅実な見方をします。
ウソかもしれない、と考える。疑わしきは罰せよ、で考えます。ちなみに、本当かもしれないとしても、「赤字は赤字」と見られておしまいであることは前述のとおりです。
結局、そういう思考だから
と、ここまでゴチャゴチャと話をしてきましたが。要は、そんなに小難しいことではない、という一面もあります。それが、3つめの理由「結局、そういう思考だから」です。
「わざと赤字にしました」などとクチにする社長を、銀行は「納税思考が悪い」とみています。といっても、「納税は義務なのだから、どんどん納めるべし」といったことではありません。
銀行が考えているのは、「会社は納税しなければ、成長もできないし、大きくもなれない」ということです。これを聞いて、「?」と疑問におもうようであれば、少々勉強不足を自認しましょう。
少しだけ、専門的なお話をします。貸借対照表の「純資産」は、おもに「資本金」と「利益剰余金」とで構成されていて、後者は「創業時から現在までの税引後利益の累計額」です。
ということは、純資産を増やすのに、「税引後利益」が必要であることがわかります。税引後利益を増やすためには、税引前利益を増やさねばなりません。つまり、税金を納めなければ、税引後利益は増えないのです。
そうして、税金を納めてまで増えた利益剰余金によって、純資産が増えると、財務の安全性は高まります。純資産が増えるということは、すなわち「資産>負債」の状態が、より顕著になることだからです。
なので、銀行もまた「純資産(とくに利益剰余金)」を注視していることを理解しておきましょう。にもかかわらず、納税を嫌って、わざと赤字にしている社長を銀行はどうみるか?
納税の意味(純資産を増やす)がわかっていない社長なんだな。会社を成長させるつもりがない社長なんだな。つまり、納税思考が悪い社長だ、という見方をします。
銀行としては、融資を増やせる会社ではありませんから、おのずと嫌われることになるでしょう。
まとめ
税金は納めたくないから、わざと赤字にしました。という、社長がいます。黒字を重んじる銀行に対して、そのような言い訳は通じるのかどうなのか…?
結論、通用しません。というわけで、その理由もふまえて、お話をしてきました。「わざと赤字」などという愚行はやめること。いま黒字の会社であれば、「引き続き黒字を出そう」と考えるきっかけになったようでしたら幸いです。
- 赤字は赤字だから
- たしかめようがないから
- 結局、そういう思考だから