社長は、できるだけ多くの役員報酬をとりましょう!とのアドバイスもありますが。社長の役員報酬は多いほど問題が生じやすい理由について、3つの論点から説明をしていきます。
できるだけ多くの役員報酬を
ちまたには、「社長の役員報酬は多いほうがいいのか?」との疑問があります。中小企業にあっては「社長=株主」であり、社長は役員報酬を自由に決められるがゆえの疑問ともいえるでしょう。
結論、社長の役員報酬は多いほど問題が生じやすい。これが、わたしの考えです。その理由を、3つの論点から説明をしようというのが、このあとのお話になります。
ややもすると、「社長は、できるだけ多くの役員報酬をとりましょう!」とのアドバイスもあるわけで。それも1つの考え方ではありますが、行き過ぎないようバランスをとるためにも、社長の役員報酬は多いほど問題が生じやすい理由を押さえておきましょう。次のとおりです↓
- 論点1・節税
- 論点2・利益
- 論点3・サガ
これらについて、順番に説明をしていきます。
社長の役員報酬は多いほど問題が生じやすい理由
論点1・節税
社長の役員報酬は多いほど問題が生じやすい理由として、まず、節税の論点が挙げられます。節税は、社長にとっても気になるポイントでしょう。
この点、端的にいえば、役員報酬が多いほど節税が遠ざかることになります。なお、ここでいう節税の対象は、「社長が払う所得税」と「会社が払う法人税」との合計額です。
社長が節税を考えるのであれば、「その合計額が少なくなればいいなぁ」ということになります。
ここで忘れてはいけないのが、所得税の累進税率です。役員報酬が高くなるほど、所得税の税率が上がっていきます(下は5%から上は45%まで)。結果として、役員報酬が多いほど、社長が払う所得税は多くなるのです。
いっぽうの法人税は、税金がかかる対象の「利益」がいくらであろうと税率は一律です(厳密には一律ではありませんが、所得税ほどの幅はありません)。
だとすれば、役員報酬が多いほど、「社長が払う所得税」と「会社が払う法人税」との合計額が大きくなることはわかるでしょう。逆に、役員報酬を少なくして会社に利益を残すほうが、「社長が払う所得税」と「会社が払う法人税」との合計額が少なくなります。
ただし、節税をしようとするほど、社長の役員報酬が少なくなるので、社長の生活費が少なくなってしまうのが問題です。なので、最終的には、社長の生活費と節税とのバランスをとることになります。
それはさておき、節税の論点では、社長の役員報酬は多いほど問題が生じやすい(税金が多くなる)ことを理解しておきましょう。
論点2・利益
社長にとって、会社の業績は大切なものであるはずです。たとえば、銀行融資。会社の業績が悪ければ、融資が受けられずに資金繰りが厳しくなってしまいます。
では、社長の役員報酬が多いとどうなるか?当然、会社の利益は少なくなります。役員報酬は「費用」ですから、役員報酬が多くなるほど、会社の利益は少なくなるのです。
この点、銀行は「社長の役員報酬+利益」で会社の業績を評価している、というハナシを聞いたことがあるかもしれません。
社長は役員報酬を自由に決められるのだから、「社長の役員報酬+利益」の範囲内で、役員報酬を調整できることになります。なので、銀行は「会社の収益力」を、利益ではなく、「社長の役員報酬+利益」ではかっている。というのは、そのとおりです。
だとすれば、社長の役員報酬は多くても少なくても、会社の収益力の評価は変わりません。ただし、銀行が見ている会社の業績は「利益」だけではない、という点に注意が必要です。
では、何を見ているのか?ずばり、利益剰余金です。利益剰余金とは、創業から現在までの「税引後利益の累計額」であり、貸借対照表の純資産の部に記載されています。
では、もしも、赤字(利益がマイナス)が続いたらどうなるか?利益剰余金はマイナスになり、純資産の部を減らすことになります。同じく純資産の部を構成する資本金よりも、利益剰余金のマイナスが大きくなると、純資産の部自体がマイナスになる…これを債務超過と呼びます。
言い換えると、「資産<負債」の状態であり、銀行は債務超過を嫌い、純資産が大きいことを好むのです。だとすれば、できるだけ利益を出して、利益剰余金を増やしおくのがよいとわかるでしょう。
また、銀行融資を受けるかどうかにかかわらず、債務超過は会社が避けるべき状態であり、会社を持続・成長させるためには、利益を出して利益剰余金を積み上げることが大切です。
役員報酬を多くとりたい社長の気持ちはわかりますが、役員報酬が多いほど、利益剰余金が少なくなることは理解しておきましょう。
論点3・サガ
さきほど、こんなことをいいました。社長は役員報酬を自由に決められるのだから、「社長の役員報酬+利益」の範囲内で、役員報酬を調整できる、という話です。
そこで社長は、会社の調子が良いとき(利益が多いとき)には役員報酬を増やす代わりに、会社の調子が悪いとき(利益が少ないとき)には役員報酬を減らすことでしのごうとします。
事業は山あり谷ありですから、調子が良いときもあれば、悪いときもあるでしょう。なので、会社の調子が悪く、役員報酬を減らさねばならないこともあるわけです。
ところが、調子の良いときに役員報酬を上げることで、いちど上がった生活水準は下げることがなかなか難しい…というハナシを見聞きします。これは、理屈はさておき、人間のサガでしょう。
もちろん、100人が100人、生活水準を下げられないわけではないにしても、全体としては、いちど上がった生活水準は下げにくい「傾向」にある、ということです。
だからといって、役員報酬を多くすること自体を否定するものではありませんが、じゅうぶんに気をつけたほうがよいポイントとしてお話をしました。
この点、前述した論点である、節税や利益を考慮して役員報酬を決めるのであれば、役員報酬が多すぎて、生活水準が上がりすぎるのを抑えることにも役立つはずです。
まとめ
社長は、できるだけ多くの役員報酬をとりましょう!とのアドバイスもありますが。社長の役員報酬は多いほど問題が生じやすい理由について、3つの論点から説明をしてきました。
中小企業は、社長が役員報酬を自由に決められるだけに、注意が必要です。社長個人としては、役員報酬が多いに越したことはないために、多くとることで問題が生じているケースが散見されます。
- 論点1・節税
- 論点2・利益
- 論点3・サガ