民間金融機関のプロパー融資では、経営者保証なしの融資が急増しています。では、信用保証協会の保証付き融資はどうなのか?保証料上乗せで経営者保証を不要とする制度ができました、というお話をしていきます。
経営者保証解除の波は保証付き融資にも
会社の銀行融資について。経営者保証なしの融資が、かつてないまでに増えています。民間金融機関の新規融資のうち、経営者保証なしの融資が占める割合はほぼ5割です。
つい5年ほど前には、2割を下回っていたことを考えれば、急増といってもよいでしょう。これには、金融庁による「後押し」も影響しています。いま、銀行は「経営者保証なし」の融資を求められているわけです。
とはいえ、これはプロパー融資の話であって、信用保証協会の保証付き融資はどうかといえば…依然、7割が経営者保証を必要としている状況にあります。そんな状況を打破すべく、2024年1月23日に、新制度の公表がありました。
それが、「保証料を上乗せすることで、経営者保証の提供を不要とする信用保証制度」です。なので、社長が保証料の上乗せを選択すれば、ということが前提になります。つまり、通常の保証付き融資に比べるとコスト負担が大きくなるわけです。
詳しくは後述しますが、具体的には0.25%または0.45%の上乗せとなります。ただし、3年間は国からの補助があるのは注目でしょう。
でもさぁ、保証料の上乗せなんかしなくても、経営者保証なしで保証付き融資は受けられなかったっけ?と、おもわれるかもしれません。そのあたりもふまえて、このあと解説をしていきます。
新制度解説/保証料上乗せによる経営者保証なしの信用保証制度
まずは、新制度について、いま現在(2024年1月25日)わかっていることをまとめてみます。
利用できる会社の要件
おもなところでは、次のとおりです↓
- 過去2年間において、貸借対照表、損益計算書などその他財産、損益又は資金繰りの状況を示す書類を金融機関の求めに応じて提出していること
- 直近の決算書において代表者への貸付金などがなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと
- 直近の決算において債務超過ではない(純資産の額がゼロ以上である)こと又は直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字ではないこと。
- 上記①及び②については継続的に充足することを誓約する書面を提出していること。
①については、「資金繰りの状況を示す書類」がポイントです。たとえば、資金繰り表が該当します。資金繰り表をつくっていない・つくれない会社は、本制度を利用できない可能性が高まります。
②については、「代表者への貸付金など」がポイントです。仮払金や未収入金なども含むとされており、何にせよ、社長が会社のおカネを個人的に流用している場合には、本制度を利用できません。また、役員報酬などが高額すぎる(会社は大赤字とか)のもダメだとされています。
③については、「債務超過ではない」と「減価償却前経常利益の連続赤字」がポイントです。債務超過とは「資産<負債」の状態であり、純資産がマイナスの状態をいいます。減価償却前経常利益は、経常利益に減価償却費を足し戻した金額です。いわゆるキャッシュフローを見ています。
というわけで、②と③については、自社の決算書を確認したうえで、要件を満たしていないようであれば、改善をはかりましょう。
なお、「①及び②については継続的に充足することを誓約する書面を提出」というのも、見逃せないポイントです。将来にわたって、要件を満たす必要があることを理解しておきましょう。
上乗せする保証料
新制度を利用するには、保証料の上乗せが必要になります。具体的には、前述した要件のうち③について、「債務超過ではない」と「減価償却前経常利益の連続赤字」の両方を満たしている場合には上乗せ0.25%、どちらか一方のみを満たしている場合には上乗せ0.45%です。
3年間の保証料軽減措置
前述した保証料の上乗せ分は、新制度開始後3年間は軽減措置があります。保証料のいちぶを国が補助してくれるというものであり、具体的には次のとおりです↓
- 2025年3月末までの申し込み分…0.15%を補助
- 2026年3月末までの申し込み分…0.10%を補助
- 2027年3月末までの申し込み分…0.05%を補助
以上のとおり、早く申し込みをしたほうが、保証料の補助額が大きくておトクだということになります。
上乗せされる保証料はいくらくらい?
にしても、保証料は「率」でいわれてもよくわからん…「額」にするといくらいくらいなの?と、おもわれるかもしれません。
参考として、1,000万円を返済期間5年で借りる例で考えてみましょう。前述した要件の③のうち、両方を満たしている場合、本来の上乗せは0.25%です。そのうえで、2025年3月末までの申込みであれば、補助が0.15%なので、実際の上乗せは0.10%となります。
この場合、上乗せにより増える保証料の額は3万円弱です。返済期間5年なので、1年あたり6,000円くらいの負担で、経営者保証なしにできるのであればよし!とも考えられるでしょう。
ちなみに、要件の一方のみを満たしている場合、本来の上乗せは0.45%です。そのうえで、2025年3月末までの申込みであれば、補助が0.15%なので、実際の上乗せは0.30%となります。
この場合、上乗せにより増える保証料の額は8万円強です。そのあたりもふまえて、新制度の利用を検討してみるとよいでしょう。
保証料の上乗せなしでも経営者保証なしにできる
ここまで、新制度のお話をしてきました。繰り返しですが、新制度は「保証料の上乗せを選択する」ことで、経営者保証なしの保証付き融資を利用できる制度です。
とはいえ、これまでも、経営者保証なしで保証付き融資を利用することはできました。この点、信用保証協会では、「経営者保証に関するガイドライン」にもとづき、経営者保証を不要とする取り扱いを公表しています。
おもなところでは、次のとおりです↓
- 金融機関連携型
- 財務要件型
- 担保拡充型
①については、保証付き融資を利用する銀行が、経営者保証なし・担保なしのプロパー融資をしていること、一定の財務要件を満たしている必要があります。
②については、特定社債保証制度(私募債)と同様の財務要件(自己資本比率20%以上など)を満たしている必要があります。
③については、不動産の担保提供があって、十分な保全が図られる必要があります。
というわけで、端的にいえば「高いハードル」が課せられています。これに比べると、新制度はハードルが下げられているのが特徴であり、代わりに保証料負担をしいることで、経営者保証を不要にしているわけです。
なので、新制度がはじまって以降も、できるのであれば、保証料の上乗せなしで経営者保証なしにできるよう努めるのがよいでしょう。
まとめ
民間金融機関のプロパー融資では、経営者保証なしの融資が急増しています。では、信用保証協会の保証付き融資はどうなのか?
保証料上乗せで経営者保証を不要とする制度ができました、というお話をしました。制度の概要を理解しつつ、従来の取り扱い(保証料の上乗せ不要)との違いも押さえておきましょう。
そのうえで、社長は「経営者保証なしの融資」を増やすことが大切になります。万一の備えとなるだけではなく、良い会社の証にもなるのが「経営者保証なしの融資」です。