なぜ税理士によって銀行融資のアドバイスが異なるのか?という疑問をかかえている社長がいます。その疑問はもっともなので、理由についてお話をしてみます。
何が正しいのか、と混乱する。
会社が銀行から融資を受けるにあたって、顧問税理士に相談をすることもあるでしょう(そのような調査結果もあります)。融資は受けられそうか、いくらくらい受けられそうか、など。
また、税理士のほうから社長に対して、銀行融資のアドバイスをすることもあるでしょう。ところが、ウチの顧問税理士が言っていることと、ほかの税理士が言っていることが違う…ということはあるものです。
実際に、わたし自身、相談者の社長から言われることがあります。
知人社長から聞いた、顧問税理士のアドバイスとは真逆だとか。YouTubeで、とある税理士がしゃべっていたこととも真逆だとか。とある税理士が書いている書籍の内容とも違う、とかとか。
これはいったい、どういうことなのか。何が正しいのか?と、社長は混乱してしまうかもしれません。ではなぜ、税理士によって銀行融資のアドバイスが異なるのかについて、お話をしてみます。
具体的には、次のとおりです↓
- ケースバイケースだから
- 本質がわかっていないから
- 銀行(員)もいろいろだから
それではこのあと、順番に解説をしていきます。
なぜ税理士によって銀行融資のアドバイスが異なるのか?
ケースバイケースだから
同じ中小企業であっても、さらにいえば、同じ業種・同じ規模の会社であったとしても、A社が置かれている状況と、B社が置かれている状況が完全に一致することはありません。
つまり、中小企業は百社百様の状況にあります。よって、A社には役立つアドバイスであっても、B社には役に立たないことはあるわけです。結果、A社に対するアドバイスと、B社に対するアドバイスとはおのずと異なることになります。
たとえば、「都市銀行から借りるのはやめましょう」というハナシがあります(都市銀行は、中小企業向けの銀行ではないから、地方銀行や信用金庫・信用組合から借りるべし)。
ところが、地域によっては「近くに都市銀行しかありません」という会社はあるものです。この場合には、「都市銀行から借りるのはやめましょう」とのアドバイスは役に立ちません。
代わりに、都市銀行からどのように借りるか、都市銀行とどのようにお付き合いをするか、といったアドバイスが役立ちます。
もう1つ、「借入シェア」を例に挙げてみましょう。この点、「複数の銀行から融資を受けることが大事」とのアドバイスがあります(1行だけだと、借入の選択肢が減ってしまうから)。
では、具体的に借入シェアをどのようにすればよいのか。借入シェアとは、借入総額に占める各銀行の借入残高の割合です。仮に3行から融資を受けている場合、それぞれの借入シェアをどれくらいにすればよいのか。
ある税理士は、「5割、3割、2割」が目安だという。別の税理士は、「7割、2割、1割」が目安だという。どちらかが正しくて、どちらかが間違えているかといえば、そうでもありません。
たしかに目安は存在するものの、最終的には「会社の規模(借入の規模)」などによるからです。
というように、税理士のアドバイスも「ケースバイケース」で変わります。したがって、税理士によってアドバイスが異なることが気になるのであれば、それぞれのアドバイスの「前提」を確認することです。
前提が変われば、アドバイスが異なるのは当然だとわかるでしょう。
本質がわかっていないから
いましがた、前提が変われば、アドバイスが異なるといいました。が、残念ながら(というべきでしょう)、税理士のアドバイスが誤っている…といえることもあります。
アドバイスをする税理士が、借入の「本質」を理解していない場合です。なお、借入の本質とは、「手元現金の最大化」にあります。ところが、単に「借入=借金」と見ている税理士もいます。
すると、アドバイスはどうなるか。「とにかくできるだけ早く、借金は返しましょう」といったアドバイスにもなるわけです。ちょっと、預金に余裕ができると、繰り上げ返済を勧められる、みたいな。
実際に、「顧問税理士から繰り上げ返済を勧められたが、どうすべきか」という相談は、けして少なくありません。
たしかに、銀行借入には「負債(借金)」という一面はあります。ですが、いっぽうで、銀行借入をすることで借入と同額のおカネが増える、という一面もあるのです。
事業は山あり谷あり。大企業とは違って、資金調達手段が限られる中小企業は、銀行借入によって手元現金を増やし、「谷」に備える必要があります。支払う利息を負担したとしても、です。
その銀行借入も、いつでもできるわけではありません。谷に沈んだ会社にまで、融資をしてくれる銀行などないのです。だとすれば、繰り上げ返済などしないほうがよいことがわかるでしょう。
また、事業が「山」であるときには、融資が受けやすくなります。銀行も、調子が良い会社に貸したいので、融資セールスを受けやすくもなります。
ではここで、「余計なおカネを借りるのはやめましょう」といったアドバイスはどうなのか?いまは余計だとしても、将来に渡って余計かどうかはわかりません。将来の「谷」に備えて、いまは余計でも借りておきましょう、というアドバイスもあるはずです。
むしろ、後者のアドバイスのほうが、借入の本質(手元現金の最大化)をとらえているといえます。
すべての税理士が、借入の本質をわかっているわけではありません。単に「借入=借金」と考えている場合があります。これは、以前のわたし自身がそうであったからこそ、自省の念を込めて、明言できるところです。
銀行(員)もいろいろだから
ひとくちに銀行といっても、いろいろです。いろいろな銀行があるし、いろいろな銀行員がいます。
ゆえに、同じ会社であっても、A銀行からは融資が受けられて、B銀行からは断られたということも起こります。C銀行では担保が必要だといわれたのに、D銀行では担保なしでも借りられた、ということもあるでしょう。
銀行の融資審査は、おおむね基準はいっしょではあるものの、銀行ごとに細かな違いがあったり、銀行ごとにそのときどきの思惑があったり、あるいは、銀行員の目利き力に差があったりもします。
結果として、同じようなケースであっても、銀行の対応が異なることはあるわけです。そういった「具体的な事例」をもとにした税理士がアドバイスをする場合、税理士によって言っていることが違う、と捉えられることはあるでしょう。
つまり、ある税理士はA銀行の例をもとにアドバイスをする、またある税理士はB銀行の例をもとにアドバイスする。A銀行とB銀行とは別の銀行ですから、仮に同じような前提であったとしても、対応が異なることはあるということです。
したがって、具体的な事例をもとにしたアドバイスには注意をしたほうがよいでしょう。これもまた、ケースバイケースということであり、必ずしも自社にあてはまるとは限りません。
大事なことは、事例の「結果」ではなく「根拠」です。なぜ、そのような結果にいたったのか、という「銀行の見方・考え方」が根拠にあたります。
結果をそのまま、自社に当てはめることがないようにしましょう。結果に汎用性はありません。いっぽうで、根拠(銀行の見方・考え方)には相応の汎用性があります。アドバイスの根拠に注目しましょう。
まとめ
なぜ税理士によって銀行融資のアドバイスが異なるのか?という疑問をかかえている社長がいます。その疑問はもっともなので、理由についてお話をしてみました。
場合によっては、税理士のアドバイスを真に受けないほうがよいことを理解しておきましょう。そのためには、社長自身も銀行融資の「基本」を勉強しておくのがおすすめです。
- ケースバイケースだから
- 本質がわかっていないから
- 銀行(員)もいろいろだから