銀行から融資を受けている会社の社長は、「いくらの利益があれば返済できるのか」を疑問におもうものです。が、その疑問自体に間違いがある!と、言われたらどうでしょう。解説します。
社長はムダに狼狽する
銀行から融資を受けている会社の社長は、こんなことを考えているかもしれません↓
「いくらの利益があれば返済できるのか?」
つまり、借りているおカネの返済を続けるのに、どれだけの利益を出さなければいけないのか、という疑問です。もっともらしい疑問ではあるものの、実は、疑問自体に間違いがあります。
なぜなら、返済をするにあたり、必ずしも利益が必要ではないからです。
いやいや、そんなバカな。借入の返済原資は利益だ、と何かの本には書いてあったし。ウチの顧問税理士からも、そう言われているんだ。と、おもわれるかもしれませんが。違うものは違うのです。
間違いに気づかずにいると、そこまで出す必要のない利益を目標に定めた挙げ句、そのハードルの高さで社長は「ムダに狼狽する」ことにもなりかねません。これが、意外と「あるある」です。
というわけで、このあと、いくらの利益があれば返済できるのかについて、解説をしていきます。自身の考え方に間違いがないか、あらためて確認しておきましょう。
まずは間違った考え方から
いくらの利益があれば返済できるのか?というと。まずは、次の算式がおもいうかびます↓
税引後利益 + 減価償却費 > 借入金返済額
税引後利益は、税金を払ったあと手元に残るおカネです。減価償却費を加算するのは、減価償却費が支出をともなう費用ではないので(支出は減価償却費の対象になる資産を買ったときにおわっている)、税引後利益に足し戻すためです。
その「税引後利益+減価償却費」が、借入金返済額を上回っていれば、返済を続けることができるよね。というのが、上記算式の意味するところとなります。では、算式を変形してみましょう↓
税引後利益 > 借入金返済額 ー 減価償却費
さらに、変形を進めます↓
税引前利益 ×(1ー 税率)> 借入金返済額 ー 減価償却費
もうさらに、変形を進めます↓
税引前利益 >(借入金返済額 ー 減価償却費)÷(1ー税率)
というわけで、「(借入金返済額 ー 減価償却費)÷(1ー税率)」だけの税引前利益があれば、借入金返済を続けられる、ということになります。では、具体的な数字をあてはめてみましょう。
借入金返済額 500万円、減価償却費 80万円、税率 30%とします。すると…
税引前利益 >(500万円 ー 80万円)÷(1ー 30%)
これによれば、「税引前利益 > 600万円」となるので、600万円の税引前利益があれば、借入金返済額 500万円の返済を続けられることになります。って、本当に?
この会社は、600万円の税引前利益がなければいけないのかといえば、必ずしもそうとはいえません。実は、もっと少ない税引前利益であっても、借入金返済を続けられることもあります。
使っていないなら返せばいい
そもそも、銀行から融資を受けたからといって、借りたおカネをすぐに使うとは限りません。資金繰りに余裕をもたせるために(いわゆる手元資金として)、融資を受けることもあるはずです。
たとえば、手元資金として420万円の融資を受けていた場合はどうでしょう。返済期間3年とすれば、毎年の借入金返済額は140万円です。これを、さきほどの算式にあてはめると…
税引前利益 > 140万円 ÷(1ー 30%)
これによれば、「税引前利益 > 200万円」となるので、返済には200万円の税引前利益が必要…なのかといえば、そうではありません。なぜなら、借りた420万円で返せばよいだけだからです。
手元資金とは、使わずに置いてあるおカネであり、その返済は、使わずに置いてあるおカネのなかからすればいい。だとすれば、利益はまったく必要ないことがわかるでしょう。
したがって、前述の事例(借入金返済額500万円)について、借入金返済額500万円のうち140万円が手元資金として借りたおカネの返済だとすれば、必要だとおもわれた税引前利益600万円うち200万円は不要です。
つまり、400万円の税引前利益があれば、返済を続けることができます。にもかかわらず、600万円の税引前利益が必要だと考えていると、社長はムダに狼狽することになるわけです。
以上を算式にまとめると↓
税引前利益 >(借入金返済額 ー 手元資金の借入返済額 ー 減価償却費)÷(1ー税率)
検算のために、数字をあてめてみます↓
税引前利益 >(500万円 ー 140万円 ー 80万円)÷(1ー 税率)
結果は、やっぱり「税引前利益 > 400万円」となります。というわけで、いくら融資を受けても、借りたおカネを使っていないのであれば、それを返せばいいので利益はいりません。
経常運転資金分も利益はいらない
手元資金分の借入については、返済するのに利益はいらないといいました。利益がいらない借入はまだあります。それは、経常運転資金分の借入です。ちなみに、経常運転資金とは…
経常運転資金 = 売掛金 + 棚卸資産 ー 買掛金
このうち、売掛金と棚卸資産は、現金化されるのを待っている金額です。いっぽうで、買掛金は、支払を待ってもらっている金額です。それらを相殺した経常運転資金は、会社が事業を続けている限り「立て替えが必要な金額」をあらわします。
もし、経常運転資金が350万円だとしたら、350万円のおカネを用意しておかないと、資金繰りがまわらなくなる(人件費や家賃など経費の支払いができなくなる)…ということです。
そこで、会社は経常運転資金分のおカネを、銀行から借入するのがセオリーであり、銀行もそれをわかっているので、経常運転資金分の融資については積極的に考えています。
では、経常運転資金分として350万円の融資を受けたらどうでしょう。返済期間5年とすれば、毎年の借入金返済額は70万円です。これを、前述した算式にあてはめると…
税引前利益 > 70万円 ÷(1ー 30%)
これによれば、「税引前利益 > 100万円」となるので、返済には100万円の税引前利益が必要…なのかといえば、そうではありません。なぜなら、100万円は本質的には返す必要がないからです。
経常運転資金とは、「売掛金 + 棚卸資産 ー 買掛金」だといいました。だとすれば、事業をやめるときには、売掛金と棚卸資産が現金化されることで、経常運転資金分の借入は返済できます。
つまり、経常運転資金分の借入を返済するのに利益は必要ないことがわかるでしょう。
したがって、前述の事例(借入金返済額500万円)について、借入金返済額500万円のうち70万円が経常運転資金として借りたおカネの返済だとすれば、必要だとおもわれた税引前利益600万円うち100万円は不要です。
前述した手元資金分の返済に不要な利益200万円も加味すると、300万円の税引前利益があれば、返済を続けることができることになります。にもかかわらず、600万円の税引前利益が必要だと考えていると、社長はやはりムダに狼狽することになるわけです。
以上を算式にまとめると↓
税引前利益 >(借入金返済額 ー 手元資金の借入返済額 ー 経常運転資金の借入返済額 ー 減価償却費)÷(1ー税率)
検算のために、数字をあてめてみます↓
税引前利益 >(500万円 ー 140万円 ー 70万円 ー 80万円)÷(1ー 税率)
結果は、もちろん「税引前利益 > 300万円」となります。というわけで、経常運転資金分の融資を受けても、最終的には売掛金と棚卸資産を現金化して返済できるので、利益はいりません。
とはいえ、「事業を続けているのであれば、毎月の返済は必要だろう」といわれれば、そのとおりです。ただし、経常運転資金分の融資については、返済があるていど進めば、返済をした分の金額については借り直すことが容易です。
折り返し融資などと呼ばれるものであり、銀行も前向きに対応してくれます。経常運転資金分のおカネが会社に必要なことを、銀行もわかっているからです。定期的に折り返し融資を受けることで、実質的には返済なしの状況に近づきます。
また、最近では「借りっぱなし」にできる、手形貸付や当座貸越による「短期継続融資」という借りかたも増えてきました。これであれば、実際にも返済額は発生しません。
利益を必要とする返済の正体とは
さいごに、確認です。さきほどの事例では、手元資金分の借入、経常運転資金分の借入を考慮すると、300万円の税引前利益が必要だということになりました。
では、その300万円の税引前利益が必要になる返済とは、どのような借入の返済なのでしょうか。
最たるものは、設備投資をするための借入です(いわゆる設備資金の借入)。この場合、設備投資によって増えた利益で、返済をすることが必要になります。ゆえに、設備資金の借入では、設備投資計画(設備投資によって利益が出るのか)が重視されるのです。
本来的には、以上が利益を必要とする返済の正体なのですが、現実にはほかにもあります。たとえば、赤字補てんのための借入にともなう返済です。これには、返済に利益を要します。
それはさておき、原則的には、利益を必要とする返済は「設備資金の借入」だけ、ということを理解しておきましょう。だとすれば、必要な利益を過度に見積もることもなくなります。
まとめ
銀行から融資を受けている会社の社長は、「いくらの利益があれば返済できるのか」を疑問におもうものです。が、その疑問自体に間違いがある!と、言われたらどうでしょう。
というわけで、そのあたりについて解説をしました。
間違いに気づかずにいると、そこまで出す必要のない利益を目標に定めた挙げ句、そのハードルの高さで社長は「ムダに狼狽する」ことにもなりかねません。じゅうぶんに気をつけましょう。