借りてでも、年間売上高の半分の預金残高を目指しましょう。というと、「そんなに借りたら、えげつない利益率が必要になっちゃうでしょ」とのご意見もあるわけで。ずばり、反論します。
質問であり、意見でもある。
わたしはふだんから、「年間売上高の半分の預金残高を目指しましょう」といっています。とはいえ、それだけの預金を「利益」だけで貯めるのはタイヘンなので、銀行借入もおすすめをしているところです。
つまり、「借りられるだけ借りる」ことで、預金残高をできるだけ増やしておく。そのうえで、「年間売上高の半分の預金残高を目指しましょう」というハナシです。
ちなみに、それだけ多くの預金残高を目指すのは、それだけおカネがあれば、会社が攻めるにも守るにも困ることが少なくなるからです。誤解を恐れずにいえば、先立つものはおカネなのであり、おカネがあれば、打ち手の選択肢も広がります。
そのあたり、くわしいことはわたしが執筆をした、こちらの本もご参考にどうぞ(という宣伝)↓
それはさておき、この話に関連して、とあるご質問をいただきました。要約をすると、次のとおりです↓
「年間売上高の半分も借入をしたら、えげつない利益率が必要なのではないか?」
借りてでも預金残高を増やせというけれど、そんなことをしたら毎月の返済が多くてタイヘンになるんじゃないの、と。そんなご質問であり、ご意見でもあります。
半分正解で半分不正解です。
たとえば、年間売上高が1億円の会社が、その半分の5,000万円の預金を目指すとします。極端な例ではありますが、その5,000万円をすべて銀行借入で用意するとしたら…?
仮に、返済期間が5年の借入だとすれば、年間1,000万円の返済をしなければいけません。これを利益で返済するのだとしたら、税引後の利益で1,000万円が必要です。
法人税率を30%とした場合、税引前の利益に換算すると1,428万円となります。結果、売上高利益率14.28%を達成しなければ、年間1,000万円を返済していくことができない…それって、高すぎるハードルなのでは?
というのが、前述のご質問であり、ご意見です。でも、本当に高すぎるハードルなのでしょうか。
結論として、ハードルはそこまで高くはありません。なぜなら、銀行から借りたおカネを返済するのに、必ずしも利益を必要とはしないからです。
いやいや、何を言ってくれちゃってるの?借りたおカネの返済原資は利益でしょ。と、おもわれるかもしれませんが。それは、半分正解で半分不正解です。
いちばんわかりやすい例を挙げます。余裕資金の借入です。つまり、銀行から借りはするけれど、すぐには使わず、手元に置いておく。この場合の返済原資は、借りたおカネそのものになります。
1,000万円の余裕資金を借りれば、毎月の返済をしなければなりませんが、手元に置いてある1,000万円の中から返済をすればよいだけです。利益は必要ありません(利息の支払いは別として)。
余裕資金なんて名目で借入できるの?と、おもわれるかもしれませんが。可能です。その理由や、方法などについても、さきほど紹介した本に書いてありますのでご興味あれば(また宣伝)。
3度めの宣伝はウザすぎる。
返済するのに、必ずしも利益を必要としない例はまだあります。
いわゆる「経常運転資金」の借入です。経常運転資金とは、算式であらわすと「売掛金+棚卸資産ー買掛金」であり、会社が事業を続けている限り、資金繰りを回すために必要な金額となります。
というわけで、経常運転資金として2,000万円の銀行借入をするとしましょう。この返済に、2,000万円の利益が必要なのかといえば、必要ありません。
なぜなら、最終的に事業をやめたときには、売掛金と棚卸資産が現金化されることで、2,000万円を返済できるからです。
いやいや、それでも毎月の返済は必要でしょう?と、おもわれるかもしれませんが。経常運転資金については、「短期継続融資」という借りかたがあります。端的にいえば、借りっぱなしで毎月返済は無しの融資です。
具体的には、短期の手形貸付や当座貸越という方法がとられます。そのあたりもくわしくは…というハナシはもういいですね。本当はここで、くわしく説明をできればよいのですが、長文となり趣旨がブレてしまうので割愛させていただきます。
なにはともあれ、経常運転資金の借入については、返済にあたって必ずしも利益を必要とはしない、という点を理解しておきましょう。
むしろ狙うべきハードルです。
冒頭の会社の例に戻ります。年間売上高が1億円の会社です。
年間売上高の半分にあたる5,000万円を借入するにあたり、うち1,000万円は余裕資金として、うち2,000万円は経常運転資金として、残りの2,000万円は設備資金とした場合はどうでしょう。
設備資金の借入については、返済原資として利益が必要です。仮に返済期間が5年とすれば、毎年の返済額は400万円になります。返済に必要な税引後利益は400万円です。
では、税引き前の利益に換算すると…571万円になります。このときの売上高利益率は、5.71%です。けして高すぎるハードルではなく、むしろ狙うべきハードルとして適当とさえいえます。
したがって、年間売上高の半分の預金を用意するにあたり、年間売上高の半分の借入をすることになったとしても、えげつない利益率が求められるわけでありません。
借入を返済するのに、必ずしも利益を必要とはしないことを覚えておきましょう。
また、年間売上高の半分の預金を用意するにあたり、その全額が借入というわけでもないはずです。預金のいちぶは自己資金で調達することもあるわけですから、その場合には借入が減って返済も減るので、利益率のハードルはいっそう下がることになります。
まとめ
借りてでも、年間売上高の半分の預金残高を目指しましょう。というと、「そんなに借りたら、えげつない利益率が必要になっちゃうでしょ」とのご意見もあるわけで。ずばり、反論してみました。
借入の返済原資は利益。これは、半分正解ですが半分不正解であることを理解しておきましょう。そこがわかっていないと、必要な借入まで避けることになり、資金繰りを悪くしてしまいます。