いっぱんに「過剰債務=借金が多い」という前提で、過剰債務といわれることがあります。ところが、本質的には「過剰債務=借金が多い」ではありません。ではなんなのか?というお話です。
借金が多いから会社はつぶれるのか?
脱コロナを迎え、いわゆるゼロゼロ融資(実質無利子・無保証融資)の返済も本格化。そのなかで、借りたおカネを返済できない会社が増えているとのニュースもあります。
その原因としていわれるのが「過剰債務」です。文字どおり、債務が過剰。つまり、借金が多すぎるから会社がつぶれるのだ、という理屈になります。はたして、本当にそうなのか。
結論、「過剰債務=借金が多い」ではありません。過剰債務とは、本質的には「返済が多い」ことだといえます。と聞いて、「それって同じことじゃないの?」とおもわれるかもですが。
違います。まるで違うお話なので、このあと確認をしていきましょう。なお、返済が多すぎるとは、具体的には次のとおりです↓
- しなくてもよい返済をしている
- 返済のスピードが速い
- プロパー融資ばかり返済している
これらについて、順番に解説をしていきます。
「過剰債務=返済が多い」とはどういうことか
しなくてもよい返済をしている
借金(=銀行借入)のなかには、返済しなくてもよいものがあります。「短期継続融資」と呼ばれている融資です。短期継続融資は、手形貸付と当座貸越とにわかれます。
まず、手形貸付とは、会社が銀行に対して手形を振り出すことで借入をする方法です。支払期日が来たら、銀行は審査のうえで問題がなければ、手形を書き換えます(=期日が延長される)。
これにより会社は、実質的には「借りっぱなし」となるので、返済しなくてもよくなるわけです。
いっぽう、当座貸越とは、銀行が決めた「極度額(=限度額)」の範囲内であれば、会社は自由に借りたり返したりできるという融資をいいます。やはり、「借りっぱなし」にすることが可能です。
なお、なんでもかんでも短期継続融資で借りられるわけではなく、短期継続融資の対象は「経常運転資金」となります。経常運転資金とは、「売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産(在庫)ー仕入債務(買掛金・支払手形)」で計算される金額です。
なので、経常運転資金が多い商売をしている会社は、経常運転資金分のおカネを短期継続融資で借りるか、毎月分割返済の融資で借りるかによって、資金繰りには大きな差が生じます。
当然、借りっぱなしにできる短期継続融資のほうがよいわけですから、社長は、経常運転資金分のおカネを短期継続融資で借りられるように、銀行と相談をしていきましょう。
同じおカネを借りるのでも、かたや返済がなく資金繰りがラクちん、かたや返済が多くて過剰債務になる。この違いを、理解しておくことが大切です。
ちなみに、短期継続融資については、積極的な銀行とそうでない銀行があります。また、短期継続融資を銀行から引き出すコツがあるものです。くわしくはこちらの動画も参考にどうぞ↓
返済のスピードが速い
たとえば、同じ1億円を借りている会社であっても、かたや毎月の返済は500万円、かたや100万円だとしたらどうでしょう。
このとき、前者は完済までのスピードが20ヶ月(1億円÷500万円)であり、後者は100ヶ月(1億円÷100万円)です。よって、前者のほうが、圧倒的に返済のスピードが速くなります。
結果として、前者(毎月500万円返済する)のほうが、資金繰りが厳しいことがわかるでしょう。返済のスピードが速いことが、過剰債務につながりやすいということでもあります。
では、どういった場合に返済のスピードが速くなるのか?
あたらしく融資を受けるときに、口数を増やすような借りかたをしているケースです。たとえば、返済期間5年で600万円の融資を受けるとします。毎月の返済額は10万円です。
300万円を返済したところで、あらたに、返済期間5年で300万円を借りるとします。この分の毎月返済額は5万円です。借入残高は既存分と合わせて600万円ですから、当初の金額と変わりません。
いっぽうで、あらたな融資の分だけ(毎月返済額5万円)増えるため、返済スピードが速くなってしまいます。
これに対して、あらためて600万円を借りて、そのうち300万円を既存の借入の返済にあてるとしたらどうでしょう。正味300万円を借りる点では代わりありません。
このとき、600万円の借入が当初と同じく返済期間5年であれば、毎月返済額は変わらず10万円です。返済スピードにも変わりはありません。ゆえに、社長は「借入の口数を増やさない」ことに気をつけることが大切です。
プロパー融資ばかり返済している
「過剰債務=返済が多い」という話をしました。返済が多いという点では、プロパー融資ばかり返済しているのも問題だといえます。
そもそも、民間金融機関からの融資には、信用保証協会の保証付き融資とプロパー融資とがあります。保証付き融資とは、会社が返済できなくなったときには、信用保証協会が肩代わりをする融資です。プロパー融資には、そういった信用保証協会の保証がありません。
よって、銀行からすれば、プロパー融資は保証付き融資に比べるとリスクが大きい融資であり、融資をするのであれば、まずはできるだけ保証付き融資にしたいと考えるものです。
会社からすれば、保証付き融資は借りやすいとはいっても、「制度上の限度額」があるため、いざというときのために温存しておくのがセオリーとなります。つまり、できるだけプロパー融資で借りたほうがよいわけです。
ところが、せっかくプロパー融資で借りることができたのに、プロパー融資ばかりを返済している会社があります。たとえば、ゼロゼロ融資の返済は据え置いているあいだ、プロパー融資の返済は続けていた会社です。
また、あらたに融資を受けるときに、プロパー融資ではなく保証付き融資ばかりとなれば、おのずとプロパー融資ばかりを返済していることになってしまいます。
結果として、保証付き融資は限度額に達し、いざというときには追加の融資が受けられず…というように、プロパー融資がなく、保証付き融資ばかりの状況もまた、過剰債務の1つのカタチといってよいでしょう。
したがって、社長は「借りやすいから」といって、保証付き融資ばかり借りないようにしなければいけません。プロパー融資で借りられるよう、銀行交渉が必要だということになります。
そのあたり、銀行からプロパー融資を引き出すのによいタイミングなど、動画にまとめましたので、よろしければ参考にどうぞ↓
まとめ
いっぱんに「過剰債務=借金が多い」という前提で、過剰債務といわれることがあります。ところが、本質的には「過剰債務=借金が多い」ではありません。ではなんなのか?というお話をしました。
結論は、「過剰債務=返済が多い」です。返済が多いとは、具体的にどういうことなのか。その解決のためにはどうしたらよいのかを、社長は押さえておきましょう。借金が多いようにおもえても、返済を改善することで解決できることはあります。
- しなくてもよい返済をしている
- 返済のスピードが速い
- プロパー融資ばかり返済している